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読書感想28冊目:色にや恋ひむ ひひらぎ草紙/深山くのえ著(小学館文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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平安恋絵巻!

これが最後の恋でいい

許嫁を妹に奪われて女官となった淑子
嘲笑の中、突然の求婚者が現れてーーー!?

帯より

 公式での紹介文には、一行目に『後宮で複雑に絡み合う恋を描いた平安恋草紙』とあります。
 親同士で定められた婚姻は、無事に結ばれることはありませんでした。
 なぜならば、実の妹が姉である主人公、潔子(きよこ)の許嫁と結婚してしまったから。
 今回は、前作の前置きで書いた「親同士の取り決めによる婚姻の話」ともまた違った、「そうならなかった時のお話」といったところでしょうか。
 未婚の適齢期の人間が、相手もおらずに人生を過ごしている。世間からの目はどうでしょうか。
 今よりも結婚の意味が多く、重くある時代なのと、男女のしがらみに面白さを感じるのがひとしきり強いので、主人公のスキャンダルもそれはそれはおもしろおかしく噂してくれるもの。ましてや、その後噂の被害者である姫君が宮中で働くことになったとあれば、噂の人物を目の前にして興味を持たずにいられないでしょう。
 今はない、というよりも現代はそういった「社会の目」以上に個人の意思が守られるような時代になっているので(そもそも適齢期、の年齢もずれているでしょうが)少し見解が違うかもしれませんが……
 とにかくもまぁ、男女関係のもつれは面白おかしく語られるし、そんな話題が一番の中で、噂の種とともに見られる、針のむしろの世界で生きることになった姫君のお話が、この『ひひらぎ草紙』となります。

 このお話は現在(R5.1月現在)2冊からなるシリーズとなっておりまして、主人公にまつわる副タイトルがつけられています。

 前作

 今回の『ひひらぎ草紙』からのつながりは、主人公、潔子の呼び名から。
 現在、内外を通して宮中は争いの真っ最中。帝のどの御子が次の帝となられるのか、女の寵愛争い、権力争いというものは上の方々の動きであれど、派閥にあるとならば互いにいがみ合うも同然で。
 そのいがみ合いにいつも引っ張り出されるのが潔子姫。仕事は「典侍(ないしのすけ)」という、宮中においては帝の近くで行う仕事が多いもの。
 ある意社長近くの総務系のお仕事、というイメージでしょうか。
 そんな潔子のお仕事とともに、なぜかいつも宮中の騒ぎに呼ばれ、いがみあいの仲裁を行ううちについたあだ名が「柊の典侍」。
 強く正しく、ときちんと仕事をする彼女をうとましがる女房たちもいながら、うまくやっていけているし、変わらないであろうと日々過ごす彼女の前に除目(人事異動)により新しい蔵人が現れる。
 ひとりは妹の夫となった右大臣の次男、豊隆。そしてもう一人。
 現在の東宮の嫡子、源誠明(みなもとのさねあき)が新たな蔵人となったのですが、彼もまたなかなかな境遇。
 暫定の東宮、というのが父の立場。それがゆえにすでに皇家からは離れているのですが、こちらも同じく世間の目が、という状況。
 そんな彼が、突然、潔子に「結婚してください」と言うのでした。

 仕事人間でいようと思っていた淑子はそりゃあ驚くでしょうね!
 なにせ結婚するつもりだったのにとんでもない形で破談となり、自分は被害者なのに周りからはおもしろおかしく言われて、なんとか仕事をこなしているのにまわりには「きつい女」とレッテルと貼られて。
 しかもですね。寝取られた(!)元許嫁、とんだ女たらしで結婚後に淑子を見て改めて「なんと美しい人だ、やはり貴女と結婚するべきだった」とか言いながら迫ってくるような人なんですよ!
 なんかもう、家族にも元許嫁にも裏切られて人間不信になるし、そんな境遇であれば割と自然と「結婚なんていいや」という境地に至ると思うんですよ。
 しかも、淑子姫は仕事ができるタイプ。まじめできちんと「やるべきことをちゃんとする(できる)」人で、同僚がさぼりタイプ。
 そうするとまぁ、まわりからは頼りになるのはあなただけ、となりますわね。その結果が騒ぎに引っ張り出されて追い払って、感謝されつつ追い払われた側からは疎まれる、のが通常仕様。
 それでも私だったら、そういうしゃんとしたかっこいい女性が先輩ならばめちゃくちゃ慕うし大好きだと思うんですけどね。
 作中でも、そのあたりの描写はたくさん出てきます。ただ、淑子姫はいろんないやなことのせいで自己肯定感が下がっていて、あまり自分が周りに慕われているとは思っていないのですが。
 そのかたくなな心に寄り添うのが、誠明さん。
 彼もまた、己の境遇がゆえに「己の本心」をなかなか見せることができないでいるのですが、その彼がひとつだけこらえなかったのが、淑子姫への求婚。
 その思いを読むにつれ、二人のそれぞれの向き合い方、心の寄り添い方が好ましくて仕方がないです。
 がんじがらめにしてくる、自分以外の人による所業を、自分のことだけど囚われ続けるのではないとほどいていくような。
 間に入ってくる義兄(元許嫁)はアホばっかりしてくるし、入内してくる姫君のお世話はめんどくさいし、二人の思いのやりとりをそっとして、見守っていてやってくれーーーー!!!って言いたくなります。
 でもお話なので、そのあたりには事件がないと発展もしないのですが。
 あとまぁ、潔子的にはやはり後ろ向きな状態ですし。
 ものすごく時間がかかりそうな関係性。人間関係って難しい。

 女社会でありながら、ビジネス社会の様相も垣間見えて、女って怖い……となりつつ、きちんと仕事をしていると、見ている人は見てくれている、と安心できるお話でした。
 もちろん、平安恋絵巻なので、さざ波のように揺れる心の様や、募る思いや好きになったエピソードなど、読んでいる間にたくさんのときめきを得る描写を見ることができるので、恋のお話としては十二分に魅力的です!!!

 公式紹介ページはこちら

お読みいただきありがとうございました!

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