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ミライのキャリア 第3章 起業

この文章は、ミライのキャリア#13” 成功者の落とし穴、生存者バイアス”〜#18”起業の実際:ホリデーインタビュー”を加筆し再構成したものです。

(1)成功者の落とし穴、生存者バイアス:起業編


【Caol】えりなさん、起業家って言ったら、どんな人を想像しますか?

【えりな】ほりえもんとか?人一倍強い意思があって、雇われるなんて狭苦しい!って思う人を思い浮かべますね。

【ホリデー】確かに。みんな大好きスティーブ・ジョブズとか、ザッカーバーグとか、前澤さんとか、インターネットで大成功した人たちが世の中賑わしていますねえ。

【えりな】ホリデーさんも、起業家さんですよね?

【ホリデー】自分の会社を経営している、って意味では、起業家??超しょぼいですけど!!

【えりな】しょぼくないですよ。でも、仕事を誰より楽しんでいる印象はあるけど、起業家のガツガツはあまり感じないですね。私と同世代の20代も、会社が合わなくて「俺企業とかした方がいいのかな?」って言っている人多いんですよ。実際のところ、起業家ってどんな人が向いているのか気になりますね、そういうお年頃です。

【Caol】起業家って良くも悪くもそれっぽいイメージがありますよね。さて、心理屋から見て自分で会社を設立する人によく見られる性質が2つあります。それは、
・生存者バイアス
・インテリジェンス・トラップ
です。

【えりな】心理屋さんってそんなことも学術的に解説できるんですか!?確かに、生存者バイアスに、インテリジェンス・トラップ、言葉はなんとなく聞いたことがあります。

起業シリーズの内容


【Caol】この章、起業シリーズでどんな話をするか目次みたいな話をしますね。まず「生存者バイアス」「インテリジェンス・トラップ」という現象は何?という話をします。
 この2つがわかると、これらの認知バイアスのワナをくぐり抜けるための「メタ認知」という話がわかるようになるので、「メタ認知」の話を3回目でします。
 ここまでの3回は、起業家はどういう人?ということを心理学から見た話になります。このあとは、ホリデーさんの経験をもとに起業の実態について話をしていこう、という流れです。実態編ではキャリアとしての起業とか起業に向いている人、という話にもなります。

【ホリデー】実態編で僕の話、参考になるのかがめっちゃ不安っす。まあいいか。

生存者バイアス


【Caol】ではまず今回は生存者バイアスの話。起業しよう、という人は、起業して成功した経営者の本やインタビューを読んだりしますよね。

【ホリデー】読みますね。読みましたよ。てか読んで心の炎を燃やしていますよ。

【Caol】これには注意が必要で、そのまま受け取れないことが多い。成功した人ほどそうです。なぜなら生存者バイアスというものが関わっています。

【ホリデー】Caol先生、俺の心の炎にめっちゃ水ぶっかけますね!ちん。

【Caol】で、生存者バイアスとは、認知バイアスのひとつ。認知バイアスとは、何かを判断する時など、非常に基本的な誤りや記憶の誤りが生じ、非合理的な行動をとってしまうもとになる、ものの見方のこと。

【ホリデー】思い込み、ってことですね。

【Caol】そのとおりで、それまでの人生で得た思い込みや個人の生活習慣、固定観念、不安や懸念などが認知バイアスの原因になります。
 認知バイアスにより、人は「ちょっと考えればわかるような」簡単な間違いをおかしてしまいます。そして時として、それは財産や生命に関わる事態を招きます。認知バイアスを取り除く事はできなくても、それがあるということをあらかじめ知っておくことが重要。

【えりな】当たり前とか先入観があってちょっと考えればわかるような勘違いしている?うわー、もう私いっつもそうですけど…それがビジネス書読むのと起業にどう関わるんですか?

【Caol】だって、世の中のビジネス書って、大体成功している人が書いているじゃないですか。でも、大成功している経営者って、世の中のほんの一握りですよね?

