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『Invent & Wander』ジェフ・ベゾスは新規事業の応援団長

ジェフ・ベゾスは、書籍をオンラインで販売するだけでなく、キンドルをつくり、アレクサやAWSをつくり、ブルー・オリジンではロケットまでつくっている。
「アマゾンらしさとは何なのか?」とか「シナジーはあるのか?」と考え続けることよりも、「お客様のためになることは何なのか?」に向き合い続けてきたからこそ、多岐にわたるイノベーションに挑戦してこれたアマゾン。

その企業哲学のエッセンスを、ジェフ・ベゾスが書いた株主への手紙から直接うけとることができるのが『Invent & Wander』。その中でもとくに大企業の新規事業担当のためになるであろう箇所を抜粋・紹介します。

成長をともに喜ぶ


アマゾンの文化において新規事業には、高い潜在成長率があり、かつイノベーティブで差別化されていることが求められますが、だからといって最初から大きな事業である必要はありません。
1996年に書籍売上が1000万ドルを超えたときの興奮は、いまも忘れません。ゼロから1000万ドルまできたのだから、当たり前でしょう。
いまでは、社内の新規事業が1000万ドル規模に達したとしても、アマゾンの全社売上は100億ドルから100.1億ドルに増えるだけです。10億ドル規模の既存事業をすでに運営している経営者ならバカにしてもおかしくないような些細な金額にすぎません。
ですが、私たちはバカにしません。アマゾンの経営陣は新規事業の成長率をしっかりと注視して、お祝いのメールを送ります。そんな姿勢をかっこいいと思いますし、それがアマゾンの文化の一部であることを誇りに感じます。

『Invent & Wander』

既存事業に匹敵する規模にまで成長することを新規事業は期待されがちですが、アマゾンの経営陣はその成長率をみて、それを一緒に喜んでくれます。アマゾンの「毎日がはじまりの日(It remains Day 1)」も、全社員を創業当時の新鮮で野心的で、成長機会を求める前向きな気持ちを思い返すスイッチになっています。


後戻りできる判断なら、すばやく決める

意思決定には影響が深刻で取り返しのつかないもの、またはあとでもとに戻すのがかなり難しいものがあります。そうした片道切符の決定は、順を踏んで注意深くゆっくりと、さまざまなことを考慮し検討したうえで行わなければなりません。いったん決定を下して扉を明けてからがっかりしても、もとには戻れないのです。この手の意思決定を「タイプ1」と呼ぶことにしましょう。
一方で、ほとんどの意思決定は変えられますし、もとに戻すこともできます。往復切符があるのです。この手の「タイプ2」については、それが間違っていたと気づいたら、そこに留まる必要はありません。扉をもう一度開いて、来た道を戻ればいいだけです。タイプ2の決定は、判断力のある個人や少人数のチームが素早く下せますし、そうすべきです。
組織が大きくなると、後戻りできないタイプ1の意思決定のプロセスを、タイプ2にも当てはめてしまいがちになるようです。すると、動きが遅くなり、むやみにリスクを回避してしまい、実験が十分にできず、その結果、発明が減ってしまいます。そんな傾向に陥らないための方法を考えなければなりません。

『Invent & Wander』

ピラミッド型の大企業は、大事な意思決定は慎重な手順とプロセスを経て上層部に上げていき、時間をかけて「失敗のないような」判断を下すことを機能的に進めることに最適化されます。ジェフ・ベゾスは、意思決定の対象に応じてタイプ1とタイプ2の2つを使い分ける、というシンプルな提案で、この落とし穴の回避を提案しています。

「スピードを早めることが、経営では重要である」という哲学も、繰り返し伝えなければならないポイントなのでしょう。働く社員が増え、組織が分かれると、普通にしていたらどんどんスピードは遅くなります。「この意思決定で、失うものはないか?」ではなく「この意思決定は、後戻りできるのか?」で判断できるようになれば、素早い意思決定ができ、仕事も軽快でたのしくなるはずです。


高い目標をたて、大変さを知り、努力する

最近、親しい友人が逆立ちをマスターしようと心に決めました。壁によりかからず、一瞬で崩れたりせず、インスタグラムに載せられるくらいの、立派な逆立ちができるようになりたいと思ったのです。
そこでまずは通っていたヨガ教室で逆立ちのレッスンに参加してみました。それからしばらく練習したものの、思ったようにいきません。そこで逆立ちのコーチにつくことにしました。そう、ちょっと驚かれたかもしれませんが、逆立ちのコーチなんて職業が存在するんです。初回のレッスンで、そのコーチが素晴らしいアドバイスをくれました。
「逆立ちなんて、頑張れば2週間くらいでできるようになるはずだと思ってる人がほとんどだ。でも実際は、半年間毎日練習しないとできるようにならない。もし2週間でできるようになると思ってはじめたら、途中であきらめることになる
現実的でない甘い考え ほとんどは目に見えず話題にものぼりません は、高い基準を殺してしまいます。自分自身が、またはチームの一部として高い基準を達成するには、それが現実にどれほど大変かをしっかりと理解し、まわりにも積極的に伝えなければなりません。友人のコーチはそのことをよくわかっていたのです。

『Invent & Wander』

新規事業は「スモールスタート、クイックサクセスを目指そう」という一見低い目標設定をすることを促されます。まずは目に見える成果をだすところから周囲の信頼を勝ち取る、ということも大切ですが、「低い目標を設定したのに、それすら実現できてない」という厳しい目にさらされる流れになることも。。
そうではなく「ビジョンやミッションを掲げて、中長期的な視点をもとう」というアプローチもありますが、「そんな志がある社員は、うちの会社にはいない」という自己否定に陥って、雁字搦め(がんじがらめ)になる。。

そんな組織に必要なのは「高い基準をかかげられる組織文化をつくる」こと。そのためのファーストステップが、その目標の達成が、いかに難しいことなのか、その大変さを知り、周囲にも知ってもらうこと、です。

どれだけの努力を必要か、が具体的にわかると、周囲も適切な期待と寛容さをもって待ってくれます。あとは、努力するだけです。


会社が大きくなれば、失敗の実験規模も大きくなる

会社が成長するにつれ、すべてを拡大させていかなければなりません。失敗する実験の規模もまた、大きくなるのは必然です。失敗の規模が大きくならないとしたら、企業や社会を動かすほどの大きなものを生み出していないということです。
アマゾンは、いまの企業規模にふさわしい大規模な実験を行っていくつもりですし、時には数十億ドル規模の損失を被ることもあるでしょう。もちろん、最初から大失敗してもいいと思って実験をすることはありません。有望な賭けを行うための努力は惜しみません。ですが、有望な賭けでもすべてに勝てるわけではありません。この手の大きなリスクテイクは、私たちが大企業としてお客様と社会に提供できるサービスの一部です

『Invent & Wander』

大きなリスクテイクができるのは大企業だけ、です。「ゼロイチを経験した人材がいない」なら経験してもらうか、社外から引っ張ってくるしかない。「大きなリスクの責任を負いたがる社員はいない」なら、小さなリスクからステップアップするか、いくつもの挑戦機会をつくって企業の未来を背負った新規事業とその担い手を増やすのもいいかもしれません。

「大きなリスクテイクは、弊社の製品の1つです」そう言える、気概ある経営者が日本にも増えることを願っています。


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