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アイリッシュ・ウイスキーならではの『ポットスチル・ウイスキー』

■ポットスチル・ウイスキーとは?

いきなり「ポットスチル・ウイスキーとは?」と質問されたら、
「お前、何を言っているの? それって、ポットスチルで蒸溜したシングルモルト・ウイスキーのことじゃないの?」
と答えてしまいそうです。

《ポットスチル・ウイスキー 概要》

「アイルランド島」において、
大麦麦芽 + 未発芽の大麦etc.』を原料に、
「ポットスチル(単式蒸溜器)」
 でつくられるウイスキー。

基本的には、アイルランドでしか、「大麦麦芽以外」を、「ポットスチルで蒸溜する」といったウイスキーづくりはしません。

そして、アイリッシュ・ウイスキーにおいても、「モルト・ウイスキー」、「グレーン・ウイスキー」のカテゴリーは、基本的にスコッチ・ウイスキーと同じです。

したがって、アイリッシュ・ウイスキーには、「ポットスチル・ウイスキー」という、スコッチ・ウイスキーにはない、3つ目のカテゴリーがあるということになります。

このポットスチル・ウイスキーですが、アイルランドならではのカテゴリーということもあり、最近、人気が出てきているウイスキーカテゴリーです。


■アイリッシュ・ウイスキーと税金

ポットスチル・ウイスキーは、大麦麦芽に課税されることになった蒸溜業者が、使用する大麦麦芽の量を減らすため、苦肉の策で「大麦麦芽」に、「収穫したままで麦芽にしていない大麦」を混ぜ合わせて製造するという方法を編み出したと、前回ご説明しました。
まさに、日本における発泡酒の誕生と同じ発想ですね。

珍しいタイプのグレーンウイスキー(ポットスチル蒸溜)|チャーリー / ウイスキー日記|note

このポットスチル・ウイスキーは、19世紀以降、アイリッシュ・ウイスキーの主流となります。

また、その後、アイルランドの蒸溜業者は、「ポットスチルの大きさ」に応じて課税されることになります。
具体的には「ポットスチルが大きければ大きいほど、税金が優遇される」仕組みとなります。

なぜそのような課税方法にしたのでしょうか?

私だったら、「政府側が、大きなポットスチルで大量生産させて、生産効率を高めて、スコッチ・ウイスキーに勝つため」と回答すると思います。

ただ、そうではないようです。(この大量生産によるコスト削減の意図もあったのかも知れまんが。)

この「ポットスチルが大きいほど税金が低くなるシステム」導入の趣旨は、「税金をとりっぱぐれない」ように、密造業者による蒸溜を防ぐためだそうです。

どういうことかというと、密造業者は、当局のガサ入れが来たらすぐに逃げられるように、基本的には小さいポットスチルを使用していました。

そこで当局は、正式に届け出た大きいポットスチルであれば、税金を優遇されるように仕組みを変えたのです。

つまり、密造酒業者に、「隠したり」「持って逃げたり」できない代わりに、正規の蒸溜業者へ転換を促したのです!

そして、もともとの正規の蒸溜業者は、当然この「大型のポットスチル」で蒸溜するようになります。

その結果、「大型ポットスチル」での蒸溜は、アイリッシュ・ウイスキーづくりの主流となりました。


■節税対策がもたらした洗練された味わい=「ポットスチル・ウイスキー」

節税のために、「大麦麦芽に、収穫したままで麦芽にしていない大麦」を混ぜ合わせて、「大型のポットスチル」で蒸溜されてつくられるようになったポットスチル・ウイスキー。
その独特な製法によって、味わいに特徴が現れます。

まず、「大麦麦芽以外の穀物」をつかうことで、大麦麦芽にはないその原料ならではの穀物のフレーバーが原酒に加わり、より『複雑な味わい』となります。

また、『独特のオイリーさ』が感じられるようにもなりました。
これは、モルト・ウイスキーに比べ、「大麦麦芽が少ない」=「糖化酵素が少ない」=「糖化工程に時間がかかる」ため、その過程でオイリーなフレーバーがつくと言われています。

一方で、「ポットスチルが大きいほど税金が安くなる課税制度」でスコッチ・ウイスキーの蒸溜業者よりも、何倍も大きなポットスチルで蒸溜されるようになったポットスチル・ウイスキー。

「大きなポットスチル」は、小さなポットスチルよりも、比較的味わいがライトになる傾向があります。
そのため、『軽やかな酒質』が得られるようになりました。


■ポットスチル・ウイスキーの3回蒸溜

実は、ポットスチル・ウイスキーをつくる際、大麦麦芽100%のモルト・ウイスキーに比べて、他の穀物が加わる分、仕込みが難しく、雑味が出やすくなるそうです。

そのため、その雑味ある酒質をクリアにするため、通常2回の蒸溜のところ、追加で『3回目の蒸溜』が行われるようになりました。

結果的に、この「3回蒸溜」は、「大きなポットスチル」とも相まって、『よりクリアな洗練された味わいのウイスキー』をつくり出すこととなりました!

・大麦麦芽以外も使うので『複雑な味わい』
・糖化工程が長いので『独特のオイリーさ』
・一方で、ポットスチルが大きいので『軽やかな酒質』
・そして、3回蒸溜による『よりクリアな洗練された味わい』

ポットスチル・ウイスキー、とても気になりますね!

■アイリッシュ・ウイスキーの3回蒸溜

この3回蒸溜でつくられるウイスキーは、「軽やかで美味しい」と人気を博します。
そして、ポットスチル・ウイスキーだけでなく、その後、モルト・ウイスキーづくりでも行われることが多くなり、3回蒸溜はアイリッシュのウイスキーづくりの特徴のひとつとなっているのです。

そして、この『クリアな洗練された味わいのアイリッシュ・ウイスキー』は、スコッチ・ウイスキーを完全に凌駕し、19世紀半ばには、絶頂期を迎えることとなるのです!


■ポットスチル・ウイスキーのレギュレーション

上記の通り、アイリッシュのポットスチル・ウイスキーや、モルト・ウイスキーでは、「3回蒸溜」をするケースが多く、それがアイリッシュの特徴のひとつとも言われていますが、「3回蒸溜」は法律で決まっているわけではありません。

そのため、2回蒸溜でもポットスチル・ウイスキーや、アイリッシュ・ウイスキーと名乗ることができますし、実際にそういう商品も多いです。

それでは、次回は、ポットスチル・ウイスキー、アイリッシュ・ウイスキーの法定義を、重要部分だけピックアップして確認してみたいと思います!


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