【えりな】確かに〜

【ホリデー】逆に言うと、「死人に口なし」「死して屍拾うものなし」ってことっすね!敗者の声はなかなか世の中に届かない。

【Caol】まさにそうで、認知バイアスのうち、生存者バイアスというのは、現在残っている物だけを見て、途中で淘汰された物を見ないために誤った信念を持つことです。大学を中退して実業家として成功したスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツを見て、
「大学を中退しても人生で成功することに影響はない」
「大学を中退するくらい型にとらわれない方が成功できる」
 と考えることです。実際には彼らの成功は奇跡と言えるもので、大学を中退した人全体の割合からすると、大学中退が人生の成功に影響が無いとは言えません。社会においては大学を卒業したという経歴はやはり重要で、成功している人の中でも大学を卒業している人の割合はかなり高いのです。

【ホリデー】分かるわ。

【Caol】このように、「成功を収めるためには大学を中退したほうが良い」という考えは、一部の成功者だけを対象としてとらえ、大学を中退した後ビジネスが上手くいかなかった人を無視する生存バイアスだと言えます。

【えりな】おお。言えていますね。

【ホリデー】そうやって成功者バイアスに囚われすぎている人と「意識高い系」って言われている人たちは結構近いのかもしれないですね。

【Caol】認知バイアスがなんで起きてしまうのか。それを説明したのが、認知心理学者にしてノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン。彼はその著書「ファスト&スロー」の中で、私たちにはシステム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)があると述べています。

【ホリデー】読みましたよ〜!「ファスト&スロー」意識高い系ですから。でも、大体忘れました。

【Caol】
・システム1速い思考
 直感や経験に基づいて、日常生活で大半の判断を下すシステム。例えば物の距離感や音の方角の感知など、自動車の運転をする際に働く認知。
・システム2遅い思考
 発動には集中力が必要とされる。例えば、たくさんの文字の中から必要な情報だけを抜き出す、聞こえてきた言葉が何語かを聞き分ける、といった働き。
 システム1の「速い思考」はとても便利で、考える前に判断し、行動できること。認知バイアスって別の見方をすれば情報の圧縮で、瞬時に判断、行動できる手段です。なので、認知バイアスがない、という人はいないし、自動車を安全に運転できるのはこのシステム1があるから。交差点でいちいち「これは何でどう行動すると安全か」と考えていたら運転できませんよね。
 そんな日常生活を快適に送るためには欠かせないシステム1ですが、困った欠点があります。それはすぐにしゃしゃり出てきて、遅い思考に付け入る隙を与えず、安易な結論に飛びつく傾向=認知バイアスです。

【えりな】早い思考が、直感や経験からすぐに結論に至る思考で、遅い思考は、文字や言葉から解釈する思考ってことですね?良し悪しというか、人間に備わった頭の機能ということ。

【Caol】そうですね。速い思考は考える前に分る感じ、遅い思考は考えて判断する感じですね。なので、生存には両方必要です。

【ホリデー】瞬発力だけに頼って判断すると痛い目みるよ、と。今までの人生で、これで困ったことになったの、いっぱいあるなあ。スプラトゥーンのホタルちゃんも「カベにかくれて深呼吸、戦場の鉄則ゥ~」って言っていました。

(2)インテリジェンス・トラップ

【Caol】インテリジェンス・トラップというのは、頭の良いとされる人でも誤った判断をしてしまう、という話。これも生存者バイアス同様、起業して成功するような経営者も引っかかってしまうワナです。

【えりな】で、インテリジェンス・トラップ、でしたっけ?頭がよければ必ず正しい判断ができるとは限らないんですね!

【Caol】はい、解説しましょう。このインテリジェンス・トラップというのは、いわゆる頭の良い人、知的レベルが高い人が、誤った判断をしてしまうこと。ま、知的能力が高いから起業したり、会社で出世したりして経営者や管理職になるのですが、そういう人が「なんでそうなるの」という判断をしてしまう、という現象です。
 これがキャリアになんで関係があるか、というと、経営者として会社を大きくしていく過程とか、大企業の管理職として上位者となる、などある意味、現場から離れる時に判断を誤るときに見られるパターンの一つだからです。
 このインテリジェンス・トラップという現象を理解する理論としては、知能は1つではない、ということがあります。

【えりな】てか、頭のいい人だからこそ誤った判断をしちゃうなんて、なんでそうなっちゃうのか想像もつきません!

