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読書記録43『山怪-山人が語る不思議な話-』

田中康弘
『山怪-山人が語る不思議な話-』
(山と渓谷社 2015年)


マタギの人たちから直接聞いた奇譚をまとめたもの。
私自身も田舎に住んでいるので「山」というものは身近な存在だ。

晴れている時の地元の山々の様子は思わず、足や手を止めて見てしまうくらい。(先日も運転しながら事故りそうになった…。)
うっとりするような美しさをもっていることにも、ある程度歳を重ねて気がつくことができるようになった。

住んでいる裏にあるちょっとした山のほうが昔からなぜかおそろしさを感じる。
黒い森、暗い山にはやっぱり何かいるような気がする。

バイオハザードはからっとしてる。
零はじめっとしてる。


(脱線するが、ゾンビは怖くない。外国のホラーも怖くない。恐ろしいのは、和風の少ししっとりじっとりしている質感の映画や映像。やっぱり「貞子」はこわかったし、ゲームでいったら「バイオハザード」よりも「零ー濡鴉ノ巫女ー」のほうが圧倒的にざわつくし恐ろしい。)

日本にとって山というのは異界。生と死が紙一重。この世ではない神聖な場所だ。
昔はスマホもGPSもLEDライトもなかった。現在は遭難しても怪我をしてもヘリがやってきたり、警察が捜索してくれる。
今でも絶対に助かるというわけではないが、「死」というものがより身近だったはずだ。

最近民俗学や社会学に興味が出てきて、フィールドワーク(直接話をきく)ということの面白さに気がついた。
死んだばあちゃんやじいちゃんにもっと話を聞いておけばよかったと思う。

母方のばあちゃんは、少し「見える」人。(ばあちゃんの姉がかなり見える人だったけど…。)
山できれいな鹿や熊にあった話。白蛇の話し。身近な人が亡くなったときには枕元に立たれたという話し。
入院したときに数多くの「それ」からベットを囲まれて引っ張られた話し。など色々してくれた。

この本はもしかするとオカルトやSFの分野なのかもしれないが、私にとっては過去の日本の姿を知るために必要なかけがえのないものに見えた。

写真家でもある田中さんは、自身がマタギと交流して各地の山に住む人たちの話を蒐集した。
いつか消えてなくなってしまっていたであろう話を本にしてくれた。
「こんな話しあるわけがない。うそだよ。」と言ってしまうのは簡単。
しかし、似たような話が「山」というものを通して各地に残っているということは事実だ。

2023年のインタビューにて田中さんは、
「昔はテレビもスマホもなかったから、夜になると囲炉裏端に家族が集まって、話をするしかなかった。今日はこんな動物を見たぞとか、こんな物音を聞いたぞとか、山の暮らしのあれこれが家族に伝えられていく。今、地方は過疎化と高齢化が進んで、昔のように話をする機会がない。そんなところに私が訪ねていくと、たいてい喜んで話をしてくれますよ。やっぱり人間って話がしたいんです。人は語るために生きてるんじゃないか、とさえ思います。」と言っている。

人の話を聞くってことは、やっぱり面白い。いろんな人の話を少し書き溜めておこうと思わせてくれる本だった。
何かがなくなってしまうのは一瞬だ。それは少し寂しいし、いとおしいと思ってしまうんですよね。



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