見出し画像

ミライのキャリア#14インテリジェンス・トラップ:起業編(2)

生存者バイアスおさらい


【えりな】
 前回は生存者バイアスの話。前回は起業家ってどんな人?というお話しでしたね。成功した人は一握り、その人たちには生存者バイアスというのが働いていて、その経験がだれでも成功する方法ではないというお話でした。ではビジネス本や成功者の体験談だけではわからない、ほかに見るべき点が色々あるということがわかる、という話でしたよね。
【Caol】
 そうですね。今回は、インテリジェンス・トラップという頭の良いとされる人でも誤った判断をしてしまう、という話。これも生存者バイアス同様、起業して成功するような経営者も引っかかってしまうワナです。
【ホリデー】
 俺のことか。
【えりな】
 ホリデーさんは自分で自分のこと、頭いい、って思っているんですね。
【ホリデー】
 思ってません!ごめんなさい!
【えりな】
 別に謝らなくていいですwで、インテリジェンス・トラップ、でしたっけ?
 頭がよければ必ず正しい判断ができるとは限らないんですね!

インテリジェンス・トラップ


【Caol】
 はい、解説しましょう。このインテリジェンス・トラップというのは、いわゆる頭の良い人、知的レベルが高い人が、誤った判断をしてしまうこと。ま、知的能力が高いから起業したり、会社で出世したりして経営者や管理職になるのですが、そういう人が「なんでそうなるの」という判断をしてしまう、という現象です。
 これがキャリアになんで関係があるか、というと、経営者として会社を大きくしていく過程とか、大企業の管理職として上位者となる、などある意味、現場から離れる時に判断を誤るときに見られるパターンの一つだからです。
 このインテリジェンス・トラップという現象を理解する理論としては、知能は1つではない、ということがあります。
【ホリデー】
 俺のことか。
【えりな】
 もうええっちゅうねん。
 てか、頭のいい人だからこそ誤った判断をしちゃうなんて、なんでそうなっちゃうのか想像もつきません!

三頭知能理論


【Caol】
 アメリカの心理学者にスタンバーグという人がいて、知能は3つある、という三頭知能理論を確立しました。これは、
 1.分析的知能(Analytic intelligence )
 2.創造的知能(Creative intelligence)
 3.実践的知能(Practical intelligence)
の3つ。
 分析的知能(Analytic intelligence)は従来の知能テストで測っている「知能」とほぼ重なる能力です。これが高いと知的能力が高い人、という評価につながっていたのですが、ほかの2つ、とくに実践的知能というのが仕事においては重要。この実践的知能というのは、実際に現場で上手くやる能力のこと。
【ホリデー】
 なるほど。「GRIT」って言うやつに近いですね。「やり抜く力」。GRITの本、ベストセラーにもなってましたね〜。
【Caol】
 心理屋として解説すると、やりぬく力には性格特性の面と、知的能力や認知能力の面があるのですが、ここでは知的能力がメインです。
【ホリデー】
 なるほど〜。まあ、でも、実践的知能が仕事において重要ってのは、肌感覚としてめちゃわかる気がする。

実践的知能


【Caol】
 これは特に学校より職業の場で顕著かと思いますが、学歴や専門知識と「現場で発揮される有能さ」が必ずしも一致しない経験は多くの人が持っているかと思います。スタンバーグは、こうした「実際の日常場面で発揮される能力」を実践的知能(Practical intelligence)として独立した能力とみなしました。
【ホリデー】
 あ〜。
 そういえば僕の前職って、高学歴 高スペック揃いだったんですけどね、まあ僕は美大だったもんで、一般の高学歴な人たちってすごい天才なんだ、って思ってましたけど、仕事してるとそこまでその差を感じなかったし、入ってみると、ピンもキリもいたりしましたね。
【Caol】
 余談だけどスタンバーグはリベラルアーツの知識も豊富で、自分の理論をわざわざ三頭知能理論(triarchic theory of intelligence)と名付けています。triarchicって古代ローマ帝国の紀元前60年ポンペイウス、カエサル、クラッススの政治体制に使われる言葉ですね。
【えりな】
 へ〜。学校で勉強ができたり優等生であることと、社会に出て活躍できるかは違うということなんですね。テストの点数が低かった同級生で大活躍している人もいるし、その逆もあるな…
【ホリデー】
 あるよねえ。

暗黙知


【Caol】
 実践的知能に関連することが暗黙知( tacit knowledge)。これは言語化しやすい知識である「形式知 (explicit knowledge)」と対比する概念で、いわゆる「習うより慣れろ」系のスキルのことです。知能テストで測るような知的能力に差がなくても、この「暗黙知」の高低がベテランと素人の大きな差になるもの。いわゆる経験の差を生むものだけど、経験しても差が出ちゃうというのは、この暗黙知をきちんと学習する能力があるか=実践的知能の差、と見ることができます。
【えりな】
 習うより慣れろの能力!高校生のころ田舎だったので教室の生徒のほとんどが同じバイト先だったんですが、テストの点は悪いけど野生の勘で仕事ができる勢と、頭いいけどバイトになると全然動けない勢で別れていて、教室とバイト先で立場が逆転する現象が起きていました。

想像力の欠如


【Caol】
 あ〜、そんな感じですね!
 で、この実践的知能と暗黙知、2つの知識をふまえて、インテリジェンス・トラップがなぜおこるのか。現在の心理学で説明されているのは、4つ、

