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第173号(2022年4月18日)北朝鮮の戦術核と強化されるウクライナ援助の行方

【今週のニュース】北朝鮮が戦術核弾頭用新型ミサイルの発射試験を実施

 4月17日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、「新型戦術誘導兵器」の発射実験成功を報じた。発射実験には金正恩労働党総書記が立ち合ったとされ、重要な実験であったことが窺われる。
 特に注目されるのは、この新型ミサイルが「戦術核運用の効果と火力任務の多角化」に寄与するものであり、金正恩総書記も「防衛能力と核戦闘部隊の一段の増強に関して重要な指示を与えた」とされている点であろう。素直に読めば、これは新型ミサイルが戦術核弾頭の運搬手段であることを示しているように見える。

 ただ、北朝鮮はこれまでのところ、大型弾道ミサイルに搭載可能な水爆弾頭の開発を優先してきたと見られ、2017年9月の最後の核実験はその最終段階と位置付けられていた。となると、小型の弾道ミサイルに搭載可能なサイズの核弾頭の開発には7回目の核実験が必要とされる可能性が高いが、実際に韓国は豊渓里(プンゲリ)核実験場の動きが活発化しているとして警戒を強めている。

 こうなると北朝鮮は戦略核戦力による確証報復戦略に加え、戦術核兵器の実戦使用による非対称エスカレーション戦略を視野に入れ始めた可能性があると考えられよう。
(北朝鮮の核戦略については本メルマガ第102号も参照されたい )


【インサイト】ウクライナへの軍事援助と戦争の行方

拡大する西側の軍事援助

 本メルマガ第171号で紹介したように、3月末の第2回ウクライナ防衛国際ドナー会議(IDDCU)では、西側諸国がウクライナに対する軍事援助の方針が大きく変わりました。これまでのジャヴェリン対戦車ミサイルやスティンガー歩兵携行型地対空ミサイルだけでなく、防空システム、沿岸防衛システム、長距離砲、装甲車両、訓練、後方支援等を提供するというものです。

 実際、それから3週間ほどの間に、ウクライナに送られる武器の中身は大きく変わりました。詳しくはOryx blogの以下の記事にまとめられていますが、戦車をはじめとする装甲戦闘車両、S-300PMU防空システム、火砲などが供与ないし供与予定されています。

 ここで興味深いのは、送られる兵器がかならずしもかつてのソ連製兵器ないしそのヴァリアントに限られていないという点でしょう。例えば米国はM113装甲兵員輸送車(APC)200両や155mm榴弾砲18門を提供するとされているほか、チェコからはダナ152mm榴弾砲20門以上やRM-70多連装ロケットシステム(MLRS)20両以上など、これまでウクライナ軍が扱ったことのない兵器が多数含まれています。
 従来は「ウクライナ軍の兵士が再訓練なしにすぐ使える東側製兵器がいいのだ」ということになってしまいたが、この方針は大きく転換されたようです。実際問題として再訓練にはそれなりの時間がかかるのでしょうが(それゆえにIDDCUの援助には「訓練」が含まれている)、予想される東部でのロシア軍大攻勢に対抗するためにはそこに拘っていられなくなったということだと思われます。
 とすると、ここに並んでいる国旗のリストはまた別の意味で興味深い。もはや旧東側製兵器に限らないならドイツもそれなりに援助できるものがあるのでは?と思わないではないのですが、同国の姿はありません。このあたり、本当に出せるものがないのか、やはりロシアとの関係に配慮しているのかはいろいろと政治的な事情がありそうです。
 このほかに注目される供与兵器としては、大量のスイッチブレード自爆ドローンがあります。
 軽装甲車両までを対象とするスイッチブレード300と戦車も撃破可能なスイッチブレード600という2種類があるそうですが、相当まとまった数が供与される予定である上、10-30kmも先の目標を攻撃できるということですから、これまで米国が供与してきたジャヴェリンよりもはるかにリーチの長い兵器です。ウクライナの航空戦力がかなり限られた場所と時間しか活動できていないことを考えると、貴重な長距離打撃手段(しかも短時間の訓練で歩兵でも扱える)ということになりそうです。

'Switchblade' Drones Included In New U.S. Military Aid Package For Ukraine


巡洋艦モスクワ撃沈の意味

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