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藤本タツキ短編集『17ー21』感想④シカク

短編集が出てから2ヶ月が経っている?
もう年末がすぐそこまで来ている???
は?????
早ぇ…。

寒いのは苦手。眠くなってしまうから。眠くて何も出来なくなるから。(更新できなかった言い訳)
いつまで経っても言葉にするのが苦手だなぁ。


今回も藤本タツキ短編集『17ー21』の感想妄想などの箇条書き。

(間違えた感想も多々あります。)

設定などの細かい説明は省きますがネタバレありなので注意。




ほか、短編集の感想↓


○シカク

なんで“シカク”っていう名前なんだろ。特に意味はないんだろうか。
シカクは両親に気味が悪いと言われたし、叩かれた。
そのあと外に座り込んでいたので、家を追い出されたんだと思う。
あるいは自分から家を出たのか。
シカクは素直なので出ていけって言われたら出て行ってしまいそう。
シカク、10年間ひとりで生きてきたのかな…泣

けどシカクはそんな闇を感じさせない明るい性格だ。
「私って相当かわいいでしょ」という自己肯定感高めなことを平気で言うのが救い。否定されて育つと自己肯定感ゼロどころかマイナスな人格になるから、シカクの明るさはとても良かった。可愛い。
シカクは従順で素直だけど、相手の意図を全く読めないし、共感することが出来ない。言葉にしてもらわないと理解できない。
こういう”普通じゃない人”を普通の人たちは許さないし、理解しようとしない。まぁ、殺人はもちろんダメだけど。

シカクは殺し屋になった。
ぼくはシカクの倫理観が全くわからなかった。シカクは相手が「痛かった」と言えばちゃんと謝る。なのに殺しは平気でやる。
だから”自己中心な正義”でシカクが人を殺すんだとぼくは思っていた。シカクの中にある“ルール”が正義であり、世間一般の倫理とはズレた正義や世界観を持っているのではないかと。

殺し屋になって人を殺していたシカクは指名手配されていた。
本来のシカクだったら警官達に勝ってたんじゃないかなぁ。だけどシカクは死ぬ。
シカクが血を吐いたのを見つめるユゲルの眼差しがとても良い。死を見つめる眼差し。
いつも明るいシカクがとても静かだ。死をありあり感じた。
足を投げ出して座る格好は1ページ目の「なんで謝っても許してくれないの?」のコマと同じだ。シカクは10年前のあの日に一度死んだんだと思った…。うっ…。

ユゲルはシカクに血を与えて蘇らせる。こういう展開は個人的に大好物です。気持ちが命を繋いでいくの良い。胸熱。シカクも不死身になったことで2人が対等になってる。良い。
ハッピーエンドでとても良かった。ユゲルもシカクも幸せそうでとても良かった。
良いしか言ってないなぁ。

この作品は作者が39度の熱があるときに描いたネーム、とのこと。
ユゲルの「風邪だね 病院に行きなさい」の台詞がそのまま作者に当てはまって面白くてとても良い。作者、ネーム描いてないで病院行ってくれ。

「風邪だね 病院に行きなさい」の言葉が、
シカクの場合、風邪=恋→ユゲル
だったので、作者の場合、熱(風邪)=恋→漫画
って感じかな。良いなぁ。漫画大好きじゃん。良いなぁ。

さて、
この作品の最大の謎はユゲルがテレビに映ったシカクを見て大笑いしたこと。
そんなに笑うか?シカクなら言いそうな事しか言ってないのになんで?とぼくは思った。
っていうかこのタイミングでテレビをつけたメイド、めちゃくちゃファインプレーだな。

ユゲルは常に冷静というか、感情が無い感じだ。口癖は「面倒くさい」「退屈だ」である。
ユゲルは長く生きすぎたせいで全てのことをやり尽くし、生きる興味を失った。
興味があるのは死だけだ。
ユゲルははじめ、シカクにも興味が持てなかった。
なのになんでシカクに興味を持ったんだろう…?

最初の方で書いたけどシカクは普通じゃない。それはユゲルも知っていた。“普通じゃない”程度のことではユゲルの心は動かなかった。
考えられるとすればユゲルの心を動かしたのは“テレビ”、ということになるだろうか?
確かに自分の身近に存在する“普通じゃない人”のことをぼくらは理解しようとしない気がする。だけどテレビでニュースになるような、自分とは全く関わりのないはずの人間のことになると、“なぜ罪を犯したのか”と、その人の背景に興味を持ってしまうことはある。
身近な人の“普通じゃない”は突っぱねようとするのに、テレビの中の“普通じゃない”は理解したいと感じる、この矛盾はなんなのか。とにかくテレビの中の“普通じゃない”には興味が沸いてしまう。

シカクは銃弾を浴びながらも笑顔でいられるような普通じゃない女の子である。
ユゲルがテレビの中のシカクに興味を持ったという点において、“多様性(個性)の吊し上げ”を皮肉っているようにも思えるが、
ユゲルは「テレビなんてつまらねーよ」とも言っているので、なんか違うかもしんない。
こんだけ書いたけど、なんか違うかもしんない、、、。一理あるかもしれないけどなんか違う気がする。みなさんどう思いますか???(?)

