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【僕の好きなもの、人、お店】ある休日


スマートフォンが鳴り、目が覚める。

見ると7時30分だった。


今日は平日だけど休みを取ったので出勤の支度はしなくていいな。

そんなことを思いながらもう一眠りしようと布団をかぶり直したところでゴミ出しや洗濯物出し、Instagramのストーリーを毎朝必ず投稿することにした事などを思い出し、しょうがなく身体を起こした。


身体を起こそうとして、鈍い筋肉痛を感じる。


先週の上場小学校の運動会。
リレーの競技に二回も出場した結果、ひどい筋肉痛になってしまい、一週間経っても治らず。それなのに昨日、ソフトボールの練習に誘われ、走り転げながらノックを受けていたので、全身がもれなく痛い。当然の結果だった。


いててと思いながら、運動不足とは言え、こんなに自分のイメージに体がついて来なくなっているなんて、そろそろ何か運動を再開しなければいけないだろうか?と考えながら室内干ししていた洗濯物を外に干す。


家中のゴミをまとめ、ゴミステーションに重い身体を引きずりながら歩いていく。青空と竹林の揺れる音を感じて、今日もいい天気だと気づいた。

ゴミ出しから戻り、部屋の掃除をしていく。途中、お気に入りの茶器と目が合って、今日はこの子にしようと決めた。窓際の植物の横に並べて写真を撮る。うん、いい感じだ。と自画自賛してInstagramの今日のストーリーに投稿。無事に朝の仕事が終わった。


さて今日はどうしようかと思い、とりあえず茶を淹れる。

最中ふと、今日は湯呑みではなくティーカップで飲もうかと思った。

今淹れている茶は五ヶ瀬の釜炒り茶。師匠の釜炒り茶だ。釜炒り茶は香りもいいし、オリがなく透き通っていて、淡く輝く水色が綺麗だから、薄平べったいティーカップに映えるかも。ちょうど日本の陶磁器メーカーのオールドのティーカップがある。

https://gokasemidori.stores.jp/


淹れたての緑茶を温めたティーカップに注いでみた。立ち上る香ばしい香り。思った通り、いい感じだ。


釜炒り茶を日本製のオールドのティーカップで出すのは、いいアイディアだな。と1人納得したところで、そういえばと2、3種類の茶を引き出す。以前手を加えたものや、いただき物の茶をチェックする。今度喫茶で提供する茶のメニューはどうするか。


あれにこうアレンジを加えるか。茶器は、あの茶のコンディションは、、、


没頭し始めると気が付けば、時刻は11時30分。もう昼かと伸びをして、今日は遠出したいと考えていたけど無理だなと考え直し、昼食を考える。


パッと「marcello」が浮かんだ。よし、今日はパスタだ。と車を走らせる。



447号線を出水市役所前で出水市総合運動公園の方へ曲がる。3ブロックほど進むと途中、右側にコンクリの打ちっぱなし風の建物が見える。

白地に赤でmarcello と書いてある控えめな看板が目に入る。できるだけ出水産、オーガニックの食材を中心にしたメニュー構成のトラットリアで、優しく滋味深い味わいのお皿を出してくれる、頻繁に通っているお店だ。

https://www.marcello.wine/


遠目にはちょっとやってるかわからないけど、ちゃんと入口のタグはopenになってるし、二台車も止まっている。よかったと思いながら店の前の駐車スペースに頭から突っ込む。


店内に入ると、店主のジュンさんとユミコさんがテキパキオーダーを捌いていた。どこに座ろうかなとぼーっとしてるとカウンターをすすめられる。

いつもなんだかんだでカウンターに座らせてもらっているので、定位置みたいになってきてしまった。早速注文する。今日はmarcelloのInstagramで投稿されていて気になっていたカルボナーラを頼もうと決めていた。

https://www.instagram.com/marcelloizumi/


待つ間、考え事をしているとユミコさんが手の開いた時に話しかけてくれて、最近あったことを話すのが定番。そしたらそのうちジュンさんがオーダーを通し切って、何話してんの?と会話に加わって来てくれる。


marcelloに来ると話しながら食べれるので、ご飯が寂しくなくていいなあと僕はいつも思っていた。ちゃんと美味しいもの、美味しく食べるんだよと言ってもらえているみたいで。


