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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年2月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第44わ「本当の怪物」

(承前) 俺が、お前に隠し事は出来なくなる?どういうことかと問い詰めようと相棒を見据える。その双眸。俺に渡した筈の右目が、相棒にも備わっている。 「この右目ですか?たった今、作ったばかりです。その気になれば、ほら」 相棒が両腕のシャツを捲り上げる。雪花石膏めいた白い腕に───、七色の百の目が現れた。今度こそ卒倒しそうになった。怪物に心を許した愚かな俺を、百の目玉が嗤っている。 「ダンナが受け入れてくれた私の旧い右目が見たものは、私の新しい右目にも映ります」 信じたく

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第43わ「その双眸に」

(承前) 何処からともなく取り出したるナイフを握り、相棒は自分の胸を一突きにしようとしている。十中八九、泣いているのは演技だと思う。吸血鬼がナイフで死ぬとも考えづらい。しかし、ここで彼女との関係が悪化すれば❝ゲーム❞に勝ち続けて生き残ることは厳しいだろう。仕方ない、ここは騙されたフリをするしかない。吸血鬼の目玉を受け入れることにした。 「ひっく。わ、分かってくれればいいんです。分かってくれれば」 跪いて、差し出された眼球に顔を近づける。目玉の怪物(そうとしか思えない)は

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第42わ「小指」

(承前) 「ダンナ、何を遠慮しているんですか?私の目玉も『ダンナの体に入りたいよ~』って言っています……」 相棒の手の上で周囲をギョロギョロと見まわしていた目玉が、今や俺の眼窩にギラギラと視線を集中させている。なんという熱視線。そんなことを言っている場合じゃない。早く戻せ。 「一度摘出したものを戻すのは気持ち悪いのでイヤです」 その気持ち悪い目玉を俺に押し付けようと言うのか、相棒。摘出された眼球は明後日の方向を向きながら静かに痙攣を始めた。 「もうすぐ目玉は死にます

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第41わ「救済措置」

(承前) 急場は凌いだ。命の危険が去った後にやって来たのは喪失感だった。ゲームマスターの前では殊勝な態度で臨むべきだったか。いや、相棒の制止を受け入れて聖域に行くのを断念していれば、こうやって視界の半分を闇に閉ざされることも無かっただろうに。これでは明日から学校にも行けないじゃないか。泣きたくなってきた。 「ダンナ、ダンナぁ」 相棒が俺の腕を軽く引っ張る。いかん。こいつに落ち込んでいるところは見せたくない。辛い時こそ気丈に振る舞うべきだ。そして何より、ゲームマスターは常

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第40わ「労多くして功少なし?」

(承前) 相棒に血を吸わせる? それで魔女に一矢報いるだと?却下。不許可だ。 「でも、でも」 「作戦タイムかい?お二人さん。いいぞ、時間をあげようじゃないか!」 これから死ぬ吸血鬼に飲ませてやるほど俺の血は安くない。俺の血は高くつく。何故なら俺が今そう決めたからだ。そもそも、お前が死ぬときは俺が死ぬ時なんだぞ。俺は無理心中なんかしたくない。だから今は三十六計、逃げの一手だ。 「はぁ。やっぱり、私に血を吸わせるのはイヤなんですかね」 悲壮な決意は既に見えない。少しだけ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第39わ「仇敵」

(承前) 俺の右目が潰された。 「片目の男になった気分はどうかな?なかなか男前じゃないか。こういうのをニンゲンの言葉で言うと❝キャラが立った❞とでも言うのかな?」 右目が潰された衝撃は大きいが、その衝撃も更なる衝撃にかき消された。 こいつがゲームマスターか。こいつが俺の両親を❝除外❞した。俺の街をおぞましい狩場へと捻じ曲げた。俺の同級生を死に追いやった。こいつさえ居なければ。 「……おい、何かリアクションをしないか。黙ったまま直立不動するヤツがあるか!」 残された左

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第38わ「自由の代価」

(承前) 「見たところ君はパートナーに一度たりとも血を吸わせていないね。それに❝初回サービス❞も利用していないじゃないか。彼女とは長い付き合いになるぞ?顔だって声だって、体型だって君の好きなように変えられるというのに、なぜ使わない?」 その答えならば既に出ている。 相棒を着せ替え人形にする気は無いからだ。 あるいは、着せ替え人形を相棒にする気は無いからだ。 どちらも同じことだが。 「それに……君には相当な❝点数❞があるのに、パートナーに何か気の利いた贈り物をしている様子

