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「No.9」「日本人と中国美術」牧谿の《漁村夕照図》

こんにちは!かずさです!

昨日は涼しさが感じられるヴェネツィアの海辺の風景を取り上げてみました。夏に向けて、段々暑くなってきているので今日も水辺の景色を見て涼しさを感じたい!と思い中国の水墨画を取り上げてみようと思います!(ですが、今日の話は水辺の話というよりは日本での中国美術の見方みたいな感じです。)

作品紹介

今回の作品はイタリアから飛んで中国へ、牧谿(もっけい)の《漁村夕照図》(ぎょそんゆうしょうず)です。

中国・南宋 13世紀 紙本墨画 1幅 H33.0cm×W112.6cm 東京都、根津美術館蔵

近景(手前の景色)の水辺には漁船が小さく描き込まれていて、遠景(後ろの景色)には山が連なっています。山々は霧を纏っていて、水辺の湿った空気が表現されているようです。こんな景色の場所に行けたらきっと凄く涼しくて、癒されそうです!この作品は南宋の時代に描かれたものなのですが、実は日本の美術と深い関わりを持っています。その話の前に、まずは牧谿という人物とこの作品の中の「霧」の正体について少し考えてみたいと思います。

牧谿と中国美術の「気」?

牧谿(もっけい) 宋末から元初の頃(13世紀)  
蜀(現在の四川省)出身の禅僧で、画僧です。山水、人物、鳥獣などを題材を得意とし、水墨の濃淡を生かした大気の表現に優れていました。また、宋末に権勢を誇っていた宰相である賈似道(かじどう)の怒りをかったなどの逸話もあり、単なる画僧ではなかったとも考えられています。中国での評価は時代によって異なり、元末ではその当時の流行からあまり評価されませんでしたが、明末には一部の人々から高く評価されました。

日本には鎌倉時代から伝わり、室町時代には「和尚絵」として高く評価され、その後の日本の水墨画に大きな影響を与えました。伝統的に中国よりも日本での評価の方が高く、現在では牧谿(または伝牧谿とされる)作品は日本の美術館に数多く所蔵されています。

上の作品紹介でちょっと触れた「山がまとった霧」が、牧谿作品の特徴的な「大気の表現」であり、中国美術で重要な「気の表現」です。「気」という言葉は太極拳などの中国拳法がテレビで紹介される時に聞いたことがあるかもしれませんが、《漁村夕照図》に見られる「気」とは何なのでしょうか?

本を少しだけかじったような私が考えるのはとても難しいのですが、ある種の空気の表現だとされています。しかし、この空気は単なる私たちの周りにある酸素と窒素と二酸化炭素が混ざったものではなく、古代中国から考えられてきた様々なものを形作る「もと」のようなものだそうです。この「もと」は物質だけではなく、精神も形作っているために、人間や神を表現する時にもこの気の表現が見られます。

つまり、《漁村夕照図》の大気は単に山の周辺の水蒸気を描いたというよりは、山が持っている神秘性、精神の表れであり、もっと言ってしまえば霧は山自体だとも考えられるかもしれません。この中国美術の気の表現はとても面白いので、後で取り上げてみたいと思います。

足利家と唐物

さて、現在日本で人気がある画家といえば誰でしょうか?ミュシャや印象派?またはバスキアでしょうか?室町時代の日本だったら牧谿の名前が挙がると思います。

室町時代、足利義満(1358-1408)によって金閣寺が建てられましたが、その場所である北山山荘に「会所」と呼ばれる二階建ての建物が建っていました。会所とは、接客や歌会、茶会が行われた将軍のイベントスペースです。ここでは猿楽など新しい芸能も行われました。

足利将軍家の会所の美術を任されていたのが「同朋衆」という人々で、能で有名な観阿弥・世阿弥親子も同朋衆です。義満の時代が最初であるとされ、今で言うとキュレーターかインテリアコーディネーターみたいな人です。室町時代では中国から伝わった美術品を「唐物」として高く評価していたので、当然会所にもたくさんの唐物が並べられました。

曜変天目茶碗も唐物です。

また、茶室というと狭い部屋の中に掛軸が1つ掛かっているようなイメージが一般的ですが、これは16世紀末の利休の頃からのスタイルです。義満の時代の北山の会所はそれとは異なり、部屋の端から端まで掛軸などの美術品を飾り、自分が持っている品を客人に見せるというスタイルでした。そのため、(少々強引ですが)作品を一部切り取り飾りやすくするという方法も取られたようです。今だったら確実にニュースになりますよね…笑

今回の《漁村夕照図》にもその跡が見られます。元々、この作品は中国の江南地方の様子を描いた《瀟湘八景図》の画巻の一部だったのですが、義満の時代に飾りやすいようにトリミングされたようです。下の画像のように、義満の所有を示す「道有」印も残っています。

完全な形で牧谿の《瀟湘八景図》を見られないのは少し残念ですが、この印も日本人と中国美術の付き合い方の1つを見るようで面白いですよね!

今回は日本人と中国美術という面から、作品を考えてみましたがいかがでしたでしょうか?「気」の話と合わさってちょっと中途半端な感じにもなってしまいましたが、中国美術を知るきっかけになってもらえたら嬉しいです!《漁村夕照図》がある東京の根津美術館はカフェも素敵な場所なので、ぜひ訪れてみてください!

次回は、ヨーロッパのアートについて紹介します(o^―^o)

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今回参考にした本、おすすめの本をまとめてみました!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!

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