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色覚異常のひとは本当に「ただしい色」が見たいのか?

先日、「モノシリーのとっておき」というテレビ番組でいわゆる「【感動】色覚補正メガネで初めて色を見た人の反応」系の動画を取り上げていたそうです。

このメガネの件についての自分の考えは以前記事にした通りですので、よろしければそちらをご覧ください。

その番組の内容次第によっては抗議を送ろうとしたのですが、機を逃してしまい内容を確認できていません。


それはそうと、
あの手の動画に対して、私はずっと違和感を持っていました。

詐欺の疑いということに対してではなく、
「なんか感動するポイントがズレてない?」と感じるのです。

その違和感が何なのか、ずっと整理がつけられずにいました。

しかし最近、
「これが違和感の正体かな?」という考えにたどり着きました。

この感覚は私個人の考え方であり、全ての色覚異常者がそうだとは限りません。その点を留意していただき、ご覧いただければ幸いです。


私が持っていたその違和感の答えは、

「おれはそんなに正しい色を見たいと思ってない」

ということです。

語弊があるかもしれませんが、端的にいうとそうなります。
順を追って説明していきます。



違和感をもった理由1:
色覚異常者は色に感動していないわけではない

もちろん、今まで何度も「みんなと同じ色が見てみたいなぁ」と思うことがありました。
ただ、「見てみたいなぁ」ぐらいなんです。

この手の動画をつくったであろう、色覚健常者の人の発想はおそらくこうではないでしょうか?

1. こんなにカラフルな世界が見れないなんて、色覚異常者は可哀想!

2. 色覚健常者の自分は色覚異常者の見え方では違和感がある!

3. 色覚異常者も色覚健常者の見え方で世界を見たら感動するはずだ!

つまり、「自分が美しいと思う見え方をできていない=この人は美しさが認識できない」という解釈です。

ここがまず、違和感を持った大きな要素の一つです。

色覚健常者から見れば、確かに色覚異常の見え方はすごく違和感があります。
2型色覚異常(緑が弱い)の私でさえ、1型色覚異常(赤が弱い)の見え方には相当の違和感があります。
おそらくその逆もそうでしょう。

しかし、色覚異常者も色彩に対して日常的に感動しています。
その認識が多くの色覚健常者の人には、抜け落ちているように思います。

もちろん同じ色の見え方では感動していませんが、感動度合いは決して負けていないと感じます、たぶん

たった一つの色の見え方でなければ美しさは感じられないということは無いということです。


ピンと来ないかもしれないので、例え話をします。

人間は赤、青、緑の3つの錐体(センサー)で色を認識しています。

が、仮に4つ以上のセンサーで色を感知できる人がいたとしましょう
※爬虫類とかは4色型色覚と言われている

その人が

「あなたは3つのセンサーでしか色を見れないなんて、なんて不憫なんだ!さぞ4つのセンサーで色を見たいでしょうに……。」

と言ってきたとしたら、どう思いますか?

反応の仕方は人それぞれだと思いますが、自分の場合だと

「確かに4つのセンサーでみた世界を見てみたい!でもまぁ、今でも十分キレイだしなぁ・・・。」

と、4Kテレビを買うか買わないかみたいな反応をするでしょう。つまり、そのくらいのことなんです。

だから、あの色覚補正メガネの動画で、周囲の景色の色を見た色覚異常者が大げさに周囲の色に対して感動したリアクションする様には、とても違和感を持ちました。

あのリアクションは、そもそも色に対して感動したことがない人のような振る舞いです。

あの演出は、色覚健常者から見た色覚異常者像を表現しているのではないでしょうか。


違和感を持った理由2:
色覚補正メガネのメインターゲットは誰?

違和感を持った要因はもう一つあります。
それは、どの動画も必ずと言っていいほど、家族からのプレゼントだということです

一つ目の違和感で述べたように、この動画は「色覚健常者と同じ感覚で、世の中を見ることができない色覚異常者は可哀想だ」という価値観で構成されていると私は考えています。

だから動画の構成上、「色覚健常者と同じ見え方をできるようになって良かったね!」という締めくくりをする必要があります。

その対比のために色覚健常者の家族は必要な構成要素なのだと思います。

そう考えると、あの動画のメインターゲット層が想像できます。


あの色覚補正メガネのメイン購買層は、私たち色覚異常者ではありません(もちろんセカンドターゲットではあるでしょうけど)。

あの製品は、色覚異常の人を家族に持つ色覚健常者に最も響くようにデザインされたものだと私は考えています。

これがあの動画の最大の違和感の正体だと自分は考えています。

色覚異常者を家族に持つターゲットの「(私が感動している)本当の色を見せて上げたい!」という感覚を刺激するように構成されているように思います。

先天性色覚異常は遺伝ですので、特に色覚異常の子供を持つ親には響くのではないでしょうか


商品は商売のために作るものですので、一概に悪いとは言えません。

しかし私はデザイナーとして、ものづくりは困りごとを解決するために行うべき行為だと考えています。

この色覚補正メガネというプロダクトは、その困りごとの本質を解決する提案になっているでしょうか?

課題を解決するものではなく、色覚異常者を家族に持つ人の不安につけ込むものになっていないでしょうか?


まとめ:
本当に必要とされる色覚補正メガネとは

では、そのような色覚補正メガネに対して、色覚異常の人が本当に欲してる提案とは何でしょうか?

それは、色の判別です。

「正しい色を見る」ではなく、「ある複数の色の区別を正確にできる」という機能は大変魅力的です。

例えば、焼肉屋で肉の焼き加減が判別できるグラスを置いておいてほしい。

例えば、電気の配線をするときに抵抗や電線の色を判別しやすくなるグラスがほしい。

例えば、電車の運転手になりたいから、標識や信号を正確に判別できるグラスがほしい。

日常的にかけるグラスである必要はありません。
その時だけ判別がつけば十分です。

もし、例に挙げたことが実現できれば、食事をより美味しく楽しめたり、仕事のミスがなくなったり、諦めていた仕事に就くことができるようになるはずです。
それは素晴らしい製品だと私は思います。

これくらいシーンを絞り込めば、技術的には十分実現可能だと私は考えています。


「色彩に対してもっと感動できる!」という機能はそれはそれで魅力的だと思いますが、そこまで優先順位は高くありません。

私達はすでに色に感動できているのだから。

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ほうじ | 少数色覚デザイナー
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