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母との日々

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2022年6月の記事一覧

『放浪記』の変遷

『放浪記』の変遷

『放浪記』が、予想外に面白かったことから、ネットでの評価が気になって少し検索してみると、『放浪記』にはさまざまな版が存在することがわかった。しかも、雑誌掲載時、ベストセラーになった改造社版、現在の標準になっている新潮社版には、章の入れ替えや文章の徹底的な推敲など、かなり大きな違いが存在するようであった。

もともと『放浪記』を読もうと思った動機が、過去に評判になった旅行記を調べることにあったのだか

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挫折

挫折

昔、作家になりたいと思っていたことがあった。高校生の頃で文芸部に入ったり演劇部に入ったりして、創作活動のまねごとみたいなことをやったりもした。だが、わたしは自分ではまったく気がついていなかったのだが、いわゆる「お話」を作ることができないのだった。つまり嘘がつけないのである。これでは作家になれるはずもない。親の方針で理系の学部に進学したわたしは、そのうちに作家になる夢のことを忘れた。小学生の頃はマン

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亡き王女のオデュッセイア

亡き王女のオデュッセイア

『放浪記』つながりで思いがけず見つけたのが犬養道子の『お嬢さん放浪記』であった。犬養道子はもちろん知っていたが、こんな本があるなんてまったく知らなかった。出版されたのはわたしが生まれた年である。これもベストセラーになったらしいが、林芙美子が放浪記の原型とするならば、これほどその名に似つかわしくない放浪記も珍しいのではないか。だからお嬢さんという冠がついているのだろうか。だれが考えた題名なのかはわか

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