(1)計画を実行したり、自らの行動から悪影響が生じるのを回避するのに不可欠な「暗黙知」と「反事実的思考」が欠けている。

 反事実的思考というのは、実際の事実とは別の過程や結果を想像すること。これってどういうことかというと、Aプランをためしてうまくいった。でもBプランもあって、もしBプランをやっていたらどうなっていたか、を想像できること。実際にはAプランを実行して結果が出ているので、これが事実。事実に反するBプランのことも考えられる想像力のことです。想像力って大切ですよね。
【えりな】
 想像力。確かにこれがどれだけ仕事に必要か…!私もこれが低い気がするな…【ホリデー】
 いやあ、でも、上手くいった時って、他の可能性を考えるよりも、絶対調子に乗っちゃうよなあ、人って。
【えりな】
 ですよね〜。「私、天才!」って天狗になっちゃいますよねw
【ホリデー】
 でも、Caol先生の言うように、そこで天狗にならず、別の可能性をちゃんと考え続けられる経営者って、確かに強そう。

自己の思考を正当化する傾向


【Caol】
 そうですね。続けますね。インテリジェンストラップがなぜおこるのか、

その(2)「動機づけられた推論」これは、自らの思考の欠陥に気づかず、自己の思考を正当化することにこだわる。

 動機づけられた推論というのは、自己の思考を正当化することに動機があり、推論が動機に引きずられること。
【ホリデー】
 言い方が、難しい!!
【Caol】
 要は、自分の考えが先で、それに合うことばかり取り上げる思考ですね。そういう思考しかしないので、認知バイアスにひっかかりやすい。
【えりな】
 頭がいい人でも、自分のつちかってきた知識でむりやり根拠付けたかったりしがちなのかもしれませんよね。

自らの判断に過剰な自信をもつドクマティズム


【Caol】
 インテリジェンストラップがなぜおこるのか。

その(3)「獲得されたドクマティズム」によって、自らの判断に過剰な自信を抱く。
 
 ドクマティズムとは根拠のない信念に基づく、独断的な考えのこと。獲得、というのがポイントで、なまじ頭がよく、成功しているので、自分の考えていることはすべて正しい、と根拠なく思い込む感じですね。
【ホリデー】
 うわ〜。これは難しいなあ、
 経営者の仕事って情報が揃わない不確実性の高い状態で、「決断する」ってことが大きな役割だと思うんですよね。
【えりな】
 なるほど。決断するっていうことは、自分のことを信じたり、思い込んだりすることですよね。
【ホリデー】
 そうそう、そうなんすよ。
 だから、根拠のない自信を持てないと先に進めない、ってこともあったりするなあ、とも思ってて、それが良い時もあるし、インテリジェンストラップに嵌るってこともあるんだなあ、と。むずかーな〜!

専門家に起きやすい“自動化された思考”


【Caol】
 インテリジェンストラップがなぜおこるのか。

その(4)専門知識があるために、細部を見ずに自動化された思考、判断をし、考えに反する事実を見落とし、認知バイアスの影響を受けやすくなる。
 
 私の業界では、「臨床心理士は経験をつむほど悪くなる」という言葉があります。これはいろいろ解釈できる言葉ですが、この「専門知識があるために、細部を見ずに自動化された思考、判断をし、考えに反する事実を見落とし、認知バイアスの影響を受けやすくなる」ことを表している、とも言えます。
【ホリデー】
 あ〜。これもわかる。デザインでもそうですもん。
 気を抜くと手なりでやっちゃってたりするんですよね。それでそこそこの成果がでちゃったりするんですけど、そう言う時ってなんか突き抜けないんですよ。
【えりな】
 突き抜けたい〜!先入観に囚われずに頭を真っ白にが必要…よし全部真っ白にしよう…!ああ、私がやってもただの頭の空っぽな人になっている気がする…!
【ホリデー】
 頭空っぽの方が〜夢詰め込める〜、ってやつだねwいいんじゃね?w
【えりな】
 ドラゴンボールのあのへっちゃらな曲ですね!
【Caol】
 この「臨床心理士は経験をつむほど悪くなる」という言葉には続きがあって「経験をつむほど悪くなる臨床心理士は、本を読まない」。この本を読むという言葉は、文字通り仕事に必要なはずの専門書を読むことです。また本を比喩としてとらえれば、仕事に必要な知識をアップデートしているか、と見ることもできます。【ホリデー】
 ほほ〜。なんか、「本を読む」ってのがインテリジェンスっぽいイメージあるけど、今話してる「インテリジェンストラップ」ってのはそう言うことじゃないわけね。
【えりな】
 そうですね、しかも答えを求めて成功者のエッセイを読むんじゃなく、自分の知識をアップデート、ですね!
【Caol】
 「真実とは、問いかけることにこそ、その意味も価値もある」ですよ。
【ホリデー】
 出た!「ジャイアントロボ」!これは、世代間ギャップですらない、またマニアックなところから持ってきましたね。同世代でも3%くらいにしか通じない。
【えりな】
 わからなすぎる!

次回はメタ認知

【Caol】
 で、そんな困ったインテリジェンス・トラップに対抗するにはどうするか。
キーワードは「メタ認知」。
 自分の考えが間違っているかもしれない、という自覚とそれを修正する能力を意識して使うこと。このメタ認知の話が次回のテーマです。
【ホリデー】
 あ〜。ザッカーバーグさんとこの会社”Meta”。
【えりな】
 それ、違うと思います。
 次回は、「メタ認知とは何か、それを高めるには」です。お楽しみに!

第2第4月曜日にPodcastを配信


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?