三頭知能理論

【Caol】アメリカの心理学者にスタンバーグという人がいて、知能は3つある、という三頭知能理論を確立しました。これは、
1.分析的知能(Analytic intelligence )
2.創造的知能(Creative intelligence)
3.実践的知能(Practical intelligence)
の3つ。
 分析的知能(Analytic intelligence)は従来の知能テストで測っている「知能」とほぼ重なる能力です。これが高いと知的能力が高い人、という評価につながっていたのですが、ほかの2つ、とくに実践的知能というのが仕事においては重要。この実践的知能というのは、実際に現場で上手くやる能力のこと。

【ホリデー】なるほど。「GRIT」って言うやつに近いですね。「やり抜く力」。GRITの本、ベストセラーにもなっていましたね〜。

【Caol】心理屋として解説すると、やりぬく力には性格特性の面と、知的能力や認知能力の面があるのですが、ここでは知的能力がメインです。

【ホリデー】なるほど〜。まあ、でも、実践的知能が仕事において重要っていうのは、肌感覚としてめちゃわかる気がする。

実践的知能

【Caol】これは特に学校より職業の場で顕著かと思いますが、学歴や専門知識と「現場で発揮される有能さ」が必ずしも一致しない経験は多くの人が持っているかと思います。スタンバーグは、こうした「実際の日常場面で発揮される能力」を実践的知能(Practical intelligence)として独立した能力とみなしました。

【ホリデー】あ〜。そういえば僕の前職って、高学歴・高スペック揃いだったんですけどね、まあ僕は美大だったもんで、一般の高学歴な人たちってすごい天才なんだ、って思っていましたけど、仕事しているとそこまでその差を感じなかったし、入ってみると、ピンもキリもいたりしましたね。

【Caol】余談だけど、スタンバーグはリベラルアーツの知識も豊富で、自分の理論をわざわざ三頭知能理論(triarchic theory of intelligence)と名付けています。triarchicって古代ローマ帝国の紀元前60年ポンペイウス、カエサル、クラッススの政治体制に使われる言葉。

【えりな】へ〜。学校で勉強ができたり、優等生だったりすることと、社会に出て活躍できるかは違うということなんですね。テストの点数が低かった同級生で大活躍している人もいるし、その逆もあるな…

【ホリデー】あるよねえ

暗黙知

【Caol】実践的知能に関連することが暗黙知( tacit knowledge)。これは言語化しやすい知識である「形式知(explicit knowledge)」と対比する概念で、いわゆる「習うより慣れろ」系のスキルのことです。知能テストで測るような知的能力に差がなくても、この「暗黙知」の高低がベテランと素人の大きな差になるもの。いわゆる経験の差を生むものだけど、経験しても差が出ちゃうというのは、この暗黙知をきちんと学習する能力があるか=実践的知能の差、と見ることができます。

【えりな】習うより慣れろの能力!高校生のころ田舎だったので教室の生徒のほとんどが同じバイト先だったんですが、テストの点は悪いけど野生の勘で仕事ができる勢と、頭いいけどバイトになると全然動けない勢で別れていて、教室とバイト先で立場が逆転する現象が起きていました。

想像力の欠如

【Caol】あ〜、そんな感じですね!で、この実践的知能と暗黙知、2つの知識をふまえて、インテリジェンス・トラップがなぜおこるのか。現在の心理学で説明されているのは、4つ、
(1)計画を実行し、自らの行動から悪影響が生じるのを回避するのに不可欠な「暗黙知」と「反事実的思考」が欠けている。
 反事実的思考というのは、実際の事実とは別の過程や結果を想像すること。これってどういうことかというと、Aプランをためしてうまくいった。でもBプランもあって、もしBプランをやっていたらどうなっていたか、を想像できること。実際にはAプランを実行して結果が出ているので、これが事実。事実に反するBプランのことも考えられる想像力のことです。想像力って大切ですよね。

