みかんの恋は愛のうた 1.終わった恋(5)

 予約していた居酒屋に着いた。店に入ると2階の奥にある座敷に通される。すでに15人程の同級生達が集まっていた。
 「それじゃあ、そろそろ始めたいと思うので席に座って下さい」
 幹事であるツチコーが声を掛ける。座敷には横並びに長テーブルが5つ用意してあり、僕は座敷に上がると、一番左のテーブルに座ることにした。
 そして、君はというと、僕が座ったテーブルのすぐ横のテーブルに座ってくれたおかげで、僕は背中合わせになったのだった。振り向けばいつでも君と話せる、こんなに近い席に座れたのはラッキーだ。
 そして、僕の隣にはトツが座った。トツに会うのは久し振りでもあった。確か卒業してからはトツの担任の先生の葬式以来だった。
 「元気にしてた?」
 僕は久し振りに会うトツに話しかけた。
 「まぁ、相変わらずって感じだけど元気だったよ。そういえば、今、何してんの?」
 「今は飲食関係の仕事してる。トツは?」
 「最近、結婚したんだよね。仕事はさ、営業で大変なんだけど、それなりにやりがいもあるし、ボチボチかな」
 トツが結婚していたことには驚いたが、僕らももうこの歳だから結婚していてもおかしくはないと改めてそう思った。
 「そっか。トツも結婚したんだ。おめでとう。それにしても、こうして話すのって懐かしくなるよね。他の皆んなは何してんの?」
 「ケンチは今日、用事があって来れなかったみたい。ヒデ君は入院中で、イチローは向こうの奥の席に、ついさっき来たみたいよ」
「ケンチにもヒデ君にも会いたかったな。イチローとは、あとで話してみるかな」
 ケンチは今、何しているのか分からなかったが、ヒデ君はDJとして音楽活動をしているらしい。僕の中でヒデ君はきっと、野球選手になるものだとばかり思っていた。
 小学校の頃からずっと野球一筋で本当に上手かった。中学の時も高校に行った時も強豪校で野球を続けてきたからこそ、僕はそう思っていたのかもしれない。
 けれど、ヒデ君が音楽活動いてもおかしくはないとも僕は思っていた。それは、僕らが20歳を過ぎた頃に、だいがかになっていたヒデ君と何度か会うことがあって、遊ぶことも多かった。
 ヒデ君は大学でも野球を続けていたが、部屋に遊びに行くと、ターンテーブルを買っていた。
 昔から野球も好きだったが、同じくらい音楽も好きだったのがヒデ君だった。
 「そういえば、俺がトツの家に遊びに行った時のこと、覚えてる?」
 それは、僕が初めてトツの家に行った時のことで、そこでトツの秘密を知ることになったのだった。

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