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母との日々

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2020年8月の記事一覧

母が父の命日を忘れた日

母が父の命日を忘れた日

毎日の感染者が千人を大きく超えるようになってきて、心配症の母は朝から晩までニュースにくぎづけである。

そのせいなのかどうか、というかそのせいであってほしいと思うのだが、朝食のとき、カレンダーをみながら母が言いだした。

「昨日は、お父さんの命日だったわね」

わたしはうなずく。「だから、先週の土曜日には妹夫婦が、日曜日には弟一家が来たんじゃないの? 聞いてないけど、たぶん」

「まだ6月だと思っ

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電車でマスクしないオジサン(1)

電車でマスクしないオジサン(1)

会社のサーバに不具合があって、そのままではテレワークができないので、日曜日に直しに行くことにした。

GOTOトラベルが始まったばかりで、いったいどれだけの人手になるのか少し不安ではあったが、実際には電車はがらがらだった。7人掛けのシートに1人座っているかいないかくらいで、休日とはいえ、朝7時過ぎの電車とは思えない空き方だった。

だが、さすがにみんなマスクはつけているな、と思いながら座席を見わた

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電車でマスクしないオジサン(2)

電車でマスクしないオジサン(2)

会社に行くには、途中で別の路線に乗り換えないといけない。乗り換えるのは始発駅なので、電車はしばらく駅に止まっている。その間に、少しずつ乗客が増えていって、最終的には、座席は7割くらい埋まる。新型コロナの日曜日はもっと空いているかと期待していたが、そこは普段と変わっていないようだった。

こちらの駅でも乗客はみんなマスクをしている。と、思っていたら、マスクなしの初老の男性が乗り込んできた。まだ座席は

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父のボケ(1)食品と放射能汚染

父のボケ(1)食品と放射能汚染

父はがんで亡くなったが、最後まで頭の方は比較的しっかりしていた。といっても、それは比較的には、というだけで、後から考えてみると、いろいろおかしなことがあったことに思いあたる。とはいうものの、さすがに元大学教授ではあり、他人に弱みを見せない術は心得ていて、日常的に接している人間でも、その兆候はなかなかわからなかった。

わたしが最初に、はっきり確信をもって、これは明らかにボケはじめだろう(認知症にせ

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父のボケ(2)ある昼食会のできごと

父のボケ(2)ある昼食会のできごと

父ががんで亡くなってまる7年になる。最後の2-3年は、放射線の一件でもわかるように、かなりおかしくなっていたような気もする。

だが、これは、と思う決定的な事件が起きたのは、亡くなるほんの半年くらい前のことだった。といってもその頃はまだ、わたしは実家にほとんど帰らなかったので、すべて後から母に聞いた話である。

父はある団体の会長をしていたことがあり、任期が終わってからも役員のひとりとして定期的に

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