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「子どものことを決める時は、子どもの意見を聞いてほしい」 オンラインから社会を変える。子どもたちの署名活動

この4月から、政府の子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」がついに本格始動し、4月3日にはその発足式が執り行われました。4月からは国や地方自治体においても、「子どもや若者に関する政策を決める際には子どもや若者の意見を聴くこと」が義務付けられるようになり、今後ますます「子どもの意見表明」に注目が集まっていくことが予想されます。

子どもが意見を表明する方法はさまざまですが、最近ではインターネットでの署名活動もよく使われる手段のひとつになっています。

この記事では、オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で子どもたちが立ち上げた署名活動のうち、社会にインパクトを与えた代表的な事例をご紹介します。日本では選挙権が持てるのは18歳からですが、まだ選挙に参加できない子どもたちにも声を上げる術がある。そして、社会を動かす力があることを、この記事を通してお伝えできたら幸いです。

(Change.orgでは利用規約により、16歳未満の方が署名活動を立ち上げる際には保護者・監護者による同意書が必要です)

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1.  スケートパークを作ってほしい

東京五輪でも注目を集めたスケートボードは子どもたちにも大人気のスポーツですが、練習できる場所がなかなかありません。大好きだったスケートパークが老朽化により閉鎖されることを知った新潟市の小学1年生(当時)大岩凪さんは、「にいがたしにあたらしいスケートパークをつくってください」と題した署名活動を開始。賛同数は1.8万を超え、凪さんの言葉をそのまま引用して書かれたピュアな進捗投稿が多くの人の胸に響き、日本中から応援の声が届けられました。

凪さんは仲間たちと一緒に、2021年8月には新潟市長、2022年4月には新潟県知事に署名簿を提出。「子どものことを決める時は、子どもの意見を聞いてください」と懸命に訴えた声が大人たちを突き動かし、2023年の夏に、県営のスケートパークが新設されることになりました。

自分の町にもスケートパークを作ってほしいという子どもたちの声から始まった署名活動は、川崎市など多くの自治体宛に展開されており「スケートパークを全国に」でまとめてご覧いただけます。栃木県下野市では、2023年3月に小学4年生の堀口晴太さんらが市長に面会し、集めた署名簿を提出しました。要望書を受け取った坂村市長は「お願いをするだけじゃなく、自分たちで汗をかいて動いたことがうれしい」と語りました。


2. 制服を自由に選べるようにしてほしい

性別に関係なく制服を自由に選べるよう求める「制服選択制」に関する署名も、数多く立ち上がっています。

2020年6月、江戸川区に住む高校3年生(当時)の「くろまる」さんが、「江戸川区長教育長: 江戸川区の制服を選択制にしてください」を立ち上げ、同年8月に江戸川区長に約1万筆の署名簿を手渡しました。トランスジェンダーの当事者で、中学時代にはスカートの着用に「血反吐が出る思い」「大人になるまでに死のうと思っていた」と語ったくろまるさん。勇気を出して打ち明けられた発信者の思いに、区長は「制服が原因で学校に行けなくなるとか、死んでしまいたいなどということはあってはならない」と応じ、区内全域で制服の自由選択制導入を行うことを約束しました。

江戸川区の動きに触発され、2020年11月には高校3年生(当時)のカエデさんが、東京都教育委員会宛に「制服・服装を性別に関係なく選べるように in 東京」をスタート。翌年11月に約1万筆の署名簿を提出し、要望を受けた東京都は、2022年3月に制服自由選択制を推進していく方針を示しました。2022年末時点で、制服を自由選択できる都立学校は前年度に比べて3校から10校に増え、女子スラックスのみ導入を始めた学校も15校から35校へと増加しました。

2021年2月には、富山県宛に高校2年生(当時)のSoraさんが「富山県の学校の男女別校則・制服の見直しをお願いします!!」を開始し、同年6月に集めた1.6万筆の署名簿と請願を富山県知事に直接手渡しました。Makiさんの要望を受け、富山県議会は、県立高校の制服や髪型を定める校則の見直しを求める請願について賛成多数で採択しました。

