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認知症のかたの保清(おふろ等)ミッション💫

最近は、看護の記事をほとんど書いていないことにふと気づいた。

ここら辺で久々に日々の看護の中のエピソードを少しばかりお届けしたいと思う。

訪問看護の仕事は多岐に渡っている。ご自宅で人工呼吸器をつけているかたの全身管理・ケアなどもあれば褥瘡(床ずれ)や創傷などの処置、PEG(胃ろう)の管理、バルンカテーテル交換、高カロリー輸液の管理、点滴、注射、血糖測定、吸引、リハビリ、浣腸、摘便、ターミナルケア…と所謂、医療的な処置。

そして、医療的な処置とは別に保清ケアなどもある。
全身状態が安定している方は、ヘルパーさんが入浴介助なども行ってくれている。

そんな中、認知症のかたの保清ケアは、導入が難しい場合がある。

ご自分が認知症だと思っていない方が多いので

「ふふふ・・・そんな・・・みなさんに手伝って頂かなくても私は自分で毎日入っていますから大丈夫ですよ」

と言われることが実に多い。

病院だとこの大変さはほとんど経験しなかった。
病棟ケアの流れで、「はいはい・・・次は○○さんのお風呂の時間ですよ〜入りましょうね〜!」となるので拒否する方もいなかった。

でも訪問看護はそんなわけにはいかない。

私たちがお客様のお宅(お城)にお邪魔している側なので日々の生活の主導権はお客様に在る。
普段、ご自宅で生活されている中に私たちが正味1時間お邪魔しているだけなので私たちが日常の生活についてアレコレいいにくい部分もある。

認知症の方が入浴などの保清を拒否する理由を私なりに考えてみた

<認知症の方の保清拒否の理由>
1・自分で入っていると思い込んでいる
2・面倒臭い
3・綺麗にしたほうがいいという意味や必要性がわからない
4・人の世話になりたくない(遠慮もあり)
5・汚れていること、或いは無防備な状態を人に見られたくない
6・汚れてていたり臭いと言うことが自分で理解できない

これらは、認知機能の程度やこれまでの生活習慣や信念にもより理由は様々だと思われる。

一番ハードルが高いのは1の自分で入っていると思い込んでいる場合。
自分で入っていると思っているのでなんであなたたちのお世話にならなきゃいけないのか意味がわからず、怒り出す人もいればさめざめと泣かれる方もいらっしゃる。因みに元々穏やかな方でも認知症になると易怒性が強くなる場合もあるのでキレるかたも少なくない。病気がそうさせてしまっていることは理解していく必要がある。

ご家庭で介護されているかたもこのようなお悩みはあるかもしれない。
困り果てた末に依頼が来る場合もある。

いつも同僚たちから「えー!どうやってあの○○さんを入れることができたの??」と言われることがよくあるので何かの参考になればと思い記事をアップした。AさんとBさんの実際の例をお示ししていきたい。

*       ✳︎

①Aさん 80歳代 認知症あり


 ご自分で毎日入浴に入っている思われている。インテリジェンシーが高く、人のお世話になる必要なんてないとめちゃ強い拒否あり。怒りも出て泣く時もあり。

Aさんの場合は、いくつものパターンで促した。

☆足浴を促す場合
「足湯の入浴剤のサンプルがあってそれを試して欲しいと依頼があって、協力していただける方を探しているのですけど、中々協力してくださる方がいなくて苦戦しているんです(泣)。Aさん、お願いできませんよね〜?」
「あら、そうなの、あなたたちも大変ね。いいわよ、協力するわよ」
「えー!!いいんですかぁ?嬉しい!!」

→基本優しい方なので協力依頼は断れず、応じてくださる。お世話をされている側ではなく、お願いされているという関係性が○。人に喜ばれることをして嫌な人はいないかも。

☆シャワー浴を促す場合
敢えてお風呂場で足浴をしてみる。
後で体が冷えてマイナスの印象にならないために事前に全て着替えやタオルなどは準備万端にしておく。
そして足浴バケツにお湯をためて足浴をしているのだけど、足が温まってきたあたりでお風呂気分になってきている。そして、シャワーで温かいお湯を足している時に誤って上の服に少しお湯がかかってしまい「後ろの方を濡らしてしまってすみません・・・。本当にごめんなさい。体が冷えて風邪をひいたら大変なのでちょっと脱ぎましょう。本当にごめんなさい」と平謝り。
「あらいいわよいいわよ、気にしないで。じゃぁ脱ぐわね」といい脱ぐ。
「もうこのまま温かいお湯でお体も流してしまいましょうか?本当にごめんなさい」と言うと「そうね、しかたないわね、ついでにね」といいシャワーを浴びてくれる。
シャワー後は「気持ちよかったわ、ありがとう」と笑顔。

