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【開催レポート:チャレンジフィールド北海道シンポジウム#2】「北海道における災害関連研究(1) 〜避難を考える〜」

 チャレンジフィールド北海道では、「チャレンジフィールド北海道シンポジウム」と題し、北海道内のさまざまな課題に対して関係者同士をつなぎ、イノベーションを創発するための場づくりを令和4年度から開始しました。
 
 第2回目はテーマを「防災」として、2023年2月15日に京王プラザホテル札幌にて開催しました。
 今回は、主として避難者の支援を担当する自治体、災害関連支援団体、災害関連企業、大学・研究機関を対象として、会場とオンラインのハイブリッド形式で開催。会場とオンライン合わせて132名の参加がありました。

開催の経緯

 近年災害が激甚化する傾向にあり、北海道においても大雨、大雪、大地震などの災害が記憶に新しいところです。また、2021年には日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定が見直されました。これら災害が発生した直後には、住民への避難通知、避難誘導、避難所の運営、被害情報の収集などの対応が一斉に発生します。

 北海道ではいろいろな大学(北海道大学、北見工業大学、室蘭工業大学、日本赤十字北海道看護大学、北星学園大学など)、研究所(寒地土木研究所、北海道立総合研究機構北方建築総合研究所など)において災害に関する研究が進められており、これら北海道における大学の知が災害対応に活用されることが期待されています。

 そこで、オール北海道の災害対応の知を集めて紹介し、それらの知を自治体や災害関連企業に広く知っていただくと共に、自治体や災害関連企業との連携を推進したいと考え、このシンポジウムを企画しました。災害対応の研究は災害の種類やタイムラインによって多岐にわたることから、できるだけ内容を絞り込んで議論するため、今回は「避難」をテーマとしました。

開催レポート

 まず、チャレンジフィールド北海道 チーフコーディネーターの扇谷より、開催の趣旨とシンポジウムをきっかけとした大学と自治体・企業との連携への期待について説明がありました。

特別講演:国際大学グローバルコミュニケーション・センター(GLOCOM)櫻井准教授

 櫻井准教授からは、災害に関わる「情報」の課題とその対策に関する特別講演をいただきました。


第1部 より適切な避難に関わる研究

(1)北海道大学大学院 文学研究院 橋本教授

 橋本教授からは、地理情報システム(GIS)の活用例として、2021年に北海道が公表した千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震による津波浸水想定について、それ以前の想定と比較して、地域によっては浸水範囲が拡大したこと、GPSを活用した避難行動における問題点の抽出、またシミュレーションやVR技術の活用について紹介されました。
 最後に、高校における「地理総合」の必修化を通じて、防災教育が「現地化」され、災害文化の醸成に今後役立っていくという期待が紹介されました。

(2)北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 戸松研究主幹

 戸松研究主幹からは、浜中町における千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震による津波からの避難シミュレーションと避難対策への反映が紹介されました。
 被害想定は、1日のいつ・どこにいるときに起こるか、積雪や建物被害や気温によって大きく変わることが紹介されました。また、GPSを用いた避難訓練からは、妊婦や身体的障害を有する方がいる場合や、坂道や階段では避難速度が大きく低下することがわかり、津波の到来との時間の勝負では地震発生後にできるだけ速やかに避難行動を開始することが重要であり、具体的な対策のため自治体と検討会を設置した、との紹介がありました。

(3)北星学園大学大学院 経済学研究科 鈴木教授

 鈴木教授からは、避難のユニバーサルデザインという考え方が紹介されました。地域の防災力を高めるためには、要配慮者(外国人、旅行者を含む)、高齢者、障害者を含めたユーザーダイバーシティの考え方が必要で、災害に関する事前情報(ハザードマップ、サイン、避難計画など)の整理、確実な情報伝達のための冗長性、平時における情報伝達とその検証の重要性が説明されました。

第2部 避難における困難や課題に関する研究

(1)北見工業大学 工学部地域未来デザイン工学科 髙橋教授

 髙橋教授からは、避難所における質の向上として電力に注目し、電力供給源としての電気自動車などの活用について紹介されました。自治体では、環境にやさしいということから電気自動車の導入が進んでいます。そこで、実際に電気自動車から模擬避難所に電気を供給する検証が行われました。その結果、3日間の連続使用のためには暖房を中心とした計画的な電力の使用が重要であることが示されました。また、ガソリンを燃料として給電ができるPHVではより大きな電力供給が可能であり、動く発電機として活用が期待されることが紹介されました。

(2)北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 飯泉研究主任

 飯泉研究主任からは、屋外防災スピーカーからの避難情報が、設置場所の影響を強く受けることが現地での測定で示されました。また、風や降雪、積雪も聞き取りにくさに影響を与えることが模擬実験で確かめられました。これらのことから、防災スピーカーについては、当該自治体の気象や地形の特性を踏まえた設置が必要であることが示されました。

(3)日本赤十字北海道看護大学 根本教授

  根本教授からは、積雪寒冷地における避難所の課題について紹介されました。避難所の生活において、特に冬期に災害が起こった場合、停電による暖房喪失、給水車の凍結による給水不能、非常食の凍結、閉鎖空間における局所暖房による事故などが非常に懸念されます。実際、厳冬期災害演習において平時には想像できない課題があることがわかりました。特に、低体温症に対する対策と準備が住民および避難支援者において非常に重要でした。また、避難所におけるトイレについても、災害時には平時とはまったく違った環境になることを訓練などを通じて認識する必要がありました。さらに、避難所における様々な健康被害も深刻であり、災害食の工夫によって予防措置が可能であることが紹介されました。

厳冬期災害演習2023については、動画で紹介されています。


 
 シンポジウムの最後に、チャレンジフィールド北海道山田総括エリアコーディネーターよりチャレンジフィールド北海道のご紹介と閉会挨拶をさせていただきました。

終わりに

 主催者としては、これら北海道における大学の知が災害対応に活用されることを期待しています。
 本シンポジウムは自治体、災害関連支援団体、災害関連企業、大学・研究機関を対象としましたが、一部の講演動画、講演資料は講演者の了解の上でご提供が可能です。いずれかのご講演に興味がある方がいらっしゃいましたら、チャレンジフィールド北海道 事務局までお気軽にお問い合わせください!yugo@noastec.jp



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