カルボナーラはこってりしていなくて、すっきりしているんだけども、卵黄の厚みのあるリッチな風味と濃いチーズの香り、厚めの出水産六白黒豚ベーコンと粗めにふってある胡椒がピリッとする、絶妙な加減であっという間に食べてしまった。



そうして会話が弾んでいると、ユミコさんが最近仕込んだ出水産葡萄の酵素シロップのようなものを、炭酸で割ったドリンクを出してくれた。天然の葡萄の甘味とスパイスの香りのソーダ。色も綺麗でノンアルコールのメニューにぴったりだなと思った。

いつも思うのだけど、ワインをやっている人はスパイスの使い方が上手だと思う。とても美味しいですと伝えるとまた話が広がる。

ノンアルコールドリンクのメニュー拡充の相談にお声がけいただいてから、こうして新作ができるとちょこちょこ試し飲みさせてくれる。お金を払いたくなるけど、なんだかいつも甘えてしまう。

心もお腹もいっぱいになった僕はジュンさんとユミコさんに見送られ今度は、水俣へと車を走らせた。



古着屋さんに行こうと思ったけど、着いたらお休みの日だった。あららと思い、Uターン。ドライブは好きなので、考え事ができる時間が増えたなとゆっくり出水に帰る。

もうそろそろ秋冬になるので、夏物の残りが安くなったりしてないかなと邪な気持ちで足を向かわせた罰かもなと出水に戻る最中思った。



家に帰る前にふと、本町にある「冒険王」に寄ることにした。おもちゃ屋なんだけど、古道具も多く取り扱っている。

このお店は一見入りづらいけど、よく見ると人懐っこい道具たちが並んでいて、僕はちょこちょこ物色しに来る。ガラスの一輪挿しをよく買うのだけれど、今日は別に目があった子がいた。


コーヒーポットだった。 


満水1リットルくらいのサイズ。厚めのステンで、痛みの少ないしずく型のコーヒーポット。手に取ってみると全体のバランスがとても良い。軽い力で角度をキープできる。注ぎ口はやや下から斜め上に綺麗にまっすぐ伸びている。根元は太く、口は中太。湯を綺麗に滴らせそう。蓋は蝶番式で、蓋と本体がぴったり隙間なくすっと収まる。ドリップにもポットにも使えるタイプだ。

とても良いな。海外のブランドかな?と思ったが2000円だった。買いだな。


しかし、用途はどうしようか。薬缶として使うには、、底も狭いから火が溢れすぎる。蓋に穴もないし厳しいか。アウトドア用のバーナーコンロならいけそう。

ドリップに使う時の、沸かしたてのお湯を移し替えて温度を下げるという目的は緑茶やハーブを淹れるときの原理と何ら変わりはないので、買っても持て余すことはないな。そう思い、これ買いますと店主さんに声を掛ける。


流石のセレクトだねと言われ、ちょっと照れる。こうゆう事言われるからまた来てしまう。我ながらちょろい奴と心の中で呟いて店を後にした。



いったん荷物を家に置いて、今度は着替えを持って出かける。本町の商店街からずっとまっすぐ抜けて、北薩オレンジロードに合流する。地元の人が農道と言っている道を、西日に照らされた田んぼの間を抜けて車を高尾野の方へ走らせた。

黄緑色から黄色が多くなってきた稲はよく見ると穂先が垂れてきて、ベージュ色のもみ殻に包まれた米がたわわになっているのがわかる。

向かったのは「ひかりの郷」


山の中腹の静かな山林に、広くて綺麗な温泉とすんくじらというレストランが併設されていて、お客さんはお得意さんやリピーターがほとんど。人混みでガチャガチャしていないところも好きなポイントだが、一番の魅力は、ご飯がとても美味しいというところ。


温泉施設に併設されているレストランと聞くと安っぽく聞こえるが、自社に温室を持っていて、葉物野菜などは自社の水耕栽培のものを使用しているし、ジビエや地元食材も積極的に取り入れている。

ここの専務理事さんは自ら着物でピッツァを焼く(窯で)し、NONAMEという完全予約制のコース料理の小規模レストランも隣にある。ホスピタリティに対して献身的な施設だ。

http://www.genkou.jp.net/season.html


今日は筋肉痛を温泉でゆっくり休めて、風呂上がりに大好物を食べるというパーフェクトプランを実行するべく、いざ、と券売機の前でウキウキしていると。

「お!こんちゃっす!!今日は温泉ですか?!」と突然、元気よく声をかけられ内心飛び上がる。


ノイチさんだった。


ノイチさんは、NONAMEのワインソムリエをされていて、コースメニューのドリンクの構成とサーブを主に、NONAMEの提供時間以外はすんくじらでアテンドをされている。

