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読書感想27冊目:色にや恋ひむ かんなり草紙/深山くのえ著(小学館文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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平安王宮ロマン!

運命の恋

裏切られた過去を生きる沙羅
月夜に現れたのは、忘れたくても忘れられない、かつての許嫁だったーーー

帯より

 公式によると、紹介の一行目には『運命の人はかつての許婚?平安後宮ロマン!』とあります。
 平安時代の貴族の恋といえば、親同士が決めた縁により、夫となる公達が姫君のもとに三日間通い、そうして「結婚した事実」をもって夫婦となるというのが主流。
 それにあわせ、よく目にしていたのは「親に勝手に決められた縁が気にくわない!!!」といったお話だったような気がします(当社比、というやつです)
 その結果、なんとお見合い結婚が主流のはずが、恋愛結婚につながる、というもの。そしてそして、実はその相手がお見合い相手だった……みたいな。
 そういうお話が多かったのですが、今回は少しだけ違っていて。

 このお話は現在(R5.1月現在)2冊からなるシリーズとなっておりまして、主人公にまつわる副タイトルがつけられています。
 今回の『かんなり草紙』からのつながりは、主人公の沙羅姫(阿相の君)が乾の衛士(沙羅姫が仕える、梅壺に住まう王女御の飼い猫)が、夜の散歩に「神鳴壺(かんなりのつぼ)」と呼ばれる殿舎に出向くことから。
 その殿舎を中心に、お話の歯車が廻り始めます。
 沙羅姫は女御に仕える女房という立場ではあれど、昔は山吹大納言の娘という貴族のお嬢様でした。両親の相次ぐ死と、財産が不当なやりとりでなくなってしまった結果、先行きが立たず、母の姉の嫁ぎ先へと身を寄せた結果、今の形に収まっているだけで。
 それでもあまり野心のない父とその妻であった母のものを受け継いでか、元々の性格がそうであるのか、己の不運を嘆き続けることも恨みを持つこともなく、「そういう運命だったのだ」と受け入れてしまっている始末。
 その諦めた全てのなかの一つに、恋もあり。
 いや、恋にもならなかったというべきか。
 冒頭にて少し触れた、「お見合い結婚」のように、沙羅姫にも許嫁があったけれど、その縁は結ばれることはなく、沙羅姫にとっては同じく諦めた者の一つでした。
 名前だけは忘れたくても忘れられないものではありましたが。
 猫の夜歩きのお付き(という名の見張りのようなもの)でいつものように神鳴壺にやってきたところで、まさかの再会が。そう、その忘れることのできなかった許嫁の君、右近少将 藤原朝蔭が、沙羅姫の前に現れたのでした。

 嫌いで縁が切れたわけでもなく、淡い恋の始まりで断ち切られた想いにはふたをして、それでもその痛みを抱えながらひそやかに生きていこうと思っていた沙羅姫は、それはそれは動揺します。
 もう、すべてを諦めていたのに。
 けれど、この出会いから全てが変わっていくのです。
 沙羅姫が会わずともそうであったように、朝蔭もまた沙羅姫に想いを寄せていたのです。朝蔭は沙羅姫のことをこっそり見ていて、その面影を忘れられなかった、というのもありますが。
 そして、諦めた沙羅姫に対し、朝蔭が諦めてはおらず、沙羅姫に新しい道を示していくのです。
 このお話では親の思い(主に朝蔭の父親ですが)に振り回されつつ、その間に自分たちが自立してきちんと幸せをつかみ取っていく、という印象を持ちました。
 平安時代の男女の立場や出世の仕方や貴族、政治のあり方でどうしても立ち位置が変わってしまう部分も多々ありますが、大人になってからきちんと向き合うことができた沙羅姫と朝蔭は、それぞれの立場で一歩進む勇気や力を得たことで幸せに進んでいけたのだと思います。
 知った(渦中にいた)がゆえに諦めた沙羅姫、知らなかったがゆえに諦めなかった朝蔭。
 それでも二人はきちんと互いに向き合って、諦めざるを得なかった、手の中からすり抜けたものに手を伸ばすのです。
 朝蔭の父親は相当に冷静で傲慢な野心家で、自分以外の人間を全て駒としか思っていない節もありますが、そのなかで二人の血の通った、それでいて初々しくもやさしいやりとりの描写もお話を引き立てます。
 終盤には政略結婚、大きなハプニングがありますが、それに負けずに立ち向かっていく二人の姿とその収束の仕方に、少女小説らしいときめきを覚えるのでした。

 平安時代の、立場や親の力の縛りが強い社会の中で、もしかしたらよくあった話なのかもしれないな、と思うくらいに、ひきつけられる描写。
 深山くのえ先生の恋愛ものは、どれもヒロインが芯が強いけれどとても優しく、そしてときめきを供給してくれるので大好きです。

 公式紹介ページはこちら

お読みいただきありがとうございました!

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