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地方公立美術館の学芸員です。ただの記録として。

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最近の記事

【鑑賞記録】特別展「北斎と広重 冨嶽三十六景への挑戦 江戸東京博物館コレクションより」

中之島香雪美術館で開催している特別展「北斎と広重 冨嶽三十六景への挑戦 江戸東京博物館コレクションより」(5月26日まで)を拝見しました。本展は岡山県立美術館、大分県立美術館へ巡回します。 日曜日に伺ったので入館制限が若干ありました。土日は一日1,000人以上の入館者数になるとのこと。 はじめと終わりに広重に関する縁の資料があり、間に北斎の作品と広重の作品が並びます。いつもの壁面ケースの前に壁を設えてあるので展示空間としてはかなり狭くなっています。肩越しに作品を見るのも難

    • 【鑑賞記録】春季特別展「歌留多」

      滴翠美術館で開催している春季特別展「歌留多」展(6月9日まで)を拝見しました。 滴翠美術館は山口銀行(三和銀行の前身)の頭取を務めた山口吉郎兵衛が収集した美術品を公開している美術館です。芦屋の閑静な住宅街にあり、ベランダからはフランク・ロイド・ライトが設計したヨドコウ迎賓館が臨めます。 山口吉郎兵衛は遊びにまつわる美術工芸品を収集しました。滴翠コレクションの中で特に知られるのが「天正かるた」で、今回の展示でも陳列されています。一枚の「天正かるた」表裏を剥がして隣り合わせて

      • 【鑑賞記録】開館40周年記念 源氏物語 THE TALE OF GENJI ―「源氏文化」の広がり 絵画、工芸から現代アートまで―

        東京富士美術館で開催中(3月24日まで)の開館40周年記念 源氏物語 THE TALE OF GENJI ―「源氏文化」の広がり 絵画、工芸から現代アートまで― を拝見しました。 『源氏物語』を題材とする絵画を源氏絵と呼びます。一番知られている源氏絵は言うまでもなく五島美術館と徳川美術館に分蔵される国宝「源氏物語絵巻」です。トーハクのやまと絵展に出陳されていたので本展では展示されていません。俵屋宗達の国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」もお休みです。本展のタイトルにあるように源氏

        • Laura von Mari - Fog

          Laura von Mariはロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで学んだシンガー・ソングライターです。

        【鑑賞記録】特別展「北斎と広重 冨嶽三十六景への挑戦 江戸東京博物館コレクションより」

          ROTEM - See Ya

          ROTEMはアムステルダムを拠点とする8人組。日本のシティ・ポップとフレンチ・ディスコにインスパイアされたと公言するEP「PHASE 1」を2023年11月に発売しました。

          ROTEM - See Ya

          【鑑賞記録】「金屏風の祭典ー黄金の世界へようこそー」

          岡田美術館で開催している「金屏風の祭典ー黄金の世界へようこそー」(6月2日まで)を拝見しました。 岡田美術館には伝俵屋宗達筆「源氏物語図」の団家本(絵合図)と藤井家本(明石図)それぞれ1点ずつが所蔵されています。今回は藤井家本が展示されているので拝見に伺った次第です。 明石図は源氏が明石入道の誘いを受けて夜更けに馬で訪れる場面が描かれます。源氏一行は画面下側に描かれ従者たちは半身で描かれます。右上に銀で月が描かれていて、人物を半身で描くことで空の高さを意識させます。掛軸で

          【鑑賞記録】「金屏風の祭典ー黄金の世界へようこそー」

          【鑑賞記録】特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

          東京国立博物館で開催中の特別展「本阿弥光悦の大宇宙」(3月10日まで)を拝見しました。 (画像出典ColBase:https://colbase.nich.go.jp/) 刀剣の鑑定家であり能書家でもあり、漆芸家、作陶家としても知られる本阿弥光悦を紐解く展覧会でした。 今回の鑑賞ポイントは書と下絵とのコラボレーションとしたかったのですが、多岐にわたる作品が展示されていて下絵のあるものは少なく目的には叶いませんでした。やまと絵展と比べると借用先が厳選されていて、よく知られる

          【鑑賞記録】特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

          【日本美術】田中親美模写「伊勢物語図色紙」

          田中親美は益田家本伊勢物語図色紙を模写しています。現在は個人蔵となっていて、36図のうち第6段の雷神が画帖から剥がされ35図となっています。 『田中親美 平安朝美の蘇生に捧げた百年の生涯』(名宝刊行会編・展転社・1985年)に伊勢物語図色紙についての記載がありました。 それによると田中親美は団家本と呼ばれている4図も模写していたようです(132頁)。こちらの模写本は現在所在不明です。また団家本は団家にあったときは4図をまとめて画帖となっていた(130頁)という記述もありま

          【日本美術】田中親美模写「伊勢物語図色紙」

          【日本美術】源氏物語図断簡

          宗達とその工房は源氏物語の各場面をまとめた屏風を制作しています。1つは源氏物語54帖の各場面を六曲一双に描いた屏風で、それらが分断され各図は団家本の呼称が付されます。もう1つは八曲一隻の屏風で桐壺から松風の場面を描くもので分断された各図には藤井家本あるいは本願寺旧蔵という呼称が付されます。 団家本のひとつの付属品に田中親美の聞き書きを記した用紙がありました。それによると断簡とした理由は団琢磨が屏風として所蔵していた時に、同好の士たちと分かち合うべきと考えたと記されていました

