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C09ホームレスは一挙に一軒家住まい

畑の中に佇む二階建ての一軒家は、白い壁がオシャレで素敵です。ボスが家の鍵を開け、中に入るよう手招きしました。玄関を入ると、すぐ目の前が台所になっていました。家具は使い込まれたテーブルと椅子だけで、水道のシンクの横には2連のコンロがあります。ボスの説明によると、25シリングを投入すると一定時間ガスが使える仕組みで、その入金ボックスは使い込まれていました。コックをひねってみると、無事に火がつき、前の住人の残りがあったことにほっとしました。ボスが軽く笑いながら「ほら、ちゃんと使えるだろう」というジェスチャーをし、奥に進んでいきました。

廊下の奥には薄暗いバスルームがあり、トイレ、バスタブ、シャワーが整っています。南側の部屋はリビングで、天井が高く、南向きの大きな窓から手入れされていない小さな庭と、その向こうに広がる小麦畑が見えました。額縁に美しいイギリスの田園風景が描かれているようで、その景色に見とれてしまいます。

ボスが「二階に上がるぞ」と声をかけたので、階段を上がっていくと二部屋がありました。北側の部屋は台所の真上で、窓の下には車が見えますが、景色はいまいちです。南側の部屋はリビングの真上で、むき出しで擦り切れた木床の中央に、使い込まれたベッドが置かれていました。スプリングマットレスの真ん中がへこんでいますが、ないよりはマシです。カーテンは遮光効果のある布地で、カーテンを開けると夏の日差しが窓から降り注ぎ、素晴らしい眺めが広がりました。リビングから見るより遠くまで見渡せます。

ボスにこの部屋にすることを伝えると、そっけなく鍵を渡し「じゃあ、明日の8時に事務所に来るように」と言い残して出ていきました。一人残されて、しばらく家の中を探検しました。東洋から来たホームレスのようなさすらい人が、いきなり一戸建てに住む労働許可証持ちのアルバイト生になりました。その夜のことはあまり覚えていません。早めに寝袋にもぐりこみ、天井を静かに眺めながら、いつの間にか眠りの深みに落ちていきました。

【補足情報】
イギリスのコテージは、伝統的な英国の田園生活の象徴とされています。もともとは農村部での農業労働者の住居として建てられたもので、18世紀から19世紀にかけて一般的になりました。当初は茅葺きの屋根で、石やレンガで造られ、白い漆喰の壁が特徴的です。産業革命の時期に都市部へ労働者が移住すると、これらのコテージはより裕福な階級の人々の避暑地やホリデーホームとして使われるようになり、現代でも休暇中のリゾートとして利用されています。映画や文学で登場することで、その魅力はさらに広がり、多くの人が夢見る田園生活の一部として親しまれています。


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