お酒づくりは女性から男性へ。《③日本酒編》
■前回までの振り返り
お酒づくりは、昔(自家製造していた時代)は、女性がつくり手だったことをご紹介しました。
どれもこれも、自家製酒は女性がメインのつくり手として、はじまったことが多いようです。
それでは日本の歴史を見てみましょう!
■杜氏
杜氏とは日本酒のつくり手の「親方」のことです。
そのため、杜氏さんは1つの酒蔵につき、1人しかいません!
※私は恥ずかしながら、最近まで「日本酒のつくり手=スタッフ全般」を杜氏と呼ぶものと勘違いしており、1つの酒蔵に杜氏さんは何人もいるものだと思っていました・・・
で、この「杜氏トウジ」の語源ですが、いくつかあるそうです。
その中で、有力な説が「刀自トジ」という古い言葉をルーツとして、その音だけが残って「杜氏トウジ」へと言葉が変わったというものです。
■刀自トジとは?
刀自(=主婦)が酒をつくるさらに前の時代でも、特に古代の神事や祭礼においては、巫女や宮中の女官といった女性が、酒づくりにおいて重要な役割を担っていました。
■口噛み酒
日本や東アジアでは、麹菌(カビの一種)によって穀物(例えば米)のデンプンを糖分に分解する技術が編み出されるまで、唾液(の糖化酵素)によって、デンプンの糖化を行っていました。
これが「口噛み酒」と呼ばれるものです。
(口噛み酒については、いつか別途で記事化したいと思います。)
口噛み酒は、古代の日本や、戦前の東アジアや東南アジアに存在していました。
そして、「お酒をつくる」という行為自体が、古代において神聖なもの(儀式)としれ扱われていました。
そのため、口噛み酒をつくるための「噛み役」は、『容姿端麗な少女』が選抜されたりすることがありました。
(噛み役の条件が処女だったり初潮前だったりと、そのエリアによってマチマチです。普通に男女の区別なく、男性が噛み役を担うエリアもあります。)
こういう背景があった上での、映画『君の名は。』に口噛み酒のシーンがあるんです!
口噛み酒は実在する?日本酒の起源がなぜ『君の名は。』に登場したのか徹底解説 | ciatr[シアター]
■刀自(女性)→杜氏(男性)
話を戻して、このように日本でも古代においては女性が酒づくりをしていたようです。
それが、酒づくりが自家消費から発展して、「職業としての酒づくり」へと産業化してくると、経済的観点から男性が職業(生業)として酒蔵(≒酒づくり)を営むようになります。
また、産業化すると装置などが大きくなり、それを使いこなすために、力持ちが必要となるので、肉体的観点からも男性が酒づくりを担うようになった側面もあるようです。
日本酒づくりが、完全に男性社会になったのは、酒造りが高度に産業化した江戸時代初頭からだそうです。
それまで日本酒は年間を通してつくられていましたが、江戸時代初頭にはより安定した酒質をつくることのできる「寒造り」という冬の寒い時期につくる技法が、日本酒の本場:灘で発明されました。
寒造りが発明されると、幕府もお酒の腐造防止のため、それを推奨。
という、今に繋がる男性社会の「日本酒づくり=杜氏社会」が形成されました。
■とはいうものの
とはいうものの、この杜氏社会の誕生で女性による酒造りが無くなったわけではありません。
1899年に自家製酒(≒どぶろく)醸造禁止令が出されるまで、農家では「漬物をつくる」との同じ感覚で主婦が「どぶろく」をつくっていました。
この自家醸造禁止は、日清戦争後の政府の財政破綻回避と、日露戦争への準備のため、「酒税徴収の強化」で歳入を確保するためのものでした。
(古くから「売るためのお酒」は日本でも課税されていましたが、自宅で飲む分をつくるのは自由でした。)
1889年に自家製酒醸造禁止令が出された後も、農村では主婦が隠れてどぶろくをつくっていました。
そして、それを取り締まりに来る役人と農民との刃傷沙汰も多かったそうです。
結果的には強烈な締め付けにより、日本における主婦の酒造りは、幕を閉じたのです。
この自家製酒の醸造禁止令が、日本古来の酒文化を断ち切ってしまった影響は甚大だと、個人的には思っています。
これについても、いつか記事化したいと思います。
■話が迷走しましたが
このように日本酒でも、ビールやミードと同様に、自家醸造の時代は女性(主婦)がその酒づくりの中心だったのです!
そして、日本酒でも、ビール(海外&日本)でも一旦は男性社会となった「酒づくり」ですが、最近では、女性杜氏や女性ブルワーが、次々に誕生しています。
これからの更なる女性の進出が楽しみですね!
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