みかんの恋は愛のうた   1.終わった恋(1)

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   今日という日を心から楽しみにしていた。しかし、自分のような人間が会いに行ってもいいのか悩みもした。
   1週間前、中学からの友人から同窓会への誘いの連絡があってから、少し気持ちが動揺していたと思う。懐かしい友人に久し振りに会えるのは楽しみだったが、同窓会と耳にした時、頭を過るのはやっぱり君のことだった。
   来るのかも分からない君に、もしかしたら会えるのかもしれないという期待が僕の胸を躍らせる。
   そして今日、僕は気持ちが先走っていたのもあってか待ち合わせ場所に早く着いてしまった。初めてのデートに気合いを入れ過ぎた人のように、初々しい自分の行動に恥ずかしくもなる。
   僕は暫く待ち合わせ場所にしていた駅で待っていると、沢山の人がここを待ち合わせ場所にしていることに気付く。誰かを待っているであろう人達を観察していると、一人の女性に目が止まり、心臓が一瞬止まるような衝撃を感じ、釘付けにさせられた。胸の高鳴りは止まず、寧ろ、どんどん大きくなる。同時に僕は嬉しかった。あの頃と変わらず可愛くて、そしてあの頃よりも綺麗な女性が目の前にいる。
   その女性は間違いなく僕が大好きだった君だった。しかし、僕には声を掛ける程の勇気など持ち合わせていない。というより正確に言えば、君にだけはどうしても上手く話せなかったからだ。
   他の女性に対してはそんなこともなく声も掛けられたし、当時、好きで付き合っていた筈の彼女にも勿論、こんなにも緊張することはなかった。付き合った彼女のことは好きになって付き合っていた筈だった。でも、本当はいつも心の奥に君がいて、僕は時々、身勝手な選択をすることも多々あったのだ。
   それは今の彼女と君をいつもどこかで比べてしまう身勝手な選択だった。彼女のことは好きだったし、その気持ちに嘘はない。上手く説明できないが、ただのトキメクだけの恋が彼女だったんだと思う。
   でも、君への想いはもっと深く心を奪われる恋だった。言葉で表現できないが、僕は本当に君が大好きだったんだ。

   待ち合わせの時間が来るまでの間、何度も気になってしまい君を見ていると、同窓会に誘ってくれた友人の土山康一の姿が見えた。
   「 久し振り。元気だった?」
   土山康一は笑顔で声を掛けてきた。久し振りに会う土山康一とは、学生の頃の仲のいい友人の一人で数年に一度、飯に行くことはあった。
   「 おう、まぁ元気だったよ。ツチコーは元気にしてたのかよ 」
   ツチコーは土山康一のあだ名で、皆んなからもそう呼ばれていた。
   「 俺も変わらずって感じ 」
   それからは、いくつか他愛ない会話をした後、ツチコーと一緒に駅にいた幾つかの待ち合わせ人に声を掛けていたが、僕には名前を言わなければ気付けない人もいた。ツチコーは僕とは違って定期的に会ったりしていたから分かるようだ。
   久し振りに会う同級生達は、面影を残していてすぐに気付ける人もいれば、全く気付けない人もいたりと本当に様々で、その変貌ぶりには正直、驚かされた。
   そんな僕はというと、周囲の反応はいい方で捉えてくれているようで、正直、安心はしたが、昔のことが脳裏を過った。
   あれは高校に入学した当時、僕の性格も知らないクラスメイト達は、容姿だけで判断する女子グループがいた。容姿だけなら僕は人気があったようで、当時はそれだけで近付いてくる女性もいたが、僕自身が口下手で少し人見知りