1番「マグカップおとす」(金曜日午後)
フェリシーのメイドさんは各々MYマグカップが存在する。
フェリシーが秋葉原のお店ということもあり、各々の推しを想起させるマグカップやカラーや性格、好きなことになぞられ、私はこれを選ぶわ。という様に千差万別であり、それを否定する者はフェリシーにはいない。
過去にはメイド同士いがみあうような時期もあったと話の上では聞くことはあれど、過去は過去である。今のフェリシーはとても協調性や信頼性に満ち満ちており、ここで働けることが嬉しい。
多様性を認めてくれる社会、ザ・ホワイト企業フェリシーである。
少しの空いた時間、私は給湯室でたまりにたまったマグカップを水をさらしていた。
ここ最近、フェリシーの紅茶のトレンドはカカオティーだ。大阪にある〇チュレメイドにて元々働いていたメイドさんがぜひ皆様へと、持ち寄ってくれた紅茶である。
香りはチョコレートそのもので、紅茶なのに純粋なカカオチョコレートのような甘みのない味わいに仕上がっており、とても評判がいい。わたしも今度買ってみたいものだ。
私はフェリシーの給湯室にいた。
カカオティーには一つ問題点がある。
フェリシーではお客様のいない時間は好きに休憩をとっていいことになっている。人によっては爪を整えたり、お化粧をしたり、スマホゲームをしたり色々だ。
今日もみんなでカカオティーを飲んで、談笑したり、まったりして過ごしていたのだが、金曜日の午後ということもあり、夕方辺りから突発的な予約がどどどっときてしまい急にあわただしくなった。忙しいことは良いことではあるけれど。
先輩であるメイドさんたちは次々と施術の準備に入る。
私はというと、先輩メイドの方々のお手伝いメインだ。
今は給湯室で皆さんのマグカップを洗っている。
カカオティーは美味しい飲み物であるが、なにぶんカカオ含有量が多いのかマグカップの白き壁に染色が入ってしまう。
私はそれを激落ちくんでごしごししていた。
水が冷たい。けれど、激落ちくんでキュッキュッする音は好きだ。どんどんマグカップの白さが増していく。楽しい。
奈子「・・・アーカリーちゃんっ!」
アカリ「ひゃい!?」
ゴタッ。水の入ったコップが勢いよく床におちた
奈子「あ」
アカリ「フェ・・・!」
奈子「あ、あ、あ。ご、ごめんね!今ぞうきん持ってくるから」
奈子さんに急に声をかけられた私は、条件反射に身体を向けようとして手からマグカップが床に落ちた。水浸しだ。早いとこふかなきゃ。
奈子「はい。アカリ、ふくもの持ってきた。さっきはごめん」
奈子さんと私で濡れた床をふく。
アカリ「ごめんなさい、私気がつかなくて」
奈子「いやいや、私こそアカリちゃんがそんなにびっくりするなんて思ってなくて、ごめんね」
二人で床の拭き掃除をした。先輩ではあるけれど、私は怒るべきだっただろうか。
つい一人でふらっとここではないどこかに身を寄せている、そんな感覚になることが多い。
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