見出し画像

深夜のポップコーンファイト

「減らないな…。」

ホテルの部屋でひとりごちる。
わたしの手の中には紙袋いっぱいのポップコーン。
ただただポップコーンと見つめ合い、無為に時間だけが過ぎて行く。

わたしは過ごした今日一日に思いを馳せた。




某日。わたしは某テーマパークに来ていた。

いつだったかの、突然誕生日ではない日に誕生日メッセージを送ってきた大学時代の友人 (365択のうちから」参照) に誘われたのである。
メンバーはわたしを含め4人なのだが、なんとそのうちの2人はわたしは全くの初対面である。なんともファンキーなメンバーだ。
わたし以外の3人はそれぞれ面識があるようなので、初対面の2人からすればわたしが異質だったのだと思う。

最初は冬に行く筈だったのだが、延期になった。
延期された先は梅雨が明けた夏の日だった。
我々4人は暑い陽射しを予想していた。
しかし…延期先の日程は、天気予報が非常に微妙であった。雨と言ってみたり雷雨と言ってみたり曇りと言ってみたり晴れと言ってみたり。見る度に天気予報が変わり、我々は非常に困惑した。
元々写真撮影が目的なので、大雨だと厳しい。
そうしたら再延期だろうかと友人は悩んでいたが、最終的に「いや行ける。行こう。」となった。
誰も何も言わないが、日程調節がもはや面倒だった、というのも理由のひとつだと思っている。
社会人4人が全員日程を合わせるのは厳しいものがある。

来る当日、蓋を開ければどんより曇り空。合流した先で初対面の2人と自己紹介を済ませる。
奇しくも初対面の2人のうちひとりだけが一つ年下で、あとは皆同い年であった。元々SNS経由で集まったにしては偶然性が高い。
共通点がひとつでもあると、人はだいぶ親近感が湧く。我々4人は意気揚々とパーク内に向かった。

-------

「…まじか。」

昼食後にレストランから外に出たら、引く程の土砂降りだった。4人で思わず笑ってしまう。
午前中に撮影をし、ポップコーンを買い、アトラクションを2つほどめぐり、予約時間になったからレストランに入った。レストランでもそれぞれ写真を撮り、満足して出てきたらこれである。
ガチガチに装備してきた友人は兎も角、他3人は流石に豪雨に耐え切る撮影装備はしていない。
雨足が弱くなるまでお土産を物色し、弱くなってきた頃にレインコートを装備してアトラクション制覇に向かうことにした。


結局、その日は閉園間際まで雨は降り続いた。
午後少し止みかけたからとジェットコースターに並べば、乗車までに再び土砂降りになる。ジェットコースターから降りる頃には頭からずぶ濡れになっていた。
最早何も怖いものはないと今度は水に落ちるタイプのジェットコースターに向かえば、真逆まさかの先頭と2番目の席だった。降りる頃には被った水で足元も濡れていた。
これはこれで思い出に残るし、わたしは丸一日大いに楽しんだ。他3人も笑っていたので楽しんでいたと思う。

自身は兎も角として荷物だけは死守するつもりだったわたしは、購入したしっかりしたビニール袋の中にお土産やら鞄やら紙袋入のポップコーンやらを端からぶち込んでいた。細心の注意を払っていたので、目論見通り荷物は全て雨から守られた。
しかし気になるのは午前中に購入したポップコーンである。雨の中なので買ったポップコーンを食べるところまでなかなか至らない。そしてどれだけビニールで雨から守っていても湿気からは守り切れない。
友人と「絶対湿気ってるよね」と話しながら、予約したホテルへ向かった。



そして目の前には案の定湿気ったポップコーン。クッキークリーム味のそれは、出来立ては美味しいものだった。
いや、味は変わらず美味しい。しかし歯触りがもそっとしている。もきゅもきゅと噛むが、なかなか飲み込めない。買ってきたペットボトルのお茶がみるみる無くなっていく。

時計を見遣れば、目の前のポップコーンと戦い始めてから早くも1時間が経過していた。もうそろそろ日付が変わりそうである。
実は翌日も隣接されたテーマ違いのパークに入園予定なので、なるべく手元のポップコーンは無くしてしまいたい。

友人もバケット一杯のポップコーンを別に買っていたが、チェックイン前に「いっそ捨てるか…」と呟いていたのをわたしは聞き逃していない。
しかし、わたしは食べ物を無駄にしたくない。…食べる一択である。

-もそもそ…もきゅもきゅ…もきゅ…

もきゅもきゅごくごくとお茶を片手に食べ続け、日付が変わり30分ほど経過した頃にやっと紙袋一杯のポップコーンを食べ終えた。
ポップコーンを食べ終えるのに掛かった時間、実に1時間30分。

-明日 (もう当日だけど) はポップコーンは絶対買わないでおこう。

そう心に決め、わたしはやっと眠る準備を始めたのだった。



真夏に大雨の中、初対面2人を含む同年代4人で行ったテーマパーク。ずぶ濡れになって大笑いする夏。
この年になってこんなにはしゃぐこともそうそう無いだろう。

この楽しさと湿気ったポップコーンの恐ろしさ。
恐らく、この夏の思い出として一生忘れることは無いと思う。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,778件

#夏の思い出

26,319件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?