【えりな】想像力。確かにこれがどれだけ仕事に必要か…!私もこれが低い気がするな…

【ホリデー】いやあ、でも、上手くいった時って、他の可能性を考えるよりも、絶対調子に乗っちゃうよなあ、人って。

【えりな】ですよね〜。「私、天才!」って天狗になっちゃいますよね。

【ホリデー】でも、Caol先生の言うように、そこで天狗にならず、別の可能性をちゃんと考え続けられる経営者って、確かに強そう。

自己の思考を正当化する傾向

【Caol】そうですね。続けますね。インテリジェンス・トラップがなぜおこるのか、
 その(2)「動機づけられた推論」これは、自らの思考の欠陥に気づかず、自己の思考を正当化することにこだわる。
 動機づけられた推論というのは、自己の思考を正当化することに動機があり、推論が動機に引きずられること。

【ホリデー】言い方が、難しい!

【Caol】要は、自分の考えが先で、それに合うことばかり取り上げる思考ですね。そういう思考しかしないので、認知バイアスにひっかかりやすい。

【えりな】頭がいい人でも、自分のつちかってきた知識でむりやり根拠付けたかったりしがちなのかもしれませんよね。

自らの判断に過剰な自信をもつドクマティズム

【Caol】インテリジェンス・トラップがなぜおこるのか。
 その(3)「獲得されたドクマティズム」によって、自らの判断に過剰な自信を抱く。ドクマティズムとは根拠のない信念に基づく、独断的な考えのこと。獲得、というのがポイントで、なまじ頭がよく、成功しているので、自分の考えていることはすべて正しい、と根拠なく思い込む感じですね。

【ホリデー】うわ〜。これは難しいなあ、経営者の仕事って情報が揃わない不確実性の高い状態で、「決断する」ってことが大きな役割だと思うんですよね。

【えりな】なるほど。決断するっていうことは、自分のことを信じたり、思い込んだりすることですよね。

【ホリデー】そうそう、そうなんすよ。だから、根拠のない自信を持てないと先に進めない、ってこともあったりするなあ、とも思っていて、それが良い時もあるし、インテリジェンス・トラップに嵌るってこともあるんだなあ、と。むずかしーなぁ〜!

専門家に起きやすい“自動化された思考”

【Caol】インテリジェンス・トラップがなぜおこるのか。
 その(4)専門知識があるために、細部を見ずに自動化された思考、判断をし、考えに反する事実を見落とし、認知バイアスの影響を受けやすくなる。
 私の業界では、「臨床心理士は経験をつむほど悪くなる」という言葉があります。これはいろいろ解釈できる言葉ですが、この「専門知識があるために、細部を見ずに自動化された思考、判断をし、考えに反する事実を見落とし、認知バイアスの影響を受けやすくなる」ことを表している、とも言えます。

【ホリデー】あ〜。これもわかる。デザインでもそうですもん。気を抜くと手なりでやっちゃっていたりするんですよね。それでソコソコの成果がでちゃったりするんですけど、そう言う時ってなんか突き抜けないんですよ。

【えりな】突き抜けたい〜!先入観に囚われずに頭を真っ白にすることが必要…よし全部真っ白にしよう…!ああ、私がやってもただの頭の空っぽな人になっている気がする…!

【ホリデー】頭空っぽの方が〜夢詰め込める〜、ってやつだね。いいんじゃね。

【えりな】ドラゴンボールのあのへっちゃらな曲ですね!

【Caol】この「臨床心理士は経験をつむほど悪くなる」という言葉には続きがあって「経験をつむほど悪くなる臨床心理士は、本を読まない」。この本を読むという言葉は、文字通り仕事に必要なはずの専門書を読むことです。また本を比喩としてとらえれば、仕事に必要な知識をアップデートしているか、と見ることもできます。

【ホリデー】ほほ〜。なんか本を読むことって、インテリジェンスっぽいイメージがあるけど、今話している「インテリジェンス・トラップ」ってのはそう言うことじゃないわけね。

【えりな】そうですね、しかも答えを求めて成功者のエッセイを読むんじゃなく、自分の知識をアップデート、ですね!

【Caol】「真実とは、問いかけることにこそ、その意味も価値もある」ですよ。

【ホリデー】出た!「ジャイアントロボ」!これは、世代間ギャップですらない、またマニアックなところから持ってきましたね。同世代でも3%くらいにしか通じない。

【えりな】分からなすぎる!