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第37わ「所信表明」

(承前) またも相棒とシスターの間に険悪な空気が充満する。それにしても❝三ツ星❞とは何のことだろうか。確かに相棒は強い。吸血鬼と言っても、その強さはピンからキリまであるということなのだろうが。 「ああ、ニンゲン。信用というのは意地悪な言い方だったかもしれないね。つまり、そう、誠意を見せて欲しいということなのだよ。誠意!良い言葉だよね!」 誠意。あいにく手元に辞書が無いので正確な意味は分からないが───我ら人間が言う誠意とは往々にして───お金のことを言う場合が多い。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第36わ「証明法の証明」

(承前) 相棒が怒りと屈辱を堪えているのが後ろ姿から伝わってくる。長居は禁物か。右手を挙げて簡潔に、丁寧に用件を告げることにする。 「そうだね。確かに、銀の弾丸も、ブッ放す為の銃も此処にある。でも……」 こちらの反応を見ているようだ。 「見ての通り、私は、か弱いシスターだ。銃を渡した途端に、君にズドン!とやられたらひとたまりも無いよ」 相棒の舌打ちが聴こえたような気がした。つまりシスターが白々しい嘘を吐いているということだろう。銀の弾丸でも倒せない吸血鬼。そう思って

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第35わ「応酬」

(承前) 敷地に入り、教会の扉を開ける。 中に入れば、神の家に居座る魔女の婆さんが待ち構えている。 心の準備など出来ていない。 冷静になれば引き返したくなるだろう。 「よく来たね、二人とも」 目を凝らす。司教座の前に若いシスターが立っていた。あるいは、シスターに擬態した吸血鬼と言った方が正確かもしれないが。 「お久しぶりです」 相棒が俺を庇うようにしてシスターの前に立った。声色は穏やか。顔色は酷いものだ。やはり、あのシスターが相棒の言う「魔女のおばあさん」で間違いな

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第34わ「情報は小出しに」

(承前) 「ハントマンはパートナーに追従するのがルールです。そしてニンゲンが❝やる❞と言えば余程のことが無い限り従わなければいけません。これもルールですので」 俺が何処へ行こうにも相棒は付いてくるということか。 まるで往年のロールプレイングゲームみたいだと思った。 勇者が何をやっても愛想を尽かさず命がけで戦う仲間たち。 「ニンゲンの七転八倒と、それに振り回されるハントマンを安全地帯から監視するのが同胞の娯楽になっているのです」 「我々は常に君を監視しているからね」──

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第33わ「この門をくぐる者は」

(承前) 何のことは無い。「聖域」というのは、家から徒歩圏内にある近所の教会のことであった。相棒は泣きそうになりながら俺の後ろを歩いている。そんなに怖いなら家で待っていればいいものを。 「パートナーのニンゲンを一人で出歩かせた挙句に死なせるようでは同胞の笑い者です」 吸血鬼の貴族にとって、名誉は命よりも重いものらしい。それならば好きにするがいい。不思議なものだと思う。───死地に向かって歩く家畜に付き合う捕食者というのは。いよいよ教会の前に辿り着いてしまった。見慣れた門

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第32わ「聖なる武器と聖域の魔女」

(承前) 聖域には危険が待つと相棒は言う。強い武器を求めるならば、それに見合う資質があると証明しなければいけないということか。神話的な英雄であれば、それを聞いて大いに奮起するところではあるだろうが……。凡人の俺はと言えば尻込みするばかりである。ちなみに危険とは具体的に、どういったものがあるのでしょうか? 「魔女です。意地悪な魔女のおばあさんが待ち構えています」 魔女の婆さん。───些か「聖域」という言葉の持つイメージとは不釣り合いにも思える。それも正真正銘の吸血鬼が恐れ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第31わ「新たなるステージへ」

(承前) 「そうですか。つまりダンナは、そういう方だったんですね」 買い物を中断されて機嫌が悪くなったようだ。しかし気にしてはいけない。どのみち買い物を続けようが機嫌を損ねるような吸血鬼の顔色など窺っている余裕は無い。 「銀の弾丸専用の銃器は電話での注文では買えません!我々ハントマンを脅かしかねない危険物ですからね。厳重に守られた聖域でのみ、授かることが認められています」 その聖域へ案内してくれ。そう言うとヘソを曲げていた相棒が一瞬で真顔になって、こちらに向き直った。