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妄想ウイスキー《熟成庫の湿度管理》と、日本のウイスキー貯蔵の多様性

■エンジェルズ・シェア=0%の衝撃!

前回の記事で、「桜尾蒸留所の戸河内貯蔵庫では、エンジェルズ・シェアが発生しない」ということをご紹介しました。

ハンパじゃないエンジェルズ・シェア 桜尾蒸留所《戸河内貯蔵庫》|チャーリー / ウイスキー日記|note

この中で、原酒の歩留まりが良いと「売上・利益に直結する」と書きましたが

エンジェルズ・シェア = 0%ということは?

の妄想が止まらないので、今回も『熟成環境』についてのお話です。


■熟成環境の温度管理

スコットランドや日本では、ウイスキー熟成庫は人による温度管理をせずに、季節の気温任せです。
そして、それが、その土地の気候風土が原酒に宿ることに繋がります。

ジャパニーズウイスキーは、日本の四季が育むお酒。|チャーリー / ウイスキー日記|note

一方で、バーボンやカナディアンでは、熟成庫にヒーターを入れて、あまり寒くなりすぎないように「温度管理」をすることがあります。

こういうところにも、ウイスキーづくりの思想の違いが出るなぁと思います。

《スコットランド・日本》
気候風土に酒質を委ねる部分が大きい。

《アメリカ》
つくり手による酒質のコントロール部分が大きい。

であれば、「湿度管理」も可能なのかなーと思ってみました。


■熟成環境の湿度管理

熟成庫の湿度管理をしているという話は、聞いたことがないですが、理論上は可能ではないでしょうか?

でっかい加湿器(夏場に公園とかショッピングモールでミストを出しているような機材で良いと思いますが)を入れて、熟成庫の中の湿度を、限りなく高くしてみる。

そうすれば、エンジェルズ・シェアによる、熟成原酒の目減りは、かなり抑えられるだろうと思います。


■熟成環境の臭気管理

その加湿に使う水ですが、蒸溜所の「仕込み水」であれば、原酒製造に使われた水と同じものなので、変な影響を原酒に与えないのではないかと思います。

一方で、人工的に貯蔵庫を加湿する場合、あえてその水に「海水」を使ったらどうなるでしょうか?

例えば、塩気を感じるウイスキーの代表的なものとして、ボウモアがあります。

ボウモアの第一貯蔵庫(ナンバーワン・ヴォルト)は、現存する世界最古のウイスキー貯蔵庫とも言われますが、海際の海抜0mに位置します。
波しぶきを受けるような場所に位置するその貯蔵庫内は、海水の塩気を感じるような環境で、その潮気が熟成中のウイスキー原酒に入り込むとされます。

なので、貯蔵庫内を、海水で加湿すれば、そのような「塩気」を感じるアイラモルト的な味わいをつくり出せるかも知れませんね。

また、まったく違う発想としては、「貯蔵庫内を1日1回、ピートの煙で充満」させてみたらどうでしょうか?

熟成庫内の湿度を高めた上で、ピートの煙を充満させれば、まずピートの薫香が空気中の水分に取り込まれるはずです。

その後、そのスモーキーフレーバーを帯びた湿気=水分が、樽の木材を通して、中のウイスキー原酒の中に吸収されます。

そうすれば、スモーキー麦芽由来でなく、熟成環境由来のスモーキーフレーバーを、ウイスキー原酒につけることができるのではないでしょうか?

ただ、あまり人為的過ぎるのもロマンがないですがねぇ。。


■熟成環境とウイスキーの酒質

ウイスキー製造において、「熟成工程がそのウイスキーの味わいに与える影響は8割」という人がいるくらい、ウイスキーにとって、熟成環境が与える影響は大きいです。

一方で、スコットランドと、日本は、貯蔵庫の中を人為的に温度管理しないがために、「その気候風土の影響を受けやすい」です。

そして、日本はスコットランドよりも圧倒的に国土が広いので(スコットランドの面積≒北海道の面積)、「熟成環境による多様性」においては日本に軍配が上がると思います。

そういえば、スコッチウイスキーでは、「蒸溜所=蒸溜する場所」にフィーチャーした商品は多いです(いわゆるシングルモルト・ウイスキー)が、「貯蔵庫=熟成させる場所」にフィーチャーした商品があまりないと思います。

たとえば、アイラ島のカリラ蒸溜所は、その全てをアイラ島内ではなく、スコットランド本島のディアジオ社の集中貯蔵庫で熟成しているそうです。

ただ、仮に、カリラ蒸溜所内に多少なりとも貯蔵庫ができたとしたら、本土の集中貯蔵庫とでは、個性の違う原酒に仕上がると思います。
そういった「熟成環境」にフィーチャーした商品があれば面白いのになぁと思います。


■日本は、1企業でも「ウイスキーの熟成環境」に多様性を持たせている

一方で日本。

まず、前回の記事でも書いている桜尾蒸留所ですが、蒸溜所は1ケ所ですが、貯蔵庫が2ケ所あることによって、2つのシングルモルト・ブランド「桜尾」「戸河内」を発売しているわけです。
これは、大変面白いブランド戦略だなぁと思います。

そして、本坊酒造
長野県・マルス信州蒸溜所、鹿児島県・マルス津貫蒸溜所の2ケ所のモルト蒸溜所と、そこに併設された貯蔵庫を持ちます。

そして特筆すべきは、屋久島にもウイスキー貯蔵庫を持っているのです!

2モルト蒸溜所・3貯蔵庫(高地の信州、南九州の薩摩、亜熱帯の屋久島)体制。

聞いているだけで、バリエーション豊富な原酒がイメージできます!!
もともと焼酎の貯蔵庫「屋久島伝承蔵」があり、その中にマルス屋久島エイジングセラーを設けたそうです。

上手に、自社の強みを生かしていますね!


■自社の貯蔵庫で追加熟成

さらに、秩父蒸溜所。

秩父蒸溜所でお伝えしたいのは、イチローズモルト・ホワイトラベルなどワールド・ブレンディッド・ウイスキーをつくっているので、同社は海外原酒を輸入しています。

ただ秩父蒸溜所では、その輸入した海外原酒はそのままブレンドに使うことはなく、必ず秩父の貯蔵庫で追加の熟成をさせてから使うそうです。

この追加の熟成により、秩父の気候風土がその輸入された原酒に宿るわけで、それはもはや「海外原酒」ではなく、外国と日本の「ハーフ原酒」とでも言うことができる、オリジナリティを持ったものではないでしょうか?


■法律が絡むのでウイスキー貯蔵庫は簡単につくれない!

これだけ聞くと、じゃあ色々なところに持って行ってウイスキー樽を熟成させたら面白いじゃん!という話になります。

海外では「世界一周する船にウイスキー樽を積んで熟成させた」なんて話もあります。

ただ、日本では(海外でもですが)お酒の「製造・販売・保管」については、厳しく法律で定められています。

お酒は製造するメーカーが、酒税を国に納めないといけないからです。

性悪説としては、「この樽をあっちに持って行ったはずなんですけど、どっか行っちゃったみたいで・・・」とか言い訳して、脱税を試みる悪いメーカーもいるかも知れません。

そのため、「面白そうだから、チョットこの樽をあそこに置いてみよっと」というわけにはいかないのです。

ただ、クラフトウイスキー蒸溜所、クラフトビール醸造所、クラフトワイナリーなどが日本で急増する中、この「ウイスキーの貯蔵庫」については、もうちょっとフレキシブルになっても良いのかな?とも思います。

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