マガジンのカバー画像

ねこの白昼夢

3
柄にもなく書いてみた短編など。
運営しているクリエイター

#恋愛小説

【短編】ビロードのような味わいを

【短編】ビロードのような味わいを

「はぁあ…。」

わたしはその日何度めかの溜息を吐いていた。
気が重い。好きなことも何もやる気にならない。
何とはなしに手元のスマホの画面を見れば、前々から約束していた親友との遊びを早めに切り上げて帰ってきてから早くも数時間が経過しようとしていた。道理で外が暗いわけだ。
こんなにただ家の壁を見詰めながら溜息を吐くだけになるのなら、やっぱり親友と一緒にカラオケに行けば良かったかな、とチラリと思う。孤

もっとみる
【短編】メントールによるオーバーライト

【短編】メントールによるオーバーライト

「タバコ喫いたい…」

居酒屋の薄暗い電球を見上げながら、目の前の彼女がぼそりと呟く。彼女が喫煙しているところを見たことが無かった俺は驚いた。

「あれ? 喫煙者でしたっけ?」

数年ぶりに会った相手はかつての同僚だ。昔は喫煙はしていなかった筈だ。
かつて一緒に食事に行った後、自分が一服しに行った時を思い出す。「喫わないけど、わたしも行く」と彼女は駅の喫煙所に着いてきて、喫煙する俺の隣でただただず

もっとみる