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「No.12」「変身物語」ベラスケスの《アラクネの寓話》

こんにちは!かずさです!

暑くなってきたせいか、最近家の中で蜘蛛をよく見ます。小さめの蜘蛛はよけたり出来るのですが、ハエトリグモは(そんなに大きくもないけど)ちょっとスルーです。

でも益虫でもあるので、邪険にも出来ないかわいいところがあります。
そんなわけで(?)今日は、ギリシア神話の中の蜘蛛にまつわる物語とアートを紹介します。

(前回短かった分、ちょっと長めです)

作品紹介

今回の作品は、ベラスケスの《アラクネの寓話》(織女たち)です。

1655年‐1660年 油彩画 H167㎝×W252 スペイン、プラド美術館蔵

薄暗い部屋の中で手前では、老女と若い女性が糸を紡いでいます。その周りに3人の女性がいて作業の手伝いをしているようです。また、部屋の奥の壁にはタペストリーが掛けられていて、それを見ている女性たちもいます。

パッと見ると穏やかな家の中の一場面のようにも見えますが、それだけでは無いとも思わせるところがこの絵の中にはあります。

例えば、タペストリーが掛かっている部屋の奥を見ると画面の左側の窓から外の光が入り込んでいるのが分かります。

しかし、画面の手前では、左側にあるカーテンが少し開けられているにも関わらず、そのすぐ近くにいる女性たちの顔などにあまり光が当てられていません。反対に、白い服を着た後ろ向きの若い女性は浮き上がるくらい肌が白く輝いています。

手前の女性たちの表情も見てみてください。右側の老女と女性は何やらちょっと真剣そうな顔で話しています。
白い服の女性は表情は見えませんが、2人の話などまるで興味が無いように作業に没頭しています。どうやら、この老女と白い女性が主人公のようですね。

ベラスケスとティツィアーノ

この絵にまつわる物語は、ひとまず置いといて。この作品を描いたベラスケスについて簡単に紹介します。

ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバ・イ・ベラスケス(1599-1660) 
17世紀スペインバロック期に最も活躍した宮廷画家です。20代でスペイン王フェリペ4世付の画家となり、以降生涯のほとんどを王宮のあるマドリッドで暮らしました。初期作品にはカラヴァッジョの影響が見られます。しかし、徐々に同時代の画家のルーベンスとの交流やイタリア旅行の中で古典的表現や空間表現を取り入れ、視覚的な効果を重視した絵画を発展させていきました。

世界史の教科書では、下の《ラス・メニーナス》がよく紹介されています。

《ラス・メニーナス》1656年-1657年 油彩画 H318cm×W276cm プラド美術館蔵

精緻な観察眼から描いた宮廷人の肖像画は高い評価を受けています。この作品の中心にいる王女マルガリータ・テレサの肖像画は、「美少女の肖像画」として凄く有名ですよね!

個人的印象なのですが、日本で多くの肖像画作品が知られている画家はベラスケスとホルバインくらいな気がします。(実際どうなんでしょうか?)

さて、ベラスケスと交流があったルーベンス(1577-1640)は、ティツィアーノ(1488/90-1576)などのヴェネツィア派といわれる人たちからの影響を受けた画家でした。ルーベンスがティツィアーノ作品の模写をしたものがプラド美術館などに残っています。

ルーベンス《アダムとイヴ》(ティツィアーノ作品の模写) 1628年-1629年 油彩画 H238cm×W184.5cm プラド美術館蔵

ベラスケスもこの交流の中からティツィアーノ作品の模写をしていました。また、ベラスケスの娘婿もスペインの宮廷画家だったのですが、その娘婿はベラスケスの様式を引き継ぐためにティツィアーノやルーベンスの模写を行っていたそうです。

このエピソードからも、ベラスケスの中にその2人の要素が少なからず影響していたことがよく分かります。

「アラクネの寓話」

では、今回の作品《アラクネの寓話》に戻って来てみたいと思います!

この物語の主人公はアラクネという女性です。作品の中では、白い服を着て後ろを向いている女性になります。

アラクネは自他共に認める機織り上手で、それをとても誇りに思っていました。しかし、それを鼻にかけ神々を敬う気持ちに欠けるところがあったのです。女神ミネルヴァ(アテナ)と機織りで競っても負けないと豪語していました。

(ギリシア神話でこういうところがあると、ものすっっっごいフラグなのですが…)

それを聞いて怒ったミネルヴァは、老女に化けてアラクネに注意をします。しかし、その忠告を聞かない彼女。結局、機織り勝負を女神に申し込み、織り上げたタペストリーは見事だったものの、そのテーマの失礼さからミネルヴァに蜘蛛に変えられてしまうのでした。

この話はオウィディウスの『変身物語』(メタモルポーセス)という作品の中に入っています。「神様を馬鹿にしてはダメだよ」という話なのですが、蜘蛛にするのは大分理不尽ですよね…。

そのアラクネが織ったテーマというのは、『変身物語』の中ではこのように書かれています。

「(中略)アラクネが織っているのは、まず、雄牛姿のユピテルに欺かれたエウロペの図だ。(中略)つぎに、アステリエ。彼女は身をくねらせた鷲につかまえられている。それから、レダ。これは、白鳥の翼のしたに臥している。」 
オウィディウス『変身物語』(中村善也訳)より引用

この他にも色々あるのですが、全部ユピテル(ゼウス)と浮気相手の女性たちとの場面だったのです。これをミネルヴァは神々の非行を人間の娘が責めていると見ました。(ちなみに、ミネルヴァが織っていたのは自身を称える場面です)

ベラスケスの《アラクネの寓話》では、エウロペの場面のみが描かれています。

ここで描かれているタペストリーはティツィアーノの《エウロペの掠奪》を参考にしたものです。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《エウロペの掠奪》1560年‐1562年 油彩画 H178㎝×W205㎝ アメリカ、 イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館蔵

この作品は現在アメリカにありますが、元々スペイン王フェリペ2世のために描かれたので、ベラスケスは模写を行うことが出来たのだと思われます。(ルーベンスもこの作品の模写をしています)

ティツィアーノは作品制作にあたり、神話を自身の想像力を駆使してドラマティックな場面に仕上げています。ベラスケスのものを比べて見るとほんの少しですが、「エウロペが後ろを向いている」ところが違います。

『変身物語』の中では、アラクネが織ったエウロペは「後ろに残した陸地を見やりながら…」とあるので、それに合わせたとも考えられますが…そのまま描かなかったところが少し不思議ですよね。

物語の結末は悲劇的ですが、自分が織ったタペストリーに向かって座るアラクネの自信ある背中を見ていると…
もしかしたら、ベラスケスの中にも尊敬するティツィアーノの想像力に挑戦してみたいという気持ちがあったのかもしれないと思えてきます。

今回はギリシア神話をテーマにした作品を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?物語も不思議でしたが、ベラスケスの心中も気になってしまう作品でしたよね!

この作品は、ティツィアーノだけでなくミケランジェロの作品も参考にしているのですが、今回はいつも以上に長くなってしまったので、また後の機会に…

次回は、アジアのちょっと変わったアートを紹介します(o^―^o)

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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!

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