しきから聞いた話 183 かなしみの棘
「かなしみの棘」
犬を見てほしい、と連絡がきたときは、どんな珍しい案件かと、少しわくわくした。
なにしろ彼女は、野生動物の保護などに関わる獣医師で、犬についても知識は豊富だ。あるいは、生きている犬ではないのか、と考えもしたが、とにかく訪ねてみると、予想に反してとても日常的な、けれど痛ましい話であった。
「未緒は、犬と暮らすのをすごく楽しみにしていたの。でも、初めてにしては、ハードルが高すぎたわ」
彼女はまず、居間で茶を淹れてくれた。そして、おおまかな事情を話し始め