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本を書くためのアトミック・ノート術--『アトミック・シンキング』 五藤隆介さん著Kindle 版

一つのことについて考えを深め、書いて整理していくと、最終的には一冊の本を書き上げることだってできるかもしれない。本書は、それを実証実験して生まれた一冊と言えます。著者は五藤隆介さん。
最近、五藤さんと倉下忠憲さんの「ブックカタリスト(面白い本の紹介Podcast)」のリスナーになったことがきっかけで、本書を購入しました。

いわゆる思考整理術の本なのですが、本書が紹介するノート術「アトミック・ノート」は、書きかけのノートの維持管理のしやすさに特徴があります。
自宅に何冊も、最初の数ページだけちょろっと書いてあとは全部白紙のノートがある人や、Workflowyがごちゃついてワークもフローもまったくしてないアウトラインプロセッサ持ち腐れの人などは、「アトミック・ノート」でノート改革ができるかもしれません。

「アトミック・ノート」は創作の「パーツ」「素材」になる

アトミックとは、それ以上分割すると意味が通じない「きわめて小さいatomic」言葉のまとまりのこと。
いま頭に浮かんだ、“カレーの唄というドラマを見たら面白かった”という文章なら、“カレーの唄というドラマを見た(事実)”と、“カレーの唄というドラマが面白かった(感想)”、という2つの文章に分割できます。
こういう短い文章が「アトミック・ノート」のタイトルになります。一つのノートに一つのテーマだけを割り振ることで、考え続けたり、書き続けたり、自分の思考を整理したりしやすくなるそうです。

わたしがとくに魅力に感じたのは、アトミックなノートを多数作っておくと、創作の「パーツ」「素材」として使える、という点です。
本書ではそれを「レゴブロック」に例えて詳しく解説しているので、ぜひ読んでみてください。
ここはとてもクリエイティビティなイメージが湧いてきて好きな箇所です。

そして連想したことばが「編集」です。書いたノートを素材として本をつくることは、本書の重要なテーマになっていると思います。
全体は部分の総和ではない、と言われるように、「編集」には偶然性や独自性を発見しながら取り込んでいくプロセスがあります。
著者が提案する「アトミック・ノート」同士をリンクさせたり、より大きな概念である「トピック・ノート」にまとめたりする方法は、編集のプロセスに近いものと言えるでしょう。

個人的には、「アトミック・ノート」をたくさん作りながら、まず「これって自分だけの大辞書を編むようなものだよなぁ」というロマンを感じたいなと思っています。

「文章を分解しようとして読む」コツをやってみた

今までのノートを「アトミック・ノート」に変えるコツは、「文章を分解しようとして読む」ことだそうです。早速やってみました。

文章を読んで、その文章から作れそうなタイトルを並べてみると、文章はアウトライン(箇条書き)に変わります。

Ryusuke Goto. Atomic Thinking: how to think and how to write for knowledge management (Japanese Edition) (Kindle の位置No.779-780). Kindle 版.

自分が書いた例文:
“カレーの唄”というドラマが面白かった。満島真之介さんの表情が良くてついつい見てしまった。一話ごとの終わり方もなんかいい。検索したら2020年の作品で、オリジナル脚本だった。やっぱり書き下ろしドラマには面白いものが多い。でも、サジェストに“つまらない”と出てきた。つまらない人はどこがつまらなかったんだろうか。

分解後のアウトライン(箇条書き):
・“カレーの唄”の満島真之介の演技力
・“カレーの唄”のカット割りの特徴は?
・脚本家のオリジナルドラマはなぜ面白いのか
・“カレーの唄”をつまらないと思う人の心理

こんな感じでしょうか。箇条書きが、「アトミック・ノート」の各タイトルです。箇条書きにしたら、わたしにはわからないことだらけだ、ということがよくわかりました。
あと、劇中にはおいしそうなカレーがたくさん出てきて、視聴しながら「これは食べたい〜」なんてつぶやいていたんですが、探求テーマとしてのカレーにはほとんど興味がないこともわかりました。
アトミックな「分割」には、自分が探究したいテーマを発見しやすくする効果もあるんです。

