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ヒッピー・ハッピー・ハット

『ヒッピー・ハッピー・ハット』 ジャン・マーク

はじめて読んだのは小学生の時か中学生の時か。12、3歳の頃だった。
自分と同年代の少女の大胆な行動が理解できず、しかし強烈な、と同時にひどく魅惑的なイメージが強く残り、大人になってからも忘れられずに、探して古本購入した。

3つの物語がおさめられた短編集。ジュニア向けとなっているが、大人にこそ味がわかる作品だ。

3作とも、12歳〜15歳の、大人になりかける年代の少女が主人公。子供時代から一歩外に足を踏み出し、世の中を、他者を、そして自分を再発見する瑞々しい感性の開花が描かれている。

中でも私が好きなのは「クラウィの窓」だ。

この物語の主人公ロンダは、ゆとりがあるとは決して言えない家庭の子供。父はバスの運転手、母は家政婦、ロンダの下には2人の幼稚園児の子供がいる。

戸棚を開くとガスの請求書が舞い落ちて来るような貧しい生活ながら、家庭には活気があり、ロンダは観察眼の鋭い、母親思いで聡明な女の子だ。

ロンダの母の雇い主は、高級アパートに住むビジネスウーマンのクラウィ。

イギリス刺繍の白いガウンをはおって張り出し窓のところで朝食を食べる、そんな優雅な生活を送るクラウィのような女性に、自分の娘にはなってほしいと母は思っている。

ある日母親が風邪で寝込んでしまい、ロンダは母親のかわりに一週間、クラウィのアパートに掃除に通うことになるのだが。。。

高価な品に囲まれて暮らすクラウィは、鷹揚で人当たりが良く、ロンダに対しても的確な接し方をするが、クラウィの完璧な態度や、友人に向けて披露したご立派な持論に、ロンダは理由のないモヤモヤを感じる。

消化できないモヤモヤを抱えたロンダの起こす行動は、彼女と同年代の読者をびっくりさせ、人生の味を知る大人の読者には、微笑みを浮かべさせるだろう。

表面からは掬い取れない何か引っかかる感じ、心のしこり、ひずみを、静かに描いた傑作だ。

他の2篇も、真実をまっすぐ見つめる大人びた少女たちの心の描写が鮮烈な作品。ちなみに作者はジャンという名前だが女性である。