→私に非がある設定だとお世話になっている感がないので受け入れられやすい。自尊心を傷つけないことが大切。

☆入浴を促す場合
シャワー浴の時同様、事前の準備を万端にしておく。今日は、入浴するでーという時には、訪問の最初に手洗いをさせて頂く際に全てを準備する。あら入ってくるのが遅いわね?と思われないように素早く準備してお風呂のお湯も溜め、衣服の準備も完璧にしておく。ご家族の協力も必要。

バイタルサインの測定の際、背部の呼吸音を聞く時に「先日、お背中が痒いと言われていたところも拝見していいですか?」とお尋ねする。
普段は洋服の上からでも聴診できるけど、お風呂に入っていただこうと思う時には、少しずつスキンシップも兼ねてできるだけ薄着になって頂き「すみません、しっかり聴きたいので服を少し脱いでいただいてもいいですか?」とお願いする。
「ちょっと痒そうなところがありますね。先生からお背中に塗るお薬を頂いたので入浴後に塗るように言われているんです」
「あ、じゃ、また入った時に塗っとくわ。お風呂わかしていないし」
「あ・・・今日は、たまたまご家族がお風呂に入られたみたいで温かいお風呂があるそうなんですよ。せっかくですから。お湯ももったいないし」
この時点で背中の衣服は背中を見ているのでほぼあがっている。そうすると肌の露出への抵抗が少しだけこの時点で薄れている。
「もうカラスの行水しちゃいますか・・・。お風呂の中は暖かくしてありますから大丈夫ですよ。ささーっと入ってしまって先生のお薬をつけましょう」
「そうね、ささっとね」
入浴後は、気分爽快でご機嫌。背中には保湿のワセリンなどを塗布。
この時点で背中に先生からの薬を塗布すると言うことを忘れているパターンが殆どではあるけど最初のお約束は果たしたい。

→Aさんの為に事前に準備していたものではなくたまたまご家族が入っていたと言う設定も重要。自分一人だともったいないと言う人もいらっしゃるし、仕込まれたと思うのも申し訳ないので。そしてできるだけ面倒臭いとか寒いという印象が払拭できるよう、早く入ると言うことと、浴室は寒くないと言うことを強調してお伝えしていく。

☆更衣を促す場合
これは結構大変で、入浴より簡単そうに見えるかもしれないけど簡単だからこそ自分でできるわよ〜と思われる。
でもご家族は、汚れている服を着ているのがずっと気になっている。
事前に次に着替える服を見えないように準備しておく。
そして先ほどと同じように聴診器を当てる時に「聴こえにくいので、ちょっと1枚脱いでもらっていいですか?」とお願いする。脱いでいる間に新しい服をご本人の後ろに置く。そして脱いだ瞬間にカーリングのようにシューっと脱いだ服を滑らせAさんの視界から消し去る。この時は、リビングからキッチンまで滑らした!
そして聴診が終わった後に新しい服を着替える(ご本人は服が新しくなっても気が付かない場合が殆ど)。着替えている間に私はカーリングで滑らせた服を洗濯機へ持っていくと言う流れ。

→短期記憶障害があるとその寸前まで来ていた服は覚えていない。この為、ご本人の自尊心を傷つけずに気持ちのいい服に着替えることができる。見た目は、その人の尊厳を守る為にも大切なこと。


②Bさん 80歳代 認知症あり(物取られ妄想もあり)

この方はあまり訪問の担当にあたっていないけどここ3週間デイサービスを拒否していてデイサービスでのお風呂も入れていなくて、訪問看護の時に足浴をしようとすると目が三角になり怒っているので足浴も全くできていないと言う事前情報を同僚から申し継ぎがあった。一人でお風呂に入った形跡もないと言う状況だった。

