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子どもに教えられたこと。ブロッコリーとベーコンのスープを世界中の誰よりも作りたいのに。

子どもと何かを約束をすると、ふと不安になる。

「小学校の制服のチャックとホックを開ける練習をしたい」と、ずっとしぶっていた上の息子が急に言って私が喜んだ次の日、息子は入院した。

入学式を過ぎて退院してから約束を果たせなかったと泣かれてしまって、「⚪︎⚪︎(息子の名前)のせいじゃないよ」「⚪︎⚪︎が元気でいることがなによりだよ」と背中をさすって、私も一緒に泣いた。

夏休みのある日、お昼を食べ終わると息子が言った。

「今夜はブロッコリーとベーコンのスープがいいな」

それは息子の好物だった。
オーブンで焼くだけに整っているグラタンもあるし、ちょうどいい。

しかし、そう息子に言われた時、つい2日前に作ったばかりじゃん、と失笑しつつ、もやもやと不安になった。

約束をすると果たせないのが怖い。
ホックとチャックの練習ができなかったと泣く息子を思い出す。

実は私は朝から風邪っぽく身体が辛かった。
熱はさほど無いけど上がりそうだった。

しかも、コンソメをお昼に冷凍ロールキャベツを煮るのに使ってしまい、コンソメを買いに行くか、おでんの素でそれっぽく作るかしなといけなかった。

夫は台風の到来で、朝から盛大に寝転がって「身体がしんどい」と言っている。これでは子ども2人置いてコンソメを買いにいけない。おでんの素で失敗するのも怖い。ブロッコリーもベーコンも、2日前の残りがあるのに…。

ベーコンのスープなんて、いつでも朝飯前で作れると思っていた。

まさか、本当に作れなくるとはその時思わなかった。擦り切れるようなダサい日常がひたすら恋しい。

お昼をなんとか片付けたが、だるい。
寒気もする気がする。

検温すると微熱があり、子どもたちと遊ぶのもしんどかったのでソファで寝転んで相手をした。下の子にプラレールに呼ばれれば、床に寝そべって相手をした。

おやつの時間に2人のおやつを用意した時点で「ごめん、今日はスープ作れないかも」と息子に伝えた。なんで?と聞かれて「熱があるんだよ」と答えた。

不甲斐なかった。これまで、何度も家族の病気のピンチをたった1人で繋いできたのに。よりによって、息子に好物をリクエストされた日に体調を崩すなんて。

おやつのおかわりを出したりテーブルを拭いたり下の子を着替えさせたりしたら限界に達して夫を呼んだ。そして、日曜なので休日診療のクリニックを探した。近くの2軒はもう、予約枠がいっぱいだと言うので隣の区で受け入れてくれるところにタクシーで行くことにした。

頭半分ずっとスープのことばかり考えていた。
頬を涙がつたう。
スープに泣く日が来るなんて。

時間を計算するとさすがにスープ作りはアウトだ。
夫に子どもたちのごはんをお願いした。
冷蔵庫にごはんがあり、かろうじてオーブンにかけたグラタンがあるけど、スープがないから、「あがり」にならなかった。夫は釜飯のデリバリーを注文していた。

タクシーが来て家を出る時、息子に言った。
「ブロッコリーのスープが作れなくてごめん」

息子の言葉にならない微妙な面持ちを見ながら、こんなにも、ブロッコリーのスープを作りたい瞬間は人生にそうそうないだろうなと思った。

大きくなれば「友達と食べてくる」なんて言うかもしれないし、私はさして料理が上手ではないから好物の家庭料理が根付くかもわからない。

どんな用事や仕事より、ブロッコリーのスープが今は大事なんだ!今じゃなきゃだめなんだ!そう胸の中で叫んだ。

結局、インフルエンザもコロナも陰性でカロナールをもらって帰り道のスーパーコンソメを買った。

絶対、ブロッコリーとベーコンのスープを作るんだ!

何かをしたいと思う気持ちがこんなにも力になるとは。しなければ、でなく、したい。この違いは大きい。家事なんて全然好きじゃないのに、1番やりたいことになってしまった。

私にも、チャックとホックの練習をしそびれて泣いた息子にも、伝え続けたい。

また新しい自分を始めればいいんだよ。

その夜私はブロッコリーとベーコンのスープを作って冷蔵庫に忍ばせた。

息子の食べたい気持ちが残っていますように、約束を果たせますようにと祈りながら。

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