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原材料を深掘り! 『ニッカ・ザ・グレーン』⑩

■「ニッカ・ザ・グレーン」について解説する10回目です。

・ニッカウイスキーがチャレンジングな商品を限定発売する、ニッカ・ディスカバリー・シリーズ《第三弾》で、2023年3月、「ニッカ・ザ・グレーン」が発売された。

・これは複数のグレーン蒸溜所の原酒をブレンドした「ブレンディッド・グレーンウイスキー」であり、非常に珍しいスペック。

◇ニッカ・ザ・グレーン 4蒸溜所/7原酒

《蒸溜所1》ニッカ・宮城峡蒸溜所
 ①宮城峡カフェモルト
 ②宮城峡カフェグレーン

《蒸溜所2》ニッカ 旧・西宮蒸溜所
 ③西宮カフェモルト
 ④西宮カフェグレーン

《蒸溜所3》さつま司蒸溜蔵
 ⑤未発芽大麦グレーン
 ⑥コーン&ライ・グレーン

《蒸溜所4》ニッカウイスキー門司工場
 ⑦未発芽大麦グレーン

「普通は最初にやるでしょ?」という話ですが、今回はニッカ・ザ・グレーンに使われているグレーンウイスキー原酒の原材料についてご紹介します。


■7つの原酒の原材料は?

《蒸溜所1》ニッカ・宮城峡蒸溜所
 ①宮城峡カフェモルト = 大麦麦芽
 ②宮城峡カフェグレーン = コーン(+少量の大麦麦芽)

《蒸溜所2》旧・ニッカ 西宮蒸溜所
 ③西宮カフェモルト = 大麦麦芽
 ④西宮カフェグレーン = コーン(+少量の大麦麦芽)

《蒸溜所3》さつま司蒸溜蔵
 ⑤未発芽大麦グレーン = 未発芽の大麦(+少量の大麦麦芽)
 ⑥コーン&ライ・グレーン = コーン+ライ麦(+少量の大麦麦芽)

《蒸溜所4》ニッカウイスキー門司工場
 ⑦未発芽大麦グレーン = 未発芽の大麦(+少量の大麦麦芽)

カフェモルト・カフェグレーンについては、以前に解説しました。

カフェモルト / カフェグレーンを深掘り! 『ニッカ・ザ・グレーン』④|チャーリー / ウイスキー日記|note

残る、さつま司蒸溜蔵と門司工場でつくられている
「未発芽大麦グレーン」
「コーン&ライ・グレーン」

について、原材料の観点から解説します。


■コーン&ライ・グレーン

門司工場でつくられている「コーン&ライ・グレーン」ですが、簡単にいうと原材料的にはバーボンと一緒です。

◇一般的なバーボンの原材料
 コーン=55~80%
 ライ麦=10~35%
 六条大麦麦芽=約10%

※バーボンであるためには「コーンを51%以上使用」することが必須。

※ライ麦でなく、小麦などを使用する商品もありますが、2番目の原材料はライ麦であることがほとんど。(ライ麦=独特のスパイシーな味わい)

※六条大麦麦芽は、「糖化材」としての役割として使用。(麦芽を入れないとアルコールのもととなる糖分が生成されないからです。)

※このバーボンにおける原材料の配合比率をマッシュビルといいます。

◇門司工場のコーン&ライ・グレーンの原材料
 コーン(=デントコーン)
 ライ麦
 麦芽(多分、六条大麦麦芽)

正確なマッシュビルの書かれた記事を見つけられていませんが、「コーンとライの比率は一般的なバーボンとほぼ同じ※1」とのこと。

※1※2 ※3 ウイスキーガロアAPRIL2023 Vol.37 P45(ウイスキー文化研究所発行)

そして、バーボンは、基本的にはバーボン用の2種のスチル(ビアスチルとダブラー)をつかって蒸溜されます。
(ビアスチルに通してから、ダブラーに通します。形式は違いますが、どちらも連続指式蒸溜機です。)

