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救世主と不確かな陥穽

 あと2週間足らずで生き絶える''予定''の会社に光明が差した。まさかまさかの吉報。救世主。事業継承主が現れたのだ。

 湘南エリア(藤沢〜江ノ島腰越周辺まで)の大地主がどうしても地域メディアの先駆けであるこの会社を存続させたがっているとのことだった。

 社員総出で緊急打ち合わせが行われた。事業の仕組みは悪くない。従来の良い部分を残しつつ新規事業も絡めて確実に''稼ぐ''ビジョンを掲げている。それに雇用条件も好待遇だ。ただ一点、最大にして最重要ポイントが欠落していた。

 スタートアップ体制の不安が大きすぎたのだ。

 実に多方面で新規事業に着手し、成功をものにしてきた社長。言葉の説得力も段違いだ。ただ、彼はメディアに関しては素人なのだ。それに、現在の編集部及び制作部の人数や仕事量も考慮には含まれていないようだった。

 媒体名の版権が手放され、根幹は同様であれ真っ新なスタートアップの地域メディアとして始まることになる。クライアントの確保と企画、紙面の台割りや基本構成など無数の決め事を考慮した時、彼の構想にある土台では発車はおろか頓挫は目に見えている。それに、これまで会社を率いてきたトップとトップ2は東京本社への出向命令が既に下されている。目に見える見切り発車が我々に恐怖を与えていた。

 そのスタイルやビジネスモデルは、心なしかM&Aの失敗により本体すらも大赤字に陥った某企業を彷彿とさせた。

 地域メディアへの参入障壁は生半可なビジョンでは上手くいかないのではないだろうか。24の若造の意見だが、少なくとも舐めた姿勢では黒字回復は夢物語だと思う。

 だが、紙媒体の衰退だけを持ち上げて話すつもりはない。2020に向けてネットは万全の強化を進めているが、それ以降の「ネット疲れ」は可能性としてはゼロではないとも考えている。情報過多や速達性が齎す疲れなども多少なりとも発生している。直接的関係かはわからないが、SNS疲れも実際に起こっている。友人の現在の居場所が常に把握できてしまう。SNSによる情報共有が''精神的義務化''に近づいているのも紛れもない事実だ。

 対して紙には掲載可能情報量が限られている。限られたスペースを最大限に使用する為、必然的に内容は濃いものとなる。ディテールも工夫し拘る。そこに魅力が生まれる。近年の売上だけに着目すれば下落の一方であるものの、写真集が未だ万単位で売れるのは、紙という触れられる媒体であるからこそカメラマンの拘りが投影された作品だからではないだろうか。

 五輪前の令和元年、この1年が地域メディアにとって大勝負となるのは間違いない。地方を盛り上げ、旗を振るべきメディアがそこに常に存在しなければならないはずだ。そこに紙もWebも関係ない。Webメディアに逃げる私に言えたことではないのだが。



 


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