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「人は、ぜったいしぬ」?

「人は、ぜったいしぬ👼」

子どもが対話おわりに書くワークシートの、「対話の中で気づいたことや発見」という欄に、「人は、ぜったいしぬ」という一言があった。しかも文末に、死体なのか天使なのか、頭上に輪っかのついた人間のイラストを添えて。

一人暮らしの夜にこれを見た瞬間の衝撃と、じわじわ笑えてくるこの感じ。
対話中にこれに気づくのって、いったいどんな気持ちなんだろう。



「人は、ぜったいしぬ」のか

「人は、ぜったいしぬ」ってなんなんだろう。この、「ぜったい」っていうところが難しい。
今までに死ななかった人間はいないかもしれないけど、これからもいないとは限らないし、たとえば医療がめちゃくちゃ発展して、いつか誰かが不老不死になるかもしれない。

「人は、ぜったいしぬ」って、本当なのかなあ。本当じゃないかもしれない。たぶん本当だけど。


気になるのは、これが本当かどうかではなくて、どうして「ぜったいしぬ」って思ったのか、どんな話をしていたらそれに気づくのか、ということ。

当たり前のように感じていることでも、絶対そうだと言い切ったり証明したりすることって意外に難しくて、とりわけ対話中の子どもはよく「本当にそうなの?ちがうかもしれないじゃん」と言ってくるから、「ぜったい」だと思った彼はそのとき何を考えてたのかな、と思う。


なんで「ぜったいしぬ」と思ったのか

「ぼくはぜったいしぬ」でもなく、「おばあちゃんはぜったいしぬ」でもなく、「人は、ぜったいしぬ」と書いたのはなぜだろう。

誰かの死、たとえば友達のおばあちゃんの死について話していて、その中で「ああ、ぼくのおばあちゃんもいつか死んでしまうんだ」と気づくのは、なんとなくわたしにもわかるんだけど、
「人は、ぜったいしぬ」と気づくときって、いったい誰の死について考えていたらそこに辿り着くのだろう。あるいは、誰でもない死について、どうやって考えたんだろう。


わたしは「人は、ぜったいしぬ」って気づいたことはなくて、それがどんな気持ちなのか、わからなくてすごく、なんというか、くすぐったい感じ。

誰かが死んだときに、「人とは死ぬ生き物なのだ」と気づくのは、その人がまさか死ぬと思っていなかったからなのかなと思っていて、その裏切られた感じというかびっくりした気持ちからそれに気づくんじゃないかなと思っているんだけど、
わたしはそもそも「人とは死ぬ生き物なのだ」と思っているから、「死ぬと思ってなかった!人ってやっぱり死ぬんだな」って気づくことってたぶんないんじゃないかなあと思う。

だから、「人は、ぜったいしぬ」ってなんで/どのタイミングで気づいたのかなあって、気になってしまうわけです。


「人は、ぜったいしぬ」ってどんな気持ちなのか

「人は、ぜったいしぬ」って気づいたとき、彼はどんな気持ちだったのだろう。
かなしかったのか、こわかったのか、うれしかったのか、はたまた、なんにも思わなかったのか。

「しんじゃう」って書くと、なんとなく悲しい気持ちとか、勿体無い気持ちとか、名残惜しさみたいなものを感じているんだろうなと思うし、
「しぬ!」とか書いてあると、びっくりしたのかなとか、面白かったのかなとか、そういうふうに思うんだけど、
「人は、ぜったいしぬ👼」って書かれると、どんな気持ちなのか全然わからなくて、イラストを見るたびになんだか笑えてきてしまう。

そもそもなんだろうこの絵。本人見てたらごめん、下手とかじゃなく、なぜここにこの絵を描いたのかがわからなさすぎておもしろいんだ。


「しぬ」って彼にとってどんなことなのかなあって、つられて、わたしもコミカルな感じで考えられるようになってしまった。
久しぶりに会ったおばあちゃんが白髪だらけになっていたときとか、ちょっと悲しくなってたけど、「しぬ👼」って思えばなんか笑える。


おわりに

「人は、ぜったいしぬ👼」
対話中にこれに気づくのって、いったいどんな気持ちなんだろう。


哲学するおもしろさについて、わたしの先生がこう書いていた。

肩の力が抜けて、たゆたう感じが味わえること。まじめに生きているけど、何となくどうでもいい感じもしてくること。人(とくにこども)と哲学対話していると、やられた、やられてうれしい、って感じがすること。

河野哲也、「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」アーダコーダー(メンバー)より

これすごいわかるなーと今思っていて、なんか、彼の「しぬ👼」を見るたびに「やられた、やられてうれしい」って思ってる。

次に彼に会うことがあれば、このとき何の話をしていたのか、気づいたとき何を思ったのか、ぜひ聞いてみたい。



読書案内

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(わたしのこのアカウントが先生に見つかったら恥ずかしいので、このnoteはみんなこっそり読んでね)

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