上の4つのノートを完成させるには、ドラマ出演者のインタビューを読んだり、脚本家の他の作品を見たり、ドラマのカット割り傾向を調べたり、フランス映画論を読んだり、日本の脚本家が感じる課題や、ファスト映画を見たい視聴者のニーズなんかを調べていくことになるのかもしれません。
おそらく、タイトルだけつけて中身は空白、しばらく寝かせる、っていうノートも出てくるでしょう。

このやり方では、「アトミック・ノート」の数はどんどん増えていきます。でも、何が書いてあるのか一目瞭然のノートだから、時間をおいても続きを書きやすい。

また、本書の105ページでは、書いたノートを「ボトムアップで整理」していく重要性について触れられています。
最初に「◯◯」というフォルダを作って「トップダウンで整理」しようとしても、思考がリゾーム状に連なっていけばフォルダには収まりきらなくなります。実際に、わたしのPCには空のフォルダが相当な数あります。
こういった挫折につながる「あるある」への対処方法も示されているので、ノートが増えることを恐れずに、むしろ喜びながら楽しく書けそうです。

自分の思考を一冊の本にまとめあげるには

本書が目指すゴールの一つは、自分が時間をかけて探求してきたテーマを、ゆくゆくは一冊の本としてまとめあげることです。
著者は最後のあとがきでようやくこの事に触れるのですが、むしろ本書のサブタイトルや冒頭に「本を書くための思考整理・ノート術」などと入れてもよかったように感じました。

アトミック・シンキングは、整理した思考を自分なりのことばでまとめ、最終的には一冊の本としてまとめあげることがゴールの一つです。

Ryusuke Goto. Atomic Thinking: how to think and how to write for knowledge management (Japanese Edition) (p.118). Kindle 版.

本を書くには、まず探求するマイテーマを見つけることが重要です。
だからこそ、今は何になるのかわからなくても、コツコツ「アトミック・ノート」を溜めていく。書いたノートはあとから「ボトムアップで整理」していけばいい。
そんな地道だけど確実な独学を応援してくれるのが本書のよいところだと思います。

こんな人におすすめでは

わたしは本がなかなか完読できない人でして、それで最近、1日5ページずつだけ読もうと決めました。その代わり何冊も同時進行で読み進めるんです。これってアトミック・リーディングだったりするかも? 実際、ページや読む時間を分割するだけで、読書を習慣にできるかもしれないという気になっています。

また、朝の数十分間はAdobe Frescoで絵を描くことにしました。しかしレイヤーを使いこなすのがどうも苦手です。レイヤーに分けて描くほうがあとで「編集」もアレンジもしやすいのですが、ひとつのレイヤーにぐしゃぐしゃーっと描いてしまう癖がある。レイヤーに分けることも、ある種のアトミック・ライティングなのかもしれません。

これらは本書で定義する「アトミック」からはズレた解釈ですが、わたしが書きかけのノートや空のフォルダを量産してしまうのも、一冊の本が通読できないのも、レイヤーが使いこなせないのも、どれも本書の「アトミック」の概念を取り入れることで、少し変えることができるかもしれません。そんな可能性を感じています。

<本書はこんな人におすすめ>
・書きかけのノートを何冊も持っている人
・PCに空のフォルダがいっぱいある人
・Workflowyが掃き溜めになる人
・文章に見出しをつけるのが苦手な人
・自分なりの探求テーマを見つけ、独学を深めたい人
・自分のことばでいつか本を書きたい人
・死ぬまで考え続けたい人

『アトミック・シンキング:書いて考える、ノートと思考の整理術』[Kindle 版]
著者:五藤隆介, 五藤晴菜
販売: Amazon Services International, Inc.

ひとこと:KDPという「Kindle ダイレクト・パブリッシング」を利用しセルフパブリッシングされた電子書籍です。こういう出版方法もあるんですね。本を読みながら図にしてみることが多いので、イラストがあると「著者はこうイメージしている」ことがわかってよいです(絵は五藤晴菜さんかな)。KDPではイラストをカラーで載せられるんですね。

※2022.8.16更新 みなさんのブックレビューをいくつか読んで、書きすぎかなと思ったので文字数を減らしました。書評って難しい…。

もしもサポートしていただいたら、「書く」ための書籍代にします(´v`)。