インテリジェンス・トラップに対抗するには「メタ認知」

【Caol】で、そんな困ったインテリジェンス・トラップに対抗するにはどうするか。キーワードは「メタ認知」。自分の考えが間違っているかもしれない、という自覚とそれを修正する能力を意識して使うこと。

【ホリデー】あ〜。ザッカーバーグさんとこの会社「Meta」。

【えりな】それ、違うと思います。

(3)メタ認知のすすめ

【Caol】インテリジェンス・トラップ、生存者バイアス、この2つの落とし穴から逃れるための方法、それがメタ認知です。

【ホリデー】なるほど。誰だって落とし穴に落ちたくないですもんね。

【えりな】落とし穴から逃れる方法、知りたい〜!

メタ認知の効能

【Caol】はい、なので、このメタ認知がわかると、自分が仕事をしたり、生きていく上で、目標に向かって正しい努力ができたり、物事を正しく対処できたりできるようになるんですよ。メタ認知が高いと例えば
・計画の達成力が向上する
・先延ばしをしなくなる
・怒りのコントロール力がつく
みたいな効果があるんです。

【ホリデー】おお〜。メタ認知すごいな。メタ認知最高だ!ところで、えりなちゃん、メタ認知ってそもそもどーゆーことか知っている?

【えりな】「メタ」って言葉は日常的に使いますよ!例えば、舞台だと役者さんは登場人物としての発言しかしないと思うんですが、その中にちょっと楽屋の話題のアドリブが入ったり、あとはアニメや漫画でキャラクターが「続きの公開はいつ!見てくれよな!」って言ったり。「メタい!」ってみんな使います。

【ホリデー】お〜!なるほど!え、かなり正確に言葉の意味を理解できてるやん!なるほど。もしかしてZ世代にとっては「メタ」って概念が僕らの世代よりもより身近なのかもしれないなあ。
 ちなみに僕はメタ認知のことは、学生時代にCaol先生から教えてもらいました!(得意げ)。このメタ認知、って今の仕事にもかな〜り役に立っているんだよね。

【えりな】へ〜!そうなんですね!アニメだけじゃないんですね!

【ホリデー】ふふふ、そうなのだよ。じゃあ、メタ認知って、なんなのかというと、それはCaol先生が解説してくれます!

メタ認知とは?

【Caol】はいはい、説明しましょう。メタ認知というのは、自分が認知していることを把握してコントロールすることです。

【えりな】ほほ〜!自分が認知していることを、把握してコントロールすること!

【Caol】そう、人は物事をありのままに見たり聞いたりすることはできないんです。

【えりな】ん?どゆことどゆこと?ありのままに見たり聞いたり、できないんですか?え、いつも私やってるつもりでしたけど!

【Caol】例えば、テーブルに置いてある紙に鉛筆で書いてある文字を見たとき、目への情報は、白と黒でしかない。これを文字、と判断するのは脳。「今日は遅くなります、冷蔵庫におやつのケーキが入っています」と読んで判断できるのも脳。この脳の働きのことを認知といいます。

【えりな】なるほど〜。確かに、書かれた文字は、物質的にいうと、ただの鉛のシミみたいなもんですもんね。

【ホリデー】そう、物事をありのままに見ると、まさに「鉛のシミ」になるはずだよね。でも、その人の脳のせいでそれが文字に見えてしまう、ってことですね。

【えりな】なるほど〜!

【Caol】認知の働きには、感情や行動もくっついています。「おやつのケーキが入っています」という文字を見たときに、「やった~!」と思うか、「別に」と思う、という考えも認知のうち。なので、認知によって起きる感情や、その後の行動も変わってきます。今、自分の認知はどんなもの、ということが自分自身で分ると、感情も行動もコントロールできますよね。その、認知を俯瞰して把握することが、メタ認知

【えりな】自分を客観視して、いろんな視点でものを考えるということですね。だからキャラクターが、キャラクターとしてではなく「作られたもの」として発言したりするのもメタだったのか!