子どもたちが「おかしい」と感じてあげた声をきっかけに、その後も、香川県・岡山県広島県など全国各地で、制服の自由選択を求める署名活動が広がっています。


3.  学校に関わるところから環境を守りたい

小学生の時からSDGsについて学ぶ機会がある子どもたちは、環境問題にも強い関心を持ち、「自分たちにもできること」を探して積極的にアクションを起こしています。

2021年10月から、神奈川県立川崎高校では再生可能エネルギーの利用が始まりました。これは同年8月に、県内の公立高校に通う1年生が「学校で地球にやさしい電力を使いたい」署名活動で集めた2.4万筆の署名を、神奈川県知事に提出したことがきっかけで起こった変化でした。

神奈川県知事に署名簿を提出するふきたろうさん

署名発信者の「ふきたろう」さんは、小学生の頃から気候変動の問題に強い関心を持っており、自分にできることとして県立高校で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えることをひらめき、署名活動を始めました。署名簿を受け取った県知事は「新聞記事を見た時からぜひ会いたいと思っていた。神奈川県立高校の全てに再生可能エネルギーを導入することを約束します」と応じ、実際に川崎高校での取り組みが始まったのです。再生可能エネルギーの利用は、神奈川県内の他校にも順次拡大されていく予定です。

練馬区長に署名簿を提出するえりかさんと親友のみなもさん

2023年2月には、練馬区立の小学3年生堀越えりかさんが、「給食用牛乳のプラスチックストローをなくしたい」署名活動で集めた3.2万筆の署名簿を、練馬区長に提出しました。海の生き物がプラスチックごみにより苦しんでいることを知ったえりかさんは、クラスのみんなと考えて給食の牛乳をマイカップで飲む「マイカップ週間」の取り組みをスタート。もっと他にやれることはないかと考えついたのが、この署名活動でした。署名簿を受け取った区長は「プラごみをなくしたいという同じ想いでいる」とえりかさんに伝えました。


4.    コロナ禍での休校延長を求める署名活動

2020年春、新型コロナの感染拡大が全国的に深刻な問題となっていく中で、4月から予定通り再開されることになった高校に対し、全国各地の高校生らが休校延長を求めるオンライン署名を立ち上げました。署名の総数はChange.orgだけでもなんと200以上、その大半が高校生によるものでした。

京都市立・府立校の教育活動の再開の延期を求めます!」の発信者であり、京都市の高校生だった関戸桂介さんは、「我々学生には参政権が与えられていないので、署名が最も有効な手法だと考えました」とコメント。高校生から広がった多くの声が決定権のある人たちに届き、一部の自治体では休校期間が5月までに延長されました。

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若者の投票率の低さに象徴されるように、日本では長らく「若い世代は社会に対して無関心だ」と見なされてきました。しかし、日本の国会議員の平均年齢は56.6歳(2022年夏時点)。若い年代の人たちにとっては政治が身近に感じられず、遠い世界の話のように思えてしまうのも無理はありません。

そんな子どもや若者たちにとって、オンライン署名は「気軽に発信できるツール」として頻繁に利用されるようになってきました。自分と同世代の子どもが署名活動をしているのを見て、「自分にもできるかも」と思えるようになり、その連鎖が地域や年代などの垣根を超えて広がっていく。特に普段からSNSを使っている子どもたちにとっては、それらと並行してスマホひとつでできる、手軽なソーシャルアクションの手段になっています。

学校のこと、放課後の遊び場から地球規模の環境問題まで、子どもたちはたくさんの意見を持っています。「子どもが意見を言ってもどうせ聞いてくれない」「自分たちが社会を変えることなんてできない」と思わせることなく、どうしたら子どもたちが自分の意見を堂々と表明できるようになるのか。子どもたちが自分の声に価値があると感じられ、積極的にアクションを起こせるようになるためにはどんな環境が必要なのか。社会の一員として対等に子どもたちと向き合い、対話をしようとする大人たちの姿勢が問われています。

「おかしい」と感じたことに声をあげ、誰かの困りごとを解決するために。より良い社会にするために「こうしよう!」という子どもたちの声があちこちから聞こえてくる。そこから地域のルールや社会の仕組みが変わり、「チェンジは起こせる」と自信を持った子どもたちが、さらなるムーブメントを起こしていく……。オンライン署名に限らず、学校や地域など子どもたちの身の回りの社会で、そんな未来が広がっていくことを期待しています。

(文: Change.org スタッフ 遠藤まめた)