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【投資について語るときの愛と追憶】 所有者不明の土地の入手方法

 2021年前後から東京のマンションはバブルなのか?というニュースが目につく。ご近所物件投資戦略の私は、散歩がてら手ごろな投資物件がないか、見て回るのだが、定点観測している物件が記憶にある水準と比較して4割程度上昇している。賃料が同様に上がっているという話は聞かない。日本人の給料が上がっているわけではない。低金利、共働きパワーカップル、外国人投資家、などの説明はされるものの、自分の経験や直感から大きく外れるものには手を出せない。いつかこの相場が崩れるのではないか、高値掴みになるのではないか、という不安がじわりじわりと広がっているのは事実だが、バブルは果物と同じく、弾ける、または腐る直前が最も美味だという、教訓も頭をよぎる。

 私が所有する八ヶ岳南麓の別荘の近隣には、1980年代の別荘地バブルの末路の区画が数多く残されている。●●様、とペンキで粗雑に記した古い小さな看板が落ち葉の堆積層から顔をのぞかせているのだ。不動産業者の名前と電話番号を記す売地と記す看板もある。当時の購入者が現地を見ていたとは到底思えない急斜面で接道のない区画に、そうした看板は残っている。

 私のログハウスに隣接する区画もいわゆる所有者不明の土地である。40年以上放置され、ツタや下草が鬱蒼と茂り、倒木もそのままであった。せっかくの八ヶ岳の眺望を遮っている。いくばくか払ってでも買い取って整備したいと思い、登記上の所有者を探したことがあった。所有者の登記上の住所として記載されている愛知県の共同住宅の所在地を管轄する区役所や郵便局に問い合わせた。該当する建物はすでに解体されており存在せず、また、区画整理により地番を振りなおした際の台帳を紛失してしまい、現在の住所もわからない。もちろん、転居した住民の記録など保存などは期待できないほどの年数が経過している。状況から考えて、短期間での転売目的で購入し、自分では利用する予定などなかったのだろう。隣地の所有者は、自治体に納付するはずの不動産所得税を滞納し、自治体からその土地の差し押さえを受けていた。地元の不動産業者が市に問い合わせたところ、自治体も所有者を見つけることができないまま、いつか、未納の税金も時効にかかり、差し押さえの登記は解除されていた。自治体担当者は土地を競売して回収するほどの価値もない、という判断なのだろう。別荘地の開発ブームの時代には、開発業者、販売業者、広告業者など、開発プロジェクトに関与した業者の社員が転売目的での土地を購入したり、させられたり、などということもあったらしい。遠い愛知県の公団住宅のような住まいの者が転売目的で買ったものの、バブルがはじけて、転売もできず、土地の取得にかかる税金の納付の通知を何年も無視を決め込んで、逃げ切ったのだろう。

 結果、現在、私は、この土地を所有者から購入することは諦めて、20年間占拠して時効取得をすることに方針を転換した。他人の土地と知っていても、平穏に20年間、自分のものとして使い続けておれば、民法の決まりに沿って、無事に所有権を取得できるのである。ただし、そのことを20年後に裁判所に訴えなければならないので、面倒な手続きは将来発生する。20年後に、実際に時効取得の裁判を起こすかどうかは、その時に考えるとして、当面は、隣地の雑木林を伐採して倒木を撤去し、接している道路が崩れている個所を復旧し、芝生を敷き、イングリッシュガーデンを目指して造園中である。不動産取得税未納のまま逃げ切った所有者よ、あなたが無視を決め込んだ八ヶ岳を見上げる山林の土地は、芝生に薔薇とオダマキとルピナスの咲く庭に変わりつつある。あなたは見捨てても、春はこの地に訪れる。

 都会の人間には信じられないかもしれないが、田舎にはこのように放棄され、管理されず、所有者が不明の土地が多くあり、災害やトラブルの際には解決に困難を抱える。

 もっとも、都会のマンションにも、管理が行き届かず、様々なリスクを抱えてる建物は多数ある。私が港区に投資目的で取得した築40年を超えるマンションは、幸い、専制君主のような永久任期の理事長が口うるさく干渉するおかげで、共有部分では修繕や管理が行きとどいている。しかし、住民の高齢化のために各専有部の管理がおぼつかなくなっている。先日もこのマンションで、トイレに介護用の大人のオムツが流され、その結果、低層階の世帯の下水道管がつまって、漏水する騒ぎがあった。水道業者により、下水管から引っ張り出されたブツの写真が掲示板に提示され、強く注意を促していた。汚水の漏水の被害を受けた世帯が例の専制君主の区分のようだったので、やや痛快だったが、他人ごとではない。これからも同じ悲劇は繰り返されるだろう。なぜなら、このマンションの住民の過半数は70代を超えているのだ。ある独居老人の住民は、エレベーターに乗る時に自宅のフロアの番号を忘れてしまい、いつも立ち往生している。そこに、私の部屋を借りている賃借人が、●階ですよ、と代わりに押してあげるということが繰り返されている。どうやって一人暮らしをしているのだろうか。

 孤独死を防ぐためにも、管理組合で希望者の部屋の鍵を預かったほうがいいのではないだろうか? 実際、住人の安否について応答がないために上層階からひもを伝って降りてきたレスキュー隊が窓を壊して突入したこともあった。幸い、場所が一等地であるため、順調に所有者は世代交代をしているようで、新たにこのマンションの2戸が平凡なリノベを施されて売り出されていた。頻繁に独居老人のエレベーターのボタンを代行し、安否確認をすれば、遺贈でもうけられないものか、と夢想する。

 土地にしろ、マンションにしろ、「所有する」ということは、近隣住民や周辺環境に関心を持たざるを得ない。そして、適度の干渉や世話焼きを推奨することが、現在、高齢化によって困っている住人や環境の整備が進むのではないだろうか。

 私の別荘のお向かいに住む定年退職後の勤勉な元教師は、やはり付近の所有者不明の荒れ地200平方メートルほどをスコップ一本で開墾し、いまや立派な畑に変えてしまい、頻繁に私に野菜をくれる。中学生のときに歴史の授業で学んだ奈良時代の法律である「墾田永年私財法」さながら、土地も建物も、世話をした人に所有権が発生すればよいのになあ、と思うのであった。

執筆:黒猫投資家(猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家)

猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家が紡ぐ不動産、株、投資信託物語
投資アドバイザー検索サイト「オールイヤーズ」(https://www.ifa-search.jp/) のブログで連載中


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