ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第40わ「労多くして功少なし?」

承前

相棒に血を吸わせる?
それで魔女に一矢報いるだと?却下。不許可だ。

「でも、でも」
「作戦タイムかい?お二人さん。いいぞ、時間をあげようじゃないか!」

これから死ぬ吸血鬼に飲ませてやるほど俺の血は安くない。俺の血は高くつく。何故なら俺が今そう決めたからだ。そもそも、お前が死ぬときは俺が死ぬ時なんだぞ。俺は無理心中なんかしたくない。だから今は三十六計、逃げの一手だ。

「はぁ。やっぱり、私に血を吸わせるのはイヤなんですかね」

悲壮な決意は既に見えない。少しだけ不機嫌そうな、家を出る前の相棒の顔が戻って来た。冷静に考えれば、こちとら命懸けの不条理に巻き込まれているのだ。片目を失ったのは辛いが、手足を捥がれなかったのはシスターの慈悲だと言えるかもしれない。片腕が潰れれば銃に弾丸は込められず、片足でも潰されれば人間狩りから逃れることも出来ない。

「前向きなのは良いことです。でも、本当に辛いときは辛いと言ってくださいね?」

話の続きは生きて家に帰ってからだ。相棒の両腕が俺の腰に回される。この時点で相当に痛い。だが本当の痛みはここからだ。

「ええい!これ以上は待てないぞ!私のターンだ!」

シスターが叫ぶと、体を丸めた俺を脇に抱えた相棒が猛然と遁走を開始した。ステンドグラスを割ってマンハントどもが突入してきた。懺悔部屋(正式名称は分からない)からも、正面の扉からも同様にマンハントがなだれ込んで来る。それらを文字通り蹴散らしながら敷地の外へと飛び出すことに成功した。どうやら我々を本気で処分するつもりは最初から無かったらしい。あるいは、ゲームマスターが❝ゲーム❞に深入りするのは賢明ではないとの判断だろうか。

「ここまで来れば一安心、ですね」

相棒が俺を、そっと地面に下してくれた。もう少しで肋骨にヒビでも入っていたかもしれない。それぐらいの絶妙な力加減だったのだ。マンハントの遠吠えが聞こえてくる。嗚呼、俺は生きている。

続く

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