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【物語:自由詩シリーズ】第16話 私たちのベリーベリー

私の名を呼ぶ声に目が覚めた。
大丈夫、ここにいるわと囁いて
伸ばされた指に指を絡めれば、
ゆっくりと兄のまぶたが開いた。

よかった、泣いてない。

いつもよりずっと無防備な青が揺らめく。
安堵の息を吐いて、兄がそっと呟いた。
夢を見たのだと言う。
ベリーがないと私が泣く夢だ。

大丈夫、ともう一度私は囁いた。
そんな心配はない。
今日は約束のラズベリー摘みの日。
お気に入りの籠を持って兄と出かける。

人気ひとけのない森の奥、
夢中になって赤い実を摘む。
ふと振り返れば、見たことのない籠。
覗き込むとそこには、小さな小さな赤い実。
私は声を上げて笑った。

ヤブヘビイチゴ。
誰も食べないけれど黄色い花も可愛いそれは
私たちの初夏のままごとの大切な食材だった。

パイにパンにスープにジュース。
ヤブヘビイチゴがなければ始まらない。
だから季節の終わりには
泣きべそをかく私がいたのだ。
ああ、兄の夢は、と笑いがこみ上げる。

これだけあれば足りるかな?

ヤブヘビイチゴの籠を抱く私を覗き込んで
兄が得意そうに目を細めた。

いつだって美味しいと言ってくれた。
なんどもお代わりしてくれた。
柔らかな午後の記憶がなんとも甘酸っぱい。

さあ、今日は美味しいものを作りましょう。

二つの籠を掲げて私は微笑んだ。
家への道は懐かしい鼻歌をお供に。
真っ赤な実たちが誇らしげに輝いていた。



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