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地元の公的機関とともに実現を志す、地域創生の「エコシステム」とはー出資者・くまもと産業支援財団との対談

熊本大学発ベンチャーとして、2019年に創業した株式会社CAST(以下、CAST)。薄型・耐熱・フレキシブルなセンサーをコア技術に、配管減肉モニタリングシステムを展開しています。

今回は、CASTに出資している公益財団法人 くまもと産業支援財団(以下、くまもと産業支援財団)産業振興部・次長の井上 英雄(いのうえ ひでお)さんを迎え、CASTとの歩みや今後の未来について語っていただきました。

くまもと産業支援財団様は、県内の中小企業者などの経営基盤の強化・創業の促進・技術の高度化等に関する産業支援を総合的に行っています。座談会では出資に至った詳しい経緯だけでなく、CAST代表の中妻が構想する、地域活性化の「エコシステム」の話題に。熊本の地域創生を目指す、両者の想いに迫ります。

「すごいベンチャーが現れた」専門家を唸らせたCASTのビジネスプラン

CAST代表 中妻 啓

中妻(敬称略):
くまもと産業支援財団との出会いは、「熊本県起業化支援センター(2023年4月にくまもと産業支援財団と合併)」という現在の前身組織の頃ですね。2019年の「熊本テックプランター」で存じ上げましたが、熊本県が参画する公的な財団が資金援助をしていることは、当時まったく知りませんでした。

「民間のベンチャーキャピタル(以下、VC)のほかに、公的な機関から資金調達する選択肢もあるのか」と驚いたのを覚えています。

井上(敬称略):
前身組織の頃から「10年間で出資先の事業規模を拡大し、雇用と県民所得を増やすこと」を目的に、地域のスタートアップ企業に出資を行っていました。

「熊本テックプランター」の投資プレゼンで中妻さんのビジネスピッチを拝聴しましたが、今思い返しても非常に好印象でした。一般的な大学発ベンチャーは経営方針が未成熟な企業も多いですが、中妻さんのプレゼンはその点もしっかりと練られていたからです。

CASTヘの出資を検討し始めたタイミングで、当財団が主催するベンチャーマーケット「二火会(にかかい)」にお誘いしました。

中妻:
「二火会」では、資金調達やビジネスマッチングを目的に、さまざまな事業者のビジネスピッチが行われていましたね。CASTも参加させていただきましたが、ベンチャービジネスに精通した専門家のコメントをいただけるのもメリットだと感じていました。

井上:
CASTにプレゼンしていただいたときは、福岡のニュービジネス協議会の方が参加されていましたね。

中妻:
私の記憶に間違いがなければ、確かそのとき厳しいコメントをされていたかと……。

公益財団法人 くまもと産業支援財団 産業振興部・次長 井上 英雄さん

井上:
そうですね(笑)でも、CASTのプレゼンを聞いたあと、その方は「すごいベンチャーが現れたな」と仰ったんです。おそらく「大企業が作りそうなプロダクトを、ベンチャー企業が開発した」という点で評価が高かったのではないかと思います。

「九州管内でも、CASTのビジネスプランは目を引くものなんだ」と感じたことを覚えています。


事業継続の危機を救った、公的機関からの出資

中妻:
その後、2021年にCASTに出資いただきましたが、決め手は何だったのでしょうか?

井上:
CASTは学問と縁のある熊本大学発ベンチャーであるため、「フレキシブルセンサーを用いた事業は、この先の成長が期待できる」と確信したからです今後の事業拡大を見込むと、「将来的に県内の雇用創出と所得向上に貢献する可能性が高い」とも感じました。

中妻:
ありがとうございます。実はCASTも同時期に、「熊本県起業化支援センターの出資を受けたい」と考えていたんです。

というのも、CASTが初めて出資を受けたのは2020年だったのですが、その資金は工場の立ち上げ費用でほぼなくなってしまう状態でした。追加で運転資金を調達する必要があったものの、まだビジネスプランが具体化しておらず、民間のVCから出資を受けるのは難しかったんです。