          【日本美術】源氏物語図断簡

          【鑑賞記録】特別展「都市の祈り 住吉祭と堺」

          堺市博物館で開催している特別展「都市の祈り 住吉祭と堺」を拝見しました。 本展は堺市博物館が所蔵する「住吉祭礼図屏風」(以下、堺市博本)とサンフランシスコ・アジア美術館が所蔵する「住吉祭礼図屏風」(以下、サンフランシスコ本)を中心に構成されていました。サンフランシスコ本は日本初公開で、住友財団の助成を受けて岡墨光堂で修復を受けてのお披露目となります。 展示の中心は上記の作品ですが、冒頭に展示されている「住吉遊楽図屏風」に目を奪われました。描かれるのは傾奇者たちが博打をして

          【鑑賞記録】特別展「都市の祈り 住吉祭と堺」

          【鑑賞記録】仙厓展

          福岡市美術館で仙厓展を拝見しました。 仙厓義梵は博多の聖福寺で住持を務めた禅僧です。ゆるかわな水墨画をたくさん描いています。仙厓のコレクションといえば東の出光美術館、西の福岡市美術館といえるほどのよく知られたコレクションです。 「犬図」には「きゃいんきゃいん」という賛が添えられています。木の棒のようなものを紐で引きずるような姿ですが、耳が垂れ下がり伏し目がちな姿からこの犬は困っているように見受けられます。 「指月布袋図」の賛は「あの月が落ちたなら誰にやろふかい」とあって

          【鑑賞記録】仙厓展

          【鑑賞記録】表装の愉しみ ある表具師のものがたり

          泉屋博古館で開催している特別展「表装の愉しみ ある表具師のものがたり」を拝見しました。 表装とは絵画を鑑賞するために欠くべからざるものです。絵が描かれている紙や絹を本紙と呼びますが、本紙だけではすぐに傷んでしまいます。また絵を見るのにも不便です。そこで掛軸や巻物に仕立てて保存と鑑賞両方に叶うように表装されます。もともとは中国でおこなわれた表装は、日本へも奈良時代頃に伝来した仏画によって知られるようになったとされます。 今回展示を拝見して感じたのは、中廻しの幅(表装の柱の幅

          【鑑賞記録】表装の愉しみ ある表具師のものがたり

          【鑑賞記録】メナード美術館コレクション名作展2023

          愛知県小牧市にあるメナード美術館で「メナード美術館名作展2023」展を拝見しました。 名作展と銘打つだけあってどれも美術好きであれば聞いたことのある、あるいは見たことのある作品で構成されていました。西洋はモネ、ゴッホ、ピカソ、ムンク、クレー、日本は岸田劉生、中村彝、梅原龍三郎、小出楢重などなど。 ゴッホ「一日の終り(ミレーによる)」はほぼ同じ長さの筆線を積み上げるようにして描き上げていて、その積み重ねを見るのが楽しい作品でした。 岸田劉生「笑ふ麗子」は前歯を見せて笑う姿

          【鑑賞記録】メナード美術館コレクション名作展2023

          【鑑賞記録】小コレクター運動と福井

          福井県立美術館で開催している「小コレクター運動と福井」展を拝見しました。 小コレクター運動とは無名芸術家の作品を市民が購入して支援する運動のことで、少額を出し合ってまとまった金額を芸術家へ渡し作品が制作されました。 この運動に助けられたのは今では名の残る瑛九や靉嘔などの芸術家たちがいます。特に福井県大野市はこの活動が活発だったそうです。 展示はモノクロ主体の北川民次、カラフルな靉嘔、モノクロの瑛九というようにモノクロとカラーを交互に配置してマンネリにならない工夫がされて

          【鑑賞記録】小コレクター運動と福井

          【鑑賞記録】古伊賀 破格のやきもの

          五島美術館で開催中の「古伊賀 破格のやきもの」展を拝見しました。 展示ケースに畳をひいてやや低めの位置に陳列がされていて内側を覗ける展示でした。LEDで表面にスポット的に光を当てて質感もじっくり見ることができます。キャプションには背面や底面の画像も添えてあり丁寧な展覧会だと思いました。 古伊賀の魅力はザラザラした表面に幾何学的な文様をヘラで大胆にあしらう点と釉薬をかけずに焼成して灰と土から作られる自然釉「ビロード釉」にあると思います。 大胆にあしらわれる文様を見ていると

          【鑑賞記録】古伊賀 破格のやきもの

          【鑑賞記録】青磁ー世界を魅了したやきもの

          作品返却作業がスムーズに終了したので出光美術館で開催中の「青磁ー世界を魅了したやきもの」展を拝見しました。 青磁の歴史が通覧できる展覧会なのにほとんどが出光美術館の所蔵品で構成されていて、所蔵品の豊富さに感嘆します。それだけではなく青磁といえばあの作品と言われる作品も借用されていて大変満足度の高い展覧会でした。根津美術館の青磁筍花生や青磁筒花瓶 銘大内筒、東京国立博物館の青磁茶碗 銘馬蝗絆(上写真)なども見られます。 展示は越州窯から始まり徐々に青味強くしていく青磁の変遷

          【鑑賞記録】青磁ー世界を魅了したやきもの