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本日は井之頭五郎さんをお招きしたいと思います。

もちろん井之頭 五郎は架空の人物だし、演じた松重 豊さんとも、わたしは知り合いでもなんでもないのだが、まあ聞いてほしい。
「孤独のグルメ」が好きだ。
原作も読んだうえで、繰り返しドラマも見ているし、先のシーズンではなんと!わたしの住んでいる富山にも来てくれた。
ここではドラマファンの親しみとして、松重 豊さん演じるキャラクターをゴローちゃんと呼ぶ。

ゴローちゃんはひとたびお腹が空くと、おいしいものに猛進する。
そして今、どんなものを食べたいムードなのか、自分にひたすらに問いかける。
その正直さは、ご自愛そのものではないか。




「孤独のグルメ」の基本情報

「孤独のグルメ」は作画・谷口 ジロー、原作・久住 昌之で描かれた漫画(新装版で全2巻)。個人で輸入雑貨商を営む井之頭 五郎が、取引先との行き帰りで、寡黙にして雄弁なひとり言と共に、グルメを存分に楽しむ姿を捉えた物語。
テレビ東京の年末も飾る看板ドラマだ。


谷口さんが亡くなられて以降は、ドラマオリジナルの話が増え、2023年で10周年を迎えた。日本では同一タイトルでシーズンを重ねる方式は珍しいものの(海外ドラマでは一般的)、息の長い製作から作品と巷とを繋ぐ営みが根強く支えられていることを伺える。
時に顧客の無茶な要望を聞いては、日本縦断の羽目になるものの(年末SP)、基本は素朴な街のあり方や変化に感じる郷愁、食事に留まらない店の味わいを見せることに変わりはない。そこに大きなドラマはないが、わたし達は「ゴローちゃんが何を食べ、どう感じ、おなかいっぱいにするのか」を目撃することにある。

腹が、減った ──── 。 に詰められた、自己肯定の種

お腹が空いたら、ごはんを食べる。
ゴローちゃんが、この行為を疎かにすることはない。

「自分の食べたいものを食べる」
「好きなもの、気になったものは我慢しない」
この2点は、ゴローちゃんのワガママぶりがよくわかるところであり、ひとによっては、え?こんなことで?と感じるかもしれないが、肝と言える大切な2点である。
ドープな定食屋も、聞き慣れない異国の料理が出るお店も、この空腹が発揮するワガママは、天命を運に任せつつも敷居をまたがせる。
商談の最中であってもお腹が空けば、すぐにでも話を切り上げ(自己決定権やバウンダリーのよくわかるシーンだと思う)、一心不乱に食事のある場所を目指し、猪突猛進し、腰を落ち着けたらひたすらに何を食べたいのか、どんな美味しさが並べられているかを胃袋に問いかけて、ひとくちひとくちを楽しむその姿はご自愛の体現、そのものだと思った。



ゴローちゃんに見る、自己肯定感6つの要素

ゴローちゃんは、ときどき急な応対むちゃぶりに焦ったり、オーダーで「やっぱりあっちもおいしそう」と誘惑に悩むことはあれど、その悩みを引きずったり、くどくどと誰かを悪しように言うことはない(旧友の滝山さんは除き)。
思うに、仕事の隙間で、楽しみと慈しみを一食に費やすゴローちゃんの仕草には、「おれ・ぼく・わたしなんて……」と、どこか考えてしまう多くの心細いひと達へ、決して難しくない自己肯定感を得るヒントがあふれているのではと、繰り返しドラマを見ているうちに考えるようになった。

自己肯定感
「自分自身のことが好き(自己受容)」、「自分自身を大切にしている(自己尊重)」、「生まれてきてよかった(自分の命に対する受容)」を合わせたもの。

Wikipediaより引用

自己肯定感とは、6つの要素で構成されたものである(参照)。
自尊感情・自己受容感・自己効力感・自己信頼感・自己決定感・自己有用感があり、これらは1本の木として紹介されている。


