平和への祈り
「私はこの街が真っ赤な炎で包まれたのを、この目で見たんです。あんなに恐いものはありませんでした。」
私が小学生の頃、少数だったが戦争体験のある先生がまだいた。
今思うと、貴重な語り部だ。
そのうちの先生の1人が、全校集会か何かで語ってくれたお話の一部が冒頭の言葉だ。
実際に戦争を経験した人の話だけに迫力があったからこそ、今でも憶えているのかも知れない。
他の先生が「あの先生はこの学校に一番長くいて、戦争のこともよくご存じなんだよ。」と言ってたことがあった。
小学校では主のような存在だったのかも知れない。
その女性の先生は、1つ下の学年を受け持っており、直接教わったことはなかった。
当時はすごく年配の先生に見えたが、今思えば50代後半だったと思われる。
私が小学校在学中に、先生は定年で退職された。
低学年の頃に一度だけ、校内で迷った私はたまたま通りかかったその先生に『印刷室』の場所を尋ねたことがあった。
とても分かりやすく、親切に教えて下さった。
あの時、私はきちんとお礼を言っただろうか?
子どもの頃、時々ではあったが、終戦の時期でなくとも戦争のお話を聞く機会があった。主に祖母から聞くことが多かったが、私の故郷の街が燃えるのを実際に見たというお話については、あの先生から聞いたのが初めてだった。
数人の語り部が、平和への祈りを込めて異口同音に語った言葉。
「戦争はあなたたちにとってはおとぎ話かも知れないけれど、本当にあったことなのよ。」
戦後79年の今年。
先生を含む私の周りにいた戦争体験者たちのこの言葉は、今も深く胸に突き刺さっている。