また、当時ネット上で「こんなVCには要注意!」と悪質な投資会社に対する注意喚起を度々目にしていたこともあり、公的な機関から資金調達できるという点で安心感がありました。

井上:
当財団のような公的機関は、他県では存じ上げませんからね。それだけ、「熊本県全体でスタートアップの支援に力を入れている」ということでもありますが。

中妻:
CASTは、「熊本県起業化支援センターに出資いただいたおかげで、ここまで事業を継続できた」といっても過言ではありません。

工場でのものづくりは、開発製品の販売後にお客様の声を元に改良を施すため、どうしても時間がかかります。しかし、その繰り返しで製品のクオリティが上がることで資金調達が可能となり、事業拡大に繋がるんです。

熊本県起業化支援センターの支援で、ビジネスとして一歩二歩と踏み出す時間を作ることができたのは、本当にありがたいことでした。

井上:
CASTは月に1度の出資者ミーティングで進捗発表をしてくれるため、出資側としても安心して支援を続けてこれました。当財団は多くの企業に出資していますが、CASTほど密接にコミュニケーションを取れる支援先は、ほかにはありませんね。

中妻:
出資者ミーティングは、出資者・ビジネスパートナーの皆さんから直接アドバイスをいただけることがメリットだと考え、開催させていただいています。

井上さんは県内のスタートアップ支援に関する情報を熟知していらっしゃいますが、県内の補助金・助成金などの情報をリアルタイムで提供してくださるので、非常に助かっています。


「人・お金・知識」が巡る、エコシステムの中核に

井上:
今後CASTに期待することは、独自のセンシング技術と他社にはないモニタリング機能を武器に、工場プラントを中心とした産業界に革命を起こしていただくことです。また、センシング技術の活用先は、産業界以外にも広げられると良いのではないでしょうか。

中妻:
CASTの目標は、「あらゆる場所にセンサーを」というミッションに象徴されるように、「 物理現象のすべてをセンサー技術でデータ化すること」です。CASTの技術が新たな価値を生み出すことで、ビジネスを大きくしていこうと考えています。

さらには、ビジネスの成長を通して、熊本県内の「人・お金・知識」が巡る、エコシステムの中核を担えるような存在になることも目標としています。

井上:
「エコシステムの中核」とは、具体的にどういう意味でしょうか?

中妻:
地域を持続的に活性化させるためには、「人・お金・知識」が巡り、産業が生まれるサイクルを作る必要があります。そのためにまず必要なのは、成功した企業です。

成功した企業があれば、優秀な人材を県外から確保することができ、さらに事業が成長します。事業で十分な資金を生み出せれば、大学などに資金提供し、新たなイノベーションや発明を生むこともできるでしょう。すると、「熊本で学びたい・研究がしたい」という意欲ある学生や研究者が多く流入してくることになります。

県内に優秀な人材が増え、資金が巡り、蓄積された知識からイノベーションが生まれ、新たな産業が生まれる。これが私の考えるエコシステムです。この理想のサイクルを作るには圧倒的に成功した企業が必要なため、まずはCASTが代表的な企業にならなければと考えています。しかし、CASTだけでこのサイクルを回し続けるのは、難しいと思うんです。

井上:
仰る通りですね。CASTをはじめ、複数のスタートアップ企業が必要だと思います。

中妻:
大学を起点に集まった優秀な人材が社会に出るとき、地域に魅力的な企業がほかになければ、その人材は県外に活躍の場を求めることでしょう。熊本に集まってきた優秀な人材に、地域産業の担い手として長期的に活躍してもらうためには、井上さんが仰る通り、複数の受け口が必要です。

そのためには、県内でCASTのようなスタートアップ企業をたくさん生み出す必要があります。ぜひくまもと産業支援財団には、多くのスタートアップ企業を生む活動を行っていただきたいです。

井上:
当財団の最大の目標は、県内の産業を大きく成長させ、地域創生を実現させることにあります。これからもCASTならびに熊本の地域企業を、精一杯支援させていただきます。


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企画・編集:小溝朱里
取材・執筆:ヤマダユミ


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