ただ、バーボンでも、ウッドフォードリザーブなど、ポットスチルによる単式蒸溜を行っている蒸溜所もあります。

さつま司蒸溜蔵では、焼酎用の単式蒸溜器で蒸溜しているので、蒸溜された原酒はもはや「バーボンそのもの」ですね。


さらに熟成です。

バーボンは、「内面を焦がしたオークの新樽」の使用が義務づけられています。これによりバーボン独特のバニラ香が強くつきます。

さつま司蒸溜蔵のコーン&ライ・グレーンの熟成では「ホワイトオークの新樽も使う※2」とのこと。

原材料、蒸溜、熟成のどれをとっても、もはやバーボン。
バーボンと名乗れないには、「アメリカ国内で生産していないから」というレベルかと。

とても面白い原酒ですね。

(ちなみに、こういったバーボン風・ライウイスキー風のウイスキー原酒づくりは、実験的に日本国内の他の蒸溜所でも行われて来ましたし、新興のクラフト蒸溜所でもチャレンジしている事例があります。)


■未発芽大麦グレーン

さつま司蒸溜蔵・門司工場のどちらでもつくられているのが、「大麦グレーン原酒」です。

最初この「大麦グレーン原酒」という記事を目にした時に

大麦を単式蒸溜器(焼酎用であったとしても)で蒸溜したのなら、
それはモルトウイスキー原酒ではないか?

と思い、少し混乱しました。

稲富博士のスコッチノート 第103章 より

稲富博士のスコッチノート 第103章 バランタイン・ウイスキーの話―その4.ストラスクライド蒸溜所 (ballantines.ne.jp)

ただ、よく調べてみると「丸麦の状態※3」と書いてあり、よくよく調べてみると「未発芽大麦」を使用しているとのこと。

◇丸麦
大麦の外皮を取り除き、糊粉層(ぬかとなる部分)を削った状態の丸い大麦のこと。

ここで重要なのは『麦芽』ではないということです。
麦「芽」は、麦を発「芽」させたものです。

お酒づくりにおいて、(発芽をさせていない)麦と、(発芽をさせた)麦芽は、明確に分けて考えます。
なぜなら、麦芽は発芽させることによって、糖化酵素を持った特別な存在となるからです。

果実(ブドウetc.)ではなく、穀物(麦・米etc.)からお酒をつくる場合、糖化酵素はマストです。

糖化酵素がないとアルコールのもととなる「糖分」がつくられないので、いくら酵母をぶっ込んだとしてもアルコールはつくられません。
(果実からお酒をつくる場合は、果実にもともと糖分があるので、糖化は不要)

そして、「西洋は麦芽の糖化酵素、東洋は麹菌の糖化酵素」を使用する文化なのです。

話を戻して、「大麦麦芽」ではなく、「未発芽大麦」を使用して、単式蒸溜器で蒸溜したウイスキー。何かに似ていると思いませんか?
これがパッと答えられたら、相当なマニアかと。

未発芽大麦を使用して、単式蒸溜器で蒸溜するウイスキーとしては、アイリッシュ・ウイスキーの1つ『ポットスチル・ウイスキー』が有名です!

アイリッシュ・ウイスキーならではの『ポットスチル・ウイスキー』|チャーリー / ウイスキー日記|note

ポットスチル・ウイスキーは、その独特のオイリーな味わいで、最近人気が上昇しています。

『バスカー』『ジェムソン』etc. アイリッシュ・ウイスキー 爆進中!|チャーリー / ウイスキー日記|note

さて、その未発芽大麦グレーン原酒ですが、門司工場の原酒の味わいは

発芽大麦を原料とするカフェモルトよりも麦畑のような穀物風味が豊かだ。

7種類の原酒が溶け合うニッカのグレーンウイスキー 
March27.2023(ウイスキーマガジンWEB版)

とのこと。

コーン&ライ・グレーン原酒も、未発芽大麦原酒も味わってみたいものですね!


■ニッカ・ザ・グレーンの正体

原材料の観点から考えると以下のことが言えると思います。

《カフェモルト》
 連続式蒸溜機ではあるものの、穀物の風味が残りやすいカフェ式スチルのため、いわばモルト原酒のようなもの

《カフェグレーン》
 旧式のカフェスチル使用ではあるが通常のグレーン原酒

《コーン&ライ・グレーン原酒》
 いわばアメリカのバーボン原酒

《未発芽大麦原酒》
 いわばアイリッシュのポットスチル・ウイスキー原酒

なんかワールドブレンディッド・ウイスキーみたいですね!

この「多様なグレーンウイスキーをブレンドした」というのが、このニッカ・ザ・グレーンという商品の面白いコンセプトなのだと思います。


■やっと

この10回目で、一旦、ニッカ・ザ・グレーンの解説を終了!
やっと、終わったー。

※タイトル写真はデントコーン畑です。

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