半年ぶりくらいにBさんのところに伺った。私たちは受け持ち制ではないので私のことも覚えていないとは思われるがとりあえずニコニコして受け入れてくれた。

持参した足浴バケツにあまり視線がいかないよう配慮した。
Bさんの場合は、ご自分が入浴していないことはわかっていらっしゃるようだった。ずっとお風呂に入れていないですよねという話もして「でもまたそのうちデイサービスに行くからいいの」と言われるが、毎回そう言ってデイサービスも行けていない現状。

しばらくは、保清の話はせず、他の雑談で仲良くなることに専念。
後半の時間になってからようやく保清の話を出す。
紙を出し、3つの言葉を書いた。

❶髪を洗う
❷足を洗う
❸体を拭く

そして、「この3つの中から2つ選んでください」と言う。
そうすると「えー、2つも??1つでいいわよ、足かな」と言われる。

このトリックはおわかりだろうか?
2つ選んでもらうという言葉がポイント(笑)

3つの中から2つ選んでというとせめて1つは選んでくれると言うのが人間の心理。みんな優しいから。

全く拒否していたのに1つでも選んでくれたらとてもありがたいのだけど私は、せっかく1時間の時間をいただいて久々に来れたのだから何かの役に立って帰りたいという欲張りな気持ちがいつも芽生えてしまう。

足浴をしていると大量の垢が出てきた。そして、その足浴をしながら私は呟く。

「あ〜、髪の毛が洗いたいなぁ・・・あ、気にしないでくださいね。私の独り言なので」というとBさんは笑う。
そしてまた「あー、髪の毛が洗いたくてたまらないなぁ・・・あ、でも全然気にしなくて大丈夫です。私の願望がつい言葉になっただけなので。本当に気にしないで大丈夫です」というとBさんは「洗わないわよ」と言う。
「あー、どうしよう、Bさんの髪の毛を洗ってふわふわにしたくなってきた。私、洗うのがめちゃくちゃ早くて上手なんだけどなぁ。あ・・・今、何か私の独り言が聴こえてしまいました?」というとBさんは、笑いが止まらないようで「もう、わかったわよ。洗面所で洗えばいいの?」と言う。

「いいんですかぁ?独り言だったのに!!!!!」と大喜びの私。私が喜んでいる姿を見てBさんも笑顔。

さらに調子に乗った私は、洗髪後に長く伸びた髪を鏡で見てもらい、綺麗に整えた後に「ここ少しだけ切ってさらにさっぱりしましょうか?」と提案するとすんなり「そうね、伸びていたものね。お願いするわ」と言うので「私、東京で1番の散髪看護師なんで」とハッタリをかます。「めちゃくちゃ可愛くなりましたよ!」というと「そりゃそうよ」と返すBさん。

こうして3週間ぶりに足浴と洗髪と散髪が終了。
スッキリしたBさんは大喜び。「またしょっちゅう来てね。本当に来てね」と見送ってくれた。

→このうるさい看護師のことを仕方なく受け入れてくれた感じも否めないけど、笑もあり結果、スッキリしてくれたようなのでよかった。この方の場合は、面倒臭いという理由が強かったので少しでも早く、楽しくケアが行われることが大切だった。べったり汚れた長くなった髪の毛を自分で鏡で確認してもらう作業も大切。

*    ✳︎

私が展開した具体例をお示しして、もしかしたら気分を害される方もあるかなぁとも思うけど、認知症の方の保清の問題は、深刻なので・・・賛否はあるだろうと思いながらも記事にしてみた。

嘘も方便という言葉をこの場で使っていいのだとすればありがたい。


配慮している最大のことは、気持ちに寄り添い自尊心を傷つけないように体を清潔に保ち、その清潔を保っていくことが健康にも繋がり、周りのかたとの調和も維持できることでもあると思っている。

ほぼ全員が、入ってよかったと喜んでくれている。そのゴールに行くことは分かっているのでそこに至るまでのプロセスをほんの少し工夫して繋げていくお手伝いが必要だと思っている。それを繰り返していくことで以前のような当たり前に入っていたお風呂を思い出される方もいる。

愛をもってやることはきっとどんな方にも伝わるのでは・・・と思う。


どなたかのお役に立てますように。








ありがとうございます😭あなたがサポートしてくれた喜びを私もまたどなたかにお裾分けをさせて頂きます💕