ただ、
両親のようにシカクを気持ち悪いと思うか、ユゲルのように面白いやつだと思うかは紙一重なのかもしれない。
“普通じゃない”を否定するか、興味を持てるか、受け入れることができるかどうかは紙一重かもしれない。

えーと、ユゲルが笑った理由?
シカクは病院に行った。たぶん病院の人に通報された。
警察に囲まれて、テレビに映された。そしてユゲルに向かって「恋をしている」と宣言する。指名手配されてるのに。確かにシカクは“馬鹿”だ。
ユゲルが「200年生きてもまだそんなに馬鹿なのか」と笑う場面があるのでそこがユゲルのツボなのかもしれない。

シカクは馬鹿だけど、全てにおいて予想外な女の子だなぁと思う。そこがすごくいい。
作者の“好きな漫画の傾向”が“馬鹿”と“予想外”なのかもしれない、いや、知らんけど。

シカクがユゲルに

「わたしはかわいいので!ユゲルさんはとってもいい気分なんでしょうね」

と言う場面。ここ、違和感があったけどその理由がわからなくて何度も読み返した部分。ここがおかしいと気づくのにすごく時間がかかった。

病院を取り囲む警官と銃弾の嵐、そんなことは全く眼中になくただただ愛を叫ぶ感じがとても良い。っていうかシカクがただただ可愛い。
さっきも書いたけど「わたしはかわいいので」ってシカクなら言いかねない台詞だ。だってシカクは自分のことを可愛いと思っているから。むしろ「可愛さ」だけがシカクの誇りだと思わせるような言葉で何となく悲しくもある。
シカクの言葉を聞いてメイドが「自己中心な人」と言った。その通りだ。
そう。
その通りだけど、ちょっと違う。

シカクにとって、ユゲルが”下”になっている。

意地悪に言い換えてみると「このわたしがユゲルさんを好きだと言っているんだからユゲルさんはいい気分に違いない」という感じだろうか(うまく言い換えできない…)
そもそもシカクは相手の気持ちを読むことが出来ない自己中心的な人間だ。そんなシカクが「ユゲルさんはとってもいい気分なんでしょうね」と、他人の心を想像している。
これはたしかにシカクがした想像なんだけど、たぶんシカクの“願望”から生まれた想像なのではないだろうか。相手の心を想像することと、願望は全く逆のものだ。
願望、というと微妙にニュアンスが違うか。願望というか、「相手はこう思っているはず!」という思い込み、というのかなぁ。ちょっとうまく言えない。
何が言いたいかというと、シカクが“自分が優位である”、あるいは“自分が優位なはずだ”と思っていないと、「いい気分なんでしょうね」という言葉は出てこないと思う。

「願望+自分が優位」→「いい気分なんでしょうね」
という感じかなぁ。

シカクは小さい頃からずっっっっと人に「許されたい」と思って生きてきた。
それがユゲルにはじめて許されたとき、シカクは初めて「対等」な扱いをされたと感じたのではないだろうか。

人は”自分がされてきたことでしか人格形成ができない”、
と個人的には思っている。
人間は人間から人格を貰って人格形成していく。

シカクの場合ずっと虐げられてきたから、シカクが相手から人格を貰うとしたら「許さない人格」だ。
シカクは「許されない」状況で育ったために、「許さない人格」しか貰うことができなかった。(だから殺し屋をやっていたんだと思う)
“許さない”とは、自分は正しく、相手は間違っているという主張である。そして自分が優位に立つための主張だ。

ごめんなさいと言っても許してくれない奴は殺す。なぜなら“許さない”と相手が言った瞬間、対等ではなく優劣が発生するからだ。
相手より自分の方が“上”でなければならない。シカクはそういう人達としか接してこなかったから、誰に対してもそういう振る舞いしか出来なくなってしまったのだと思う。
だからユゲルにも「とってもいい気分なんでしょうね」と、上から目線で言ってしまったのではないだろうか。(悪気はない)

