移住も観光も、自然や美食じゃなくてストーリーが欲しい。
絶景や美味しいごはんは大好きですが、それだけじゃちょっとパワー不足。まして「XXが全国〇位」はへぇと感心するけど、心は動かない。
「ここに行きたい!」「ここに住みたい!」みたいな衝動的な願望が生まれる瞬間は、だいたい誰かが紡いだストーリや想いが自分の記憶と繋がったとき。そんなときは蹴とばされるように、動き出します。
そもそも緑と美味しいものは全国に溢れている
都内に住んでいた頃は忘れがちだったのですが、日本は大都市圏を除き全国的に緑があふれて美味しいものがたくさんあります。海に囲まれ、国土の7割が森林。しかも、亜寒帯から亜熱帯に至る南北に長い日本列島には、各地でしか見られない景観や生き物、それに由来する名産物が溢れていて、決して均一な土地でもありません。
それだけに、「良過ぎて差がつかない!」という問題があります。どこに行ってもだいたい正解。美味しい食べ物とお酒を堪能し、珍しい景色に感動して、大満足できるはず。そうなると「うちは自然豊かで食べ物もおいしいよ」では、他の地域に埋もれてしまって、誰かの背中を蹴るにはパワーが足りない。
一に富士山、二に緑茶、だけども
観光や移住など「人を呼び込む」ことを考えるとき、どうしても差別化しようと自分たちの地域にしかないものを軸にメッセージを発してしまいます。
東京から静岡へ移住してきた私も、ついつい「静岡には富士山があるし、お茶は日本一だよ」なんて説明をしがちですし、静岡のパンフレットにはだいたいこの二つが描かれています。究極絶対の魅力であることに間違いはないのですが、ふと自分の胸に手を当てて考えると、たぶん、富士山と茶畑がなくても静岡に移住しています。静岡から富士山を引っこ抜いても、静岡の魅力が減らない…?!
私の背中を蹴とばしたものは
静岡との初めての出会いは大学卒業直前の学会でした。それまで静岡に何の印象も持っておらず、研究発表のために向かっただけでしたが、到着してみると、静岡駅前の賑やかさに驚き、コンベンションセンターから見える富士山の大きさに感動し、浅間神社と賎機山の古墳をみて歴史に想いを馳せ、夜は静岡おでんとマグロに舌鼓を打ちました。
また、社会人になって出張で訪れたときは、タクシーの運転手さんが「富士山見えなくて残念ですよね」と言って富士山のポストカードをくれたり、盛夏に訪問した先で出された美味しい冷茶が忘れられなかったり、小さな幸運な出会いが重なりました。さらに、静岡に転勤した旧友が静岡の暮らしを満喫していたり、どんどん静岡がポジティブなイメージで彩られていきました。
出張や遊びで訪れているうちに、暮らしやすさを具体的に想像できるようになっていた場所だからこそ、東京を離れたいと思ったときに、静岡へ吸い寄せられたんだと思います。
誰かの想いが記憶と繋がったとき、行先が決まる
旅先を決めるときも、大なり小なり似たところがあります。友人が語るウズベキスタン旅行の思い出を聞いているうちに、中学校の校長先生がシルクロードにまつわるエピソードを繰り返し話してくれたことを思い出し、突然「行こう」となったり。
コロナ禍で減ってしまった喧騒への郷愁から、大勢の大人がにこにこ楽しんでいた昭和のCMを思い出して、そのホテルに行ってみたり。(そう、サン・ハトヤです、本当に鳩が出演するショーもある素晴らしいホテル。)
最近は、あるパンフレットを見て、初めて知った場所でまだ何があるのかも知らないけれど、行ってみたくて仕方ない場所があります。そのパンフレットは、移住者や昔から暮らす方などいろんなメンバーで作ったようで、ページの隅から隅まで愛で溢れていました。ぜひ見てください。島根県の山側にある奥出雲地方を紹介する「おくたびvol.1」。「とにかくすごくいい場所だから来て!」と言われている気がします。
パズルのピースに手を伸ばさずにはいられない
日常生活を送っているだけでは、自分の生活に欠けているものには案外気づきません。でも誰かの話しを聞いているうちに、突然「自分の生活にはこれが足りてなかったんだ」と気づくことがあります。はっ。
私はこうなったとき、堪らなく動きたくなります。不満とはちょっと違う。そのピースは心のパズルの隅っこにピッタリはまりそうで、手を伸ばさずにはいられないのです。パチッとはまったときは爽快です。そんな感じで、あ、これはパチッときそう、という予感がする場所に引き寄せられてしまいます。「コト消費」の考え方に近いかな。
だから、好きな場所の魅力を発信するとき、観光資源を羅列するんじゃなく、まずは自分自身にパチッときたことをストーリーとして組み立てる必要があると思っています。美しくなくたっていいし、全部じゃなくていい。でも手で触れたようなぬくもりを感じられる具体的なストーリーを。写真でも同じですね。
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