自己肯定感に関する書籍は、ビジネスの観点やスピリチュアルの解釈など近年、大賑わいを見せ、ずいぶん見聞きされて馴染んできたと思う。
(同時に、そうは言っても前向きに取り組む気になれない、という人の気持ちにも、やや共感するところはある。)
ゴローちゃんのドラマでのふるまいから、今回は「自己信頼感」と「自己決定感」にフォーカスしていきたい。



ひとりでご飯を食べることから始まる、ゴキゲンな大人の姿

胃の空白を自覚するところから、ゴローちゃんのアドベンチャーは始まる。
エンプティランプをチカチカと瞬かせながら街を歩き、空腹が強ければ小走りになり、街の軒並みを目でスキャニングして、とうとう見つけるか出くわすかする、ひとつのお店。
今どのくらいお腹が空いていて、どういうムードで、だから何を食べたいのかをこの短い時間で、よくよく自分に問いかける。
店の佇まいや、あるときは直感で「この店はうまい」と確信し、食はゴローちゃんを引き合わせる。

それまでの早足は忘れて、じっと座るとメニューを黙読。壁のボードや札、大事ですよね。うんうん。
周りのお客さんのオーダーだって、「そんな覗き込んだら怪しまれちゃうよ!ゴロ─ちゃん!」と、声がけしたくなるくらい、入念にリサーチ。
注目してほしいのは複数の皿から構成される、この一食にいつも生涯最後ほどの情熱を傾けているということ。
周りには決して伝わらないものの、ゴローちゃんは食事の前に、いつも素直でいるのだ。


この一連の動作は、普段のわたし達でも大いに活用できるご自愛のヒントに満ちている。
何を食べたいか、どんな味が好きか、新しい発見はあるか……それらをひとつひとつ確認することは「自己信頼感」自分の決めたことに自信を持って臨めること、「自己決定感」自分が物事の決断を行うことの満足感で、その後の幸福や肯定感に影響を与える。

ゴローちゃんは下戸、甘党、大食漢。よく働き、よく歩き、よく食べる。
(原作担当の久住さんは酒呑み、番組後半では久住さんのオーダーを楽しむコーナーもあり、お酒のいる人いらない人の対比も見所。わたしはお酒のめるけどいらない人で、どちらもそれなりに楽しめている)

嗜好的な大食いと違って、ゴローちゃんは「今の胃袋じぶん」を満足させることに集中している。
かぶりついて堪能するそのさま。
あのベンチャーズよろしくギュイーンとギターが鳴り出したら、わたし達は「ゴローちゃん!」「完食して!」と、デコラティブなうちわを両手に、胸の前で揺らして盛り上がるしかない。

「ごちそうさまでした」と、すっかりおなかを満たすところを見終えたら、わたしにはゴローちゃんが赤子のように思えている。
実はエンプティランプが瞬いているときから、そう思っている節がある。
おなかが空くとは緊急事態だ。我々、食いしん坊においては。
だから、おなかいっぱいになったね、うれしいねえ、と喜びがじわっと沸くのだ。

おなかいっぱいになって店を出る頃には、自分の決めたことをその通りに実行できて、自己肯定感に満ち満ちたゴローちゃんの表情が、そこにはある。
時代を重ねてシーズン10。
これが変わらぬ、ゴローちゃんのご自愛ルーティンなのだ。
今日の一食を、家族やパートナー、取引先や友人に合わせず、自分の食べたいものを食べるという、ささやかなワガママを実行することで、わたし達も素直になれるってことを知っておきたい。



みんな「孤独のグルメ」を見てくれ


ドラマはTVer、YouTube テレビ東京ドラマチャンネル での再配信のほか、Hulu、Netflix、Amazon Prime、Paravi、Lemino、U-NEXTなどで過去のシリーズを配信中。だらっと過ごしたい長期休暇のお供に。
そして、街に出て、店を探して、ゴローちゃんのいる空気を少しでも身近に感じてほしい。


じぶんZINE「pooks プークス」では、わたしにまつわるボディポジティブとフェミニズム、そしてホテルステイの記録を書いています。

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