ユゲルが大笑いしたのは、「恋」は対等でなければ出来ないのに、シカクが上から目線でものを言ったからかもしれない。
それから「わたしって相当かわいいでしょ」を自己肯定感が高いと思った、と最初の方に書いたけど、
これも間違ってた。ぼくの貧弱な想像力でシカクの気持ちを理解しようなんてのが間違いだ。これまでのシカクに対する感想がいろいろ間違っていた。ほぼ間違えてる。たぶんユゲルもはじめはシカクのことを勘違いしていたと思う。

たぶんシカクの中には倫理も正義もクソもないんじゃないか。
自分が優位に立つために相手を殺す。ただそれだけだと思う。シカクにとって殺し屋は天職だったのだ。

それから、シカクは見た目が「かわいい」方が優位であると思っていたのではないだろうか。自分のことをかわいいと言うのは自己肯定感があるからではなくて、自分が優位であることの主張だったのかもしれない(ルッキズムに対する皮肉?)
だから、
「わたしはかわいいので!ユゲルさんはとってもいい気分なんでしょうね」
という台詞は上から目線のオンパレード(?)だったということになる。恋をしているって言われてこれだったら確かに笑っちゃう。予想外すぎる。シカクだから許すけどな。

話が変わるけど
ユゲルが「お前も俺と同じかわいそうな奴だ」と言ったのはシカクも死にたがっていたからだと思う。
シカクの「ユゲルさんは死のうとしないで」の「ユゲルさん“は”」という言い回しからも、自分は死のうとしたんだとわかる。

シカクは死にたがっていた。

誰もシカクを許してくれなかったからだ。シカクの願いは「許される」ことだけだったんだなぁ。
「ユゲルさんは好きなのでわたしが殺します」ってまじでこれもどういうこと?
ここは優位性っていうより支配欲を感じる。優位も支配も同じか。なんかもうわけわからなくなってきたな???

こんな複雑な『シカク』を39度の熱が出たときに描いた藤本タツキ氏おかしくない?????天才???

ともあれ「許す」っていうのは、勝つとか負けるとか、殺すとか殺されるとかそんなことじゃないってことをユゲルが教えてくれたんだなぁ。

ユゲルがシカクを救ってくれました。
シカクはいろいろ間違えていたんだけど、ユゲルが全部許してくれました。
最高。

なんか「間違い」を愛する作者のスタンスがとっても良いと思う。
うん。

「間違い」を愛する作者のスタンスがとっても良いと思いました!!!(2回目)(大声)


以下、藤本タツキ作の『チェンソーマン』の重大な(?)ネタバレも含みますのでチェンソーマンを読んでない人はチェンソーマンを読んでからお越しください↓






シカク 感想続き

はじめ読んだとき、ユゲルがシカクを蘇らせるシーンで『チェンソーマン』のポチタとデンジを思い出した。
知っている人はそう連想した人も多いと思う。
だけどチェンソーマンとの繋がりはその一点のみだと思っていた。

が、
まさかまさか。マキマとの関連も出てきた。
シカクというキャラクターがマキマそのままではないですか??
マキマもずっと「対等な関係」を求めていたし、シカクは自分が殺し屋だという証明をするために目を持ってきた。マキマもマフィアを脅すために目を持ってきている。

マキマの下書きとなったキャラが“ナユタ”だけではなく、もしかしたら“シカク”もそうだったのでは?と思ったときはちょっと鳥肌が立った。
怖い。
マキマは支配の悪魔だし、もしシカクも支配の性質を持っているんだとしたら、今まで「従順で素直で可愛いシカク」と思っていたぼくは作者に完全に騙されたことになる。
シカクのイメージが粉々に砕かれた感じがした。
シカクの言動の端々に“支配”がちらついてることに気づいてしまったからもう「殺し屋が天職のシカク」にしか見えなくなってしまった。この数十ページの短編で読者に衝撃を与える作者がまじで恐ろしいと思った。
面白かったから許すけど!なんだかんだシカクの可愛さは変わらないし!




あとマキマは目がかなり悪いんじゃないかな、と思っていたので、そこが“シカク”という名前となんらかの関係があるかもしれないとか色々考えてしまった。
「許さない」っていうのも“復讐者”みたいで早川アキっぽいし、もしかしたらシカクは世の中に復讐するために殺し屋になったのかもなぁとか。
あとシカクが「ごめんなさい」っていうのは形式だけの演技だったとしたら思ってもないことを言うって意味では虚言癖のパワーちゃんっぽくもある。
シカクが素直な馬鹿なのはまんまデンジじゃん(酷い)あとテレビも気になる。
いやー面白いなぁ。

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