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他者と働く

これまでのやり方では解決できない厄介な問題。私のいってることが伝わらない。相手はホンネを言ってくれないし、行動の真意もつかめない。そうした「関係性の中で生じる問題」に立ち向かうのが、本書の主題となる『対話(dialogue)』

ここでいう対話とは、向かい合って話をするということではなく、「新しい関係性を構築すること」であり、経営学の研究者である著者は、”組織の実質とは、実は私たちを動かしている関係性そのもの”だというが、シンプルには人と人や部署と部署の関係に『橋を架ける』ことを目的とした、個人の行動変容の指南書です

人は他者のことを「それ」と道具のように捉えてしまい、効率的に機能することをもとめてしまうことがあります。一方、もうひとつ「私とあなた」という関係性を築くこともできます。それは、

相手の存在が代わりがきかないものであり、もう少し平たく言うと、相手が私であったかもしれない、と思えるような関係のこと

対話とは、

権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れあっていくことを意味します

相手をだいじにしなきゃいけないのは分かった。でもうちの組織はそんなかんたんなもんじゃないし、いろいろ問題があって。。のパターンは4つあります

価値観はわかるけど今すぐ行動を変えるのは難しい(ギャップ型)、部署が違うからミッションも違う(対立型)、面と向かってホンネはいいにくい(抑圧型)、怒られたくないし傷つきたくないから対策はとってるふり(回避型)といったところ

だれしも、自分の立ち位置と経験にもとづき自分なりに物事に向き合うため、視野が狭くなっていて、問題の立て方自体に問題がある、ということに気が付かない状態に陥ってしまう。打開策はシンプル

一歩目として、相手を変えるのではなく、こちら側が少し変わる必要があります。そうでないと、そもそも背後にある問題に気がつけず、新しい関係性を構築できないからです。「こちら側」の何が変わる必要があるのでしょうか。それは「ナラティヴ(narrative)」物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のこと

一人ひとりが埋め込まれている物語はそれぞれ違うため、背景であり前提になる解釈の枠組み「ナラティヴ」を、まずは自分から変えることを薦めます

「上司たるもの」「部下であるならば」こういう存在であるはず、といった暗黙の思い込みや偏見、押し付けが、人に道具のような機能を要求してしまっている。結果生じてしまっている『溝』に橋を架けていくことが対話であり、その橋が人や組織を動かす道になると

プロセスは、準備ー観察ー解釈ー介入の4つ

まずは「準備」で相手と自分の置かれた環境(ナラティヴ)の違いに気づくところから。ここで大事なのは、自分のこれまでの固定観念(ナラティヴ)を脇に置いておくこと

つぎに「観察」で相手の言動や状況を見聞きすること。自分の言っていることとかやろうとしていることが、相手にとって意味のあるものとして受け入れられるために必要なポイントを見出していく

そして「解釈」で相手になりきって自分がどう見えるかを眺め、「新しい関係性」を作る方法を考えてみて、「介入」で実際に行動してみて新しい関係性を築いてみる。(さらに改めて「観察」をして。。。と観察ー解釈ー介入を繰り返す)

このプロセスでもっとも重要なのは「準備」の段階。著者はMBAプログラムで教えていたときに、MBAに来た理由を質問したときの経験談を例にあげます

「上司が無能だからMBAに来た」
上司は、自分の考えを通すための道具であり、それが道具として適切に機能していないから、自分のジャマをする存在と捉えてやっつけてやろう、という非常に激しい感情を背後に感じた

このような相手を道具(というか敵)とみなして言動してしまえば、問題は解決するどころか火に油なのは目に見えています(が私もよくやっていました。。。)

相手も相手なりになにか事情があるのかも、見えている景色が違うのかも、と想像するところから、対話の準備を整える必要があると。ここで問を立て直すことに意味があると。

実践編では、「イノベーション推進の部署と既存の事業部」、「上司と部下」、「経営層と現場」という関係性に新しい橋を架ける提案をされていて、自分とは違う相手の事情や苦悩を垣間見ることで、対立しがちだった相手をおもいやる気持ちが芽生えてきます。

さらに、人が育つ、とは何かについても気付きを与えてくれています

人が育つというのは、その人が携わる仕事において主人公になること。部品としてその人が機能するようになること(ではなく) その人の仕事の中において、そうした「能力」を生かしていく存在になっていくこと。部下が仕事のナラティブにおいて主人公になれるように助けるのが上司の役割

上司は部下に対して「自分にとって都合よく、能動的に動いてほしい」という要求をもちがち。部下が職場で活躍できる居場所を失っていることを「主体性がない」ようにみてしまっている、ということに気が付かない。。。と

あらためて、なんのためにわれわれは対話に挑むのでしょうか

自分と組織とひいては社会にとって、なすべきことをなすため。常に自らの理想に対して現実が未完であることを受け入れる生き方を選択する。信頼があって私たちが行動できるのではなく、私たちの行動があって信頼がそこに芽生えるのだということを忘れないでください

”組織は「機械」であり人は「部品」である”とされ、それは働く一人ひとりは組織を構成する部品であり、中心的な存在ではない、という考え方が刷り込まれてきましたが、そこには違和感を感じるはず

自分たちが今生きている世界の外側にある何かがあることを、その違和感は意味している、苛立ちや居心地の悪さは”手がかり”であると受けとめて、いまの関係性を超えていく一歩を踏み出しましょう