びっくりした、、と思いながら慌てて、今日は温泉と、その後ご飯を食べます。と答えると、「温泉の後にご飯、、最高っすね!」とカラカラと笑ってどこかに行ってしまった。


ノイチさんは、出水に来る前から僕を知っている人を除けば、一番最初に茶の相談に来てくれた方で、ノンアルコールのメニュー拡充のために茶を教えてほしいと声をかけてくれた。

人懐っこい雰囲気とカラッとした出で立ちで、人の心の懐にすっと入り、馴染んでしまう。「良い人」が全身から滲み出てるような人だなあという第一印象がいまだに変わっていない。


基本的に茶のみをやっている人間は、料理やアルコールのステージにいる人たちよりも圧倒的に視野が狭い。茶を深く見過ぎて、自由に扱うことができない。

「茶の深く細かいところは茶屋に任せてください。ノイチさんは茶を扱う時に茶屋になろうとしないでください。ハーブやスパイスの様に向きあって、食材に寄り添った自由な表現をしてください。」

と若輩者の僕が言ったことをちゃんと受け入れてくれて、自由な発想で茶を利用してくれている。

とても謙虚で紳士な人だ。本当の意味で信頼できる素晴らしい人。コロナが落ち着いたらまた一緒にイベントして学ばせてほしいなと思いながら湯に向かう。


髪と体を洗い、露天風呂に浸かる。声にならない息を吐いて全身を伸ばす。


空を見上げると新緑だった樹木が徐々に黄色味を帯びている。紅葉はもう葉先が赤く色づき始めていた。

夕陽が差し込み、少し肌寒い風が顔を冷やす。これはもしや、めっちゃいいタイミングに来たのでは、、と、蕩けきった顔でしばらく空をぼんやり眺めていた。



十分に温泉を堪能した後は、すんくじらに向かい夜ご飯を注文。

待ってる最中にノイチさんとお話をした。サンマに合わせてこうしたいのだが、誰のどんな茶を合わせれば良いかと。そういう風に合わすのかと内心ほへー。と思いながら、知っている限りの情報を吐き出す。


いつも思うのだが、僕の情報は役に立っているのだろうかと心配になる。ちゃんと参考になっていると良いのだけれど。


しばらくして、やってきた。三元豚のカツカレーが。
これが最高なのだ。たまらない。本当に。1600円するけど気にならない。
厚めの豚カツは肉も衣もふんわりしている。しかし最高なのはカレールーなのだ。
なんて言ったら良いかわからないけどルーが超美味しい。それがカツにかかっている。とにかく大好きなのだ。


NONAMEのシェフも言っていた。あれめっちゃ上手いよねと。

彼が推すのだ。間違いない。間違いなく、今までの人生の中のカツカレーとは一線を画すのだ。と謎の自信を胸に、口に運んでいく。

今までにもほかの美味しそうなメニューに挑戦しようとしたのだが、元々リーピーター気質なこともあって、カツカレーから離れられない。

一度だけ浮気したことがあったけど、それはちょうど土用の丑の日にたまたま来たことがあって、うな丼を食べた。期間限定の国産ウナギはずるい。


あれはノーカンだなと無理やり納得させ、カツカレーをほおばる。
あっという間に食べきってしまい、一息つく。

畳の広場に移動して、少し仕事をした。大変捗ったと思ったらもう閉館時間だった。カツカレーの余韻に浸りながら、ゆっくり夜道を運転して帰る。


今日もいろんな事したな、休みの日は完全に何もしないか、こうやって暇なくうろうろしているかのどちらかだなと気付き、魚みたいなやつだなと自分のことを思った。


帰ってきたら、今日考えついた飲み物を2点ほど試作してみる。ミルクティーとハーブブレンドの緑茶。


こんな感じかと納得し、どっかのタイミングで提供したいなと考えていたら、LINEの通知が光る。

北海道でお世話になった方の茶の相談に時々乗っていて、今日も困っていることがあるらしかった。試作の改善点を考えながら、メッセージのやり取りを続ける。


ちらりと時計を見ると、0時を回りそうだった。

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