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「No.27」「詩人と比肩する」ティツィアーノの《エウロペの掠奪》

こんにちは!かずさです!

私は朝活をたまにしているのですが、早く起きすぎると9時過ぎ頃から凄く眠くなってしまいます。朝活の意味があるのか、ないのか…

前回の投稿から少し時間が開いてしまいましたが、これからものんびりと書いていきたいなと思います。

作品紹介

今回の作品は、ティツィアーノの《エウロペの掠奪》です。

1559年-1562年 油彩画 185㎝×205㎝  イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館蔵(アメリカ)

スピード感溢れる作品です。ゼウスが変身した牡牛の背に乗せられたエウロペは、あまりの速さに服も体勢も乱れています。そんなエウロペの様子を窺うように、2人のクピドが宙を舞い、海上では魚に乗ったクピドがいます。魚に乗っている子はエウロペのように少し足をひねっていて、真似しているようで可愛いですね。

左の奥の方に見える水辺には、さっきまでエウロペと一緒にいたであろう侍女たちが慌てている様子が描かれています。

牛がどれくらいの速度で走るのか、ネットを見てみたのですが、40㎞/hまたは24㎞/hと書かれていました。結構ばらつきがあるのが気になるところですが、40キロぐらいで走られるとエウロペのようにしがみつくのもやっとかもしれません。

エウロペの物語は、古代ローマの詩人であるオウィディウスの『変身物語』の中にあります。しかしここでは、「エウロペ」という名前は登場せず、「大王アゲノルの娘」と書かれています。

エウロペが牡牛に連れられ、クレタ島に到着したことでその土地は「ヨーロッパ」と呼ばれるようになったとよく言われていますが、その話はどこに載っていたのでしょうか?(中村善也訳の『変身物語』ではすぐにエウロペの兄弟のカドモスの話になってしまうのでちょっと分かりませんでした。)

ティツィアーノ

この作品を描いた画家は、ヴェネツィア派のティツィアーノ・ヴェチェッリオ(1488/1490頃-1576)です。生没年を見てもらうと分かるように、とても長命な人物でした。

ティツィアーノの若い頃、ジョバンニ・ベッリーニ( 1430頃 -1516)という画家の下で修業していたのですが、同門にジョルジョーネ(1477頃-1510)という画家がいました。ジョルジョーネが短命だったのと比べるといかに長生きだったかが分かります。

ティツィアーノが生きていた頃の資料の中にジョルジョ・ヴァザーリの『芸術家列伝』(1550年初版)というものがあるのですが、ヴァザーリは画家本人に取材に行っています。そこでは、ティツィアーノの工房に上流階級が出入りし、ティツィアーノの服装も綺麗で立派なものであったことが書かれています。ヴェネツィアを代表する画家としてとても羽振りが良かったことが伺える証言です。

そんな時代の寵児(?)だったティツィアーノのことをよく思わない人もいたようです。ティツィアーノが残した資料の中には、注文主に送った請求書がたくさんありますが、そこからよく「ケチだ、がめつい」などと言われてしまうことがあります。(でも、画家も慈善事業ではないのだから当たり前ですよね。)当時も一部からそのように見られていたようで、ヤコポ・バッサーノの《神殿からの追放》という作品の中に「お金を必死でかき集める老人」としてティツィアーノが描かれています。

ヤコポ・バッサーノ《神殿からの追放》1580年頃 油彩画 H160.5cm×W267.5cm ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵(イギリス)

画面右端の緑色の上着を着た老人がティツィアーノをモデルとしているのではと言われています。画面の中にはこんなにたくさんの人が描かれているのに、分かりやすくお金に執着しているのはこの老人だけです。画家にとってお金とティツィアーノは強烈に結び付けられたイメージだったのかもしれません。

ハプスブルク家と画家

ティツィアーノはヴェネツィア生まれの画家なので、ヴェネツィアにいた貴族や教会の注文も勿論受けていましたが、当時のドイツとスペインを支配していたハプスブルク家とも強いつながりを持っていました。今でいうところの「国際人」のような感じだったかもしれません。

特に、神聖ローマ皇帝でもあったカール5世やその息子のスペイン王フェリペ2世にたくさんの作品を送っています。(その分、請求書も残っています笑)

スペインのプラド美術館やオーストリアの美術史美術館にはティツィアーノの作品がたくさんありますが、それはこれらの美術館のコレクションがハプスブルク家のコレクションに由来するものだからです。

今回の《エウロペの掠奪》もフェリペ2世のために制作された作品です。この作品は、フェリペ2世がフランス王女エリザベート・ド・ヴァロワとの結婚を祝う意味を持っていました。

ちなみに、日本語では「掠奪」とぼやっとした言葉にされていますが、英語では「The rape of Europe」というタイトルになっています。こんなタイトルの作品が何で祝婚画になってしまうのかと現代の感覚では思ってしまいますが、この作品以前から祝婚の意味があったようです。(話の内容は少々乱暴ですが、エウロペとゼウスの結婚ということからなのでしょう)

また、祝婚だけではなく、領土拡大、凱旋、海上覇権、子孫繁栄などたくさんの意味が込められた主題となっています。この作品の他にもティツィアーノは何作かギリシア神話主題の作品をフェリペ2世に送っていて、その連作全体を「ポエジア」(詩)と名付けています。この名前には、「画家にも詩人と同じくらいのイマジネーションがある」ということを誇示したかったからだとも言われています。

フェリペ2世はカトリックの王としても知られていますが、ギリシャ神話にも造詣が深く、教養高い人でした。そんな王であれば、自分の「詩」を理解してくれると、ティツィアーノは作品を描いていったのだと思います。

今回はティツィアーノ作品に焦点を当ててみましたが、いかがでしたでしょうか?作品の紹介というよりは、画家の紹介になってしまいましたが…。ティツィアーノは私が一番大好きな画家なので、これからもたくさん作品を取り上げていきたいと思います!

次回は、ヨーロッパのアートを紹介します(o^―^o)

画像は全てパブリック・ドメインのものを使用しています。

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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!

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