【Caol】お見事!さすが理解が早い!別の視点からメタ認知を説明すると、優れたサッカー選手は、目の前の景色のほかに、サッカーコートを俯瞰する視点も持っている、と聞きます。自動車を運転するときに、カーナビがあって、目の前の景色を見る視点のほかに、別の俯瞰する視点がある感じですね。このように自分の視点と別の視点をもてたり、別の考えが持てたりことがメタ認知です。

【えりな】似た話だと、「役者は3つの目を持っている」という話があります。自分が自分を見た目と、お客さんから見た目、そして最後が舞台全体を俯瞰した目。

【ホリデー】おお〜、いい話!確かに同じ話だね!

メタ認知が働くタイミング

【Caol】で、フランベルさんの理論では、メタ認知が働くタイミングは4つ、

【ホリデー】フランベルさん、誰?Caol先生の友達?

【Caol】いや、このメタ認知という能力を見つけたアメリカの心理学者。ジョン・H・フランベルは、メタ認知が働くタイミングは4つあるって言っていて、
1 目標段階
 目標を設定するときには、自分は何を考えているのか、と自分をモニタします。2 知識段階
 目標を達成するために、自分がどんな知識を持っているか?何が不足しているか?振り返っていきます。
3 行動段階
 行動しながらメタ認知をしていく。例えば、集中していない自分がいる、なぜか集中できないのか?など自分を観察していきます。
4 結果の段階
 失敗、成功について評価をしていきます。例えば、失敗したけど、あの時、このように考えたのがミスの原因だった、など自分の感情を確認していきます。

【ホリデー】ほえ〜。言われてみると、確かに、って感じだけど、この4つでメタ認知発動しない人も結構いる気がする。

【Caol】フランベルは、子どもの思考発達の研究で、メタ認知という能力を発見しました。基本、誰もが持っている能力で、年齢とともに成長するものです。

【えりな】人間がもともと持っているんですね!確かに子供ほどメタな感じが少ない気がします。小学生が夏休み最終日に宿題を全部やらなくちゃいけなくなって「やだー!やりたくないー!宿題消えろー」と思うとおもうんですが「なぜ今宿題が残ることになったのか客観的に分析してみよう…そもそも夏休みの日数と宿題量は適切だったのだろうか…?」とはなりませんもんね。

【ホリデー】こないだネットで「夏休みの宿題を最終日までやらないと人はどうなるのか」って自由研究やっていた子が話題になっていたけどね。最後は「宿題はなんのためにあるのか、僕はなんのために生きているのか、なぜ人は争うのか」って、メタの階段登りまくっていたよ。

【Caol】その子のメタ認知能力は非常に高いですね。最後は実存主義哲学じゃないですか!

【えりな】でも、大人だからってみんな物事を客観的に見られるとは限らなくないですか?仕事を内容や量を客観的に見られずに、やみくもに残業する先輩もいるし…

【Caol】その通り。メタ認知は能力なので、人によって高い低い、という差があります。インテリジェンス・トラップのときにやったプラクティカル・インテリジェンスと関連がありそうです。ただ安心してください、メタ認知を高める方法、というのはいくつかあります。

【えりな】え〜、知りたいです!

【Caol】まず1つ目が「と私は考えている」という方法。これは、今、自分が考えていること、感じていること、感情などを「〜と私は考えている」とか「〜と私は感じている」「〜と言う感情を私は持っている」という風に言葉にしてアウトプットする方法。

【ホリデー】なるほど。強制的に「他者視点」にしちゃうわけですね。

【Caol】このやりかたを一歩進めると「〜と考えているのは私で、ファクト/事実はこう。」と考えと客観的な事実を分ける、よりメタ認知が働く方法にもできます。

【ホリデー】なるほど、そこまではかなり訓練が必要そうですけど。

【えりな】でも、確かに他者の視点からスタートして冷静に分析していく、って思考のパターンは役に立ちそうですね!

