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非常事態モードにおける資金繰り対応② 適切な不安と不適切な不安とは

多くの企業から日々、資金繰りの相談が寄せられています。会社を守るために、毎日、眠れない夜を過ごしている経営者の方々も多いと思います。今回は、少しでも不安の軽減に繋げられるように、非常事態モードにおける資金繰り対応のポイントについて説明します。

前回は非常事態モードにおける資金繰り対応の優先順位について説明しました。

【優先順位】
 ①経費削減 (キャッシュアウト減少)
 ②資金調達 (キャッシュイン増加)
 ③既往債務の条件緩和 (キャッシュアウト減少)

抱えるべきではない不適切な不安

今回は、実際にアクションを起こす時に重要となる、資金繰りの正しい現状把握と将来予測について説明します。
資金繰り支援を行う中で、多くの経営者が“抱えるべきではない(不適切な)不安”を抱えている事が多いと感じています。
マーケットでの取引が制限され、需要が縮小する中で、今あるお金でどれだけの期間耐えることが出来るのかを冷静に把握し分析できていないことが多々見受けられます。適切な現状分析ができていない状態で、ただ不安がることは不適切な不安だと考えます。
誤った現状把握は不必要な不安を増殖させることに繋がります。逆に不適切な楽観視に繋がることもあり得ます。

適切な不安

非常事態を切り抜くためには、適切な不安を基にした適切な対策が必要です。

そこで、資金繰りにおける適切な不安について説明します。
自社のキャッシュ状況について
今いくらあるのか?
その金額は足りているのか?
今後、数ヶ月後にいくらになるのか?
なぜ減っていくのか?
どのようしたら増えるのか?
を見えるようにして行くことで、正しい現状分析を基にした適切な不安を抱くことができます。というのも、不適切な不安を抱いてしまう経営者の多くがこのプロセスを経由せずに漠然と不安を抱えていることが多いからです。

上記のポイントを押さえて、現在から将来にかけての資金増減が見える化されることにより、適切な不安を抱くことができ、不安の軽減にも繋がります。
過度な不安は本業に支障をきたすため歓迎できません。
不安の多くは、先が見えないこと(不確実性)が影響しています。つまり先が見えるようになると、不安が軽減されるのです。そして自ずと取るべきアクションも見えてきます。

適切な対策

非常事態モード(新型コロナ、新型インフルエンザ、リーマンショック、大震災、大口先の倒産など)に突入した時や再生支援の時に資金繰り改善の対策としてよく提案するのが"資金繰り表”の作成と導入支援です。資金繰り表は自社の資金繰り対策を検討する際の必須アイテムとなります。過去に資金繰りに窮して、金融機関から作成・提出を求められた経験がある方を除いて、なかなか作成する機会がないかと思います。

しかし世の中には多くの黒字倒産があるのも事実でありキャッシュフロー経営の重要性に触れるビジネス書籍も多く出回っています。それだけ資金繰りの管理は経営にとって重要だと言えます。

資金繰り表を作成する効果

資金繰り表を作成すると
①利益ではなくお金の出入りが見えるようになります
②現在から将来にかけての現預金残高の推移が把握できるようになります
③いつ、いくらの資金調達が必要になるか判断できるようになります
そして、上記に基づいたファイナンスの意思決定を行うことにより資金不足による倒産を回避できることが最大の効果になります。

次に資金繰り表の構成について説明していきます。
資金繰り表は大きく3つの構成に分かれます。

①経常収支

経常収支は、本業において現預金をどれだけ生み出しているのかを表します。売上高や利益と実際の現預金の動きは異なるため、収支(お金の出入り)と言う表現を使います。売上は回収してやっと現預金に反映されるため、入金が停滞した場合は黒字倒産もあり得ます。資金繰り表を作成し現預金の出入りを正しく把握することが大切です。

②経常外収支

経常的には動きがない、設備投資や税金の支払いなどが経常外収支に該当します。特に消費税の納税は金額が多くなる一方で運転資金として使ってしまうことも往々にしてあるため、日頃からタックスプランを立て資金繰りに入れておくことが大切です。また補助金や生命保険の解約返戻金や固定資産の売却などによる収入も経常外収支に該当します。普段の収支と突発的に発生した収支を明確に区別しておくことで将来の対策を検討しやすくします。

③財務活動の収支

金融機関からの資金調達(借入金)や借入金の返済などが財務活動の収支に該当し、経常収支と経常外収支の合計が財務活動の収支の原資になります。
借入金の元本返済は大きい負担となる場合がありますが会計上は経費ではないため、損益計算書には計上されません。損益計算書では利益は見ることができても資金の動きは把握できないのです。売り上げの拡大や利益にばかり気を取られて最も大事なキャッシュの管理を疎かにすると黒字倒産に陥ることもあり得ます。

①②は本業の事業活動を表現しており、その中でも
①は過去の意思決定に大きく影響されます。
②は将来の意思決定に大きく影響します。
③は本業での収支を補うための活動を表現しています。

資金繰り表のサンプル

実物を見た方が理解しやすいため資金繰り表のサンプルを下に載せました。

1月は売上高600万円(内、売掛金500万円、手形100万円)、仕入・外注費400万円(内、買掛金300万円、手形100万円)であり、粗利益が2百万円が確保できています。しかし、その売上の回収は2月に250万円、3月に350万であり、一方で支払いは2月に300万円、3月に100万となっています。支払いが先行するため2月時点では50万円資金が減少しています。この分の現預金は最低でも確保しておくことが必要です。また、取引金額が多額になったり、入金と出金の期間の差が大きく開いたり、在庫を長期間持つことにより、この必要資金は増加していくので注意が必要です。

今回は、その他の経費や借入金の返済などは省略していますが、実際に全ての項目を埋めていき収支を見ていくことで、月次での資金の過不足や資金ショートのタイミングが明確になります(本当に資金繰りが危ない場合は、日次の日繰り表を導入します)。

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資金繰り表を作成し、このように収支が見えるようになることで、ファイナンスの意思決定が適時・適切に行いやすくなり、債権者である金融機関からも支援が得られやすくなります。

現在の市場環境において、資金繰りに悩まれている経営者の方々が多いと思います。少しでもヒントになり不適切な不安の軽減につながれば幸いです。顧問の税理士や会計士、身近に財務に強い診断士などがいる方は導入支援を依頼することをオススメします。


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