【Caol】2つ目、「と私は考えている」という方法でうまくいかない、より徹底的にやりたい、という人は、紙やスマホのメモに書くことをお薦めします。これは、
・まず日々の出来事を書く。朝何を食べた、とか。これは事実(fact)にあたります。
・次に出来事の時に起きた感情を書く。朝食がおいしかった、とか。
・その次に出来事の時に考えたことを書く。明日もパンを食べよう、とか。
 の3つをセットにして書き、読み返すことで、事実と感情、考えを分けて考える訓練です。

【ホリデー】可視化することによって、より強力に他者視点で自分の行動や思考を眺めることができる、ってことですね。なるほど。

【Caol】ですね。そして、こういう他者視点の取り入れに成功すれば、インテリジェンス・トラップや生存者バイアスの罠にはまることから逃れられるんです。
 「本当に自分は賢い選択をしたのか?違う可能性もあるんじゃないか?」とか、「たまたま前に成功したからこれが正しいと思っていたけど、本当の課題はもっと別のところにあるんじゃないか?」とか、そうやって自分の考えを相対化して考えることができれば、落とし穴に落ちにくくなる、というわけですね。

【えりな】確かにメタ認知能力を上げれば、自分の行動を先読みして監視できるので、計画の達成力が向上しますし、先延ばしをしなくなる。自分の感情を客観視できるので、怒りのコントロール力もつきそうですね。
 まさに、夏休みの宿題を計画して先伸ばさなくなることで、達成できるようになる、みたいな役割があるということですね。
 メタ認知が苦手な人も、自分の考えを可視化することでメタ認知を習慣づけることができる、というお話でした。

(4)起業のケーススタディ・ホリデーインタビュー

【えりな】この章では、実際に起業し、会社を経営しているホリデーさんに「法人を立ち上げ起業をする」っていうこととはどういう事か、インタビューしていきます。まず法人を立ち上げ起業した理由を教えてもらってもいいですか。

【ホリデー】僕はもともと大手の広告代理店にいたんですが、このままちょっと大企業にいてもなぁ、ということで、ちょっと違う世界を見てみたいなっていう時に、お誘いを受けました。別のベンチャーというか、そういう会社によばれて行ったんですね。
 そこの会社が全くうまくいかずにですね。このままだと、僕も生活ができない、みたいな感じの状態に、なってしまったので、仕方なく独立して会社を立ち上げたと、そんな感じでございます。
 なので、なんか夢を見て、俺はこんな会社を作って、こんなビジネスをするんだ、という風な感じに思って立ち上げたというのではなく、本当に仕方なくも、自分一人でやっていくしかない、っていって立ち上げたんですね。

【えりな】そうなんですね。もともと大手の広告代理店にいらっしゃったっていう話をね、何度かお話しいただいたと思うんですけど、うまくいかずに仕方なく起業したっていうところが初耳です。まず聞きたいのは、ホリデーさんの社長さんをしてらっしゃる会社は、どんな商品やサービスで誰を相手にしているんですか?

どんな商品やサービスで誰を相手にしている会社?

【ホリデー】元々大手広告代理店にいた時にですね。アートディレクターとしていろんな企業のデザインの仕事をしていたんですね。なので、やっぱそこが得意分野なんですよ。なので、今、何をしているかっていうことなんですけど、中小企業大企業色々なクライアントさんが絡むオーダーを受けて、例えばその企業のロゴデザインをやったり、商品のブランドのデザインをやったり、はたまたキャラクターのデザインをやったり、Web サイトのデザインをやったり、デザインからビジネス支援をするみたいなことを行っております。なんで、結構まあもともと得意だったところに、もう1回戻ってきたみたいな、そんな感じですかね。

【えりな】そうなんですね。ということは、どんな商品だったり、どんなサービスかっていうのは、デザイン、ロゴだったり、あとはキャラクターだったりっていうデザインでのビジネス支援を想定して、お客さんは企業さんっていうことになるんですね。

【ホリデー】基本は企業ですね。

【えりな】なるほど。そしたら大手広告代理店でやったことをそのまま延長でやっているところも多かったんですかね。

【ホリデー】そこはもうずっと10何年やって慣れているところがあったので、まずは一番自分の得意なところで、自分の会社をやっていくということで始めてみました。

【えりな】自分の一番得意な事っていうのが大事そうですよね。

【Caol】そこで浮かんだ質問なんですけれども、営業、つまりお客さんにする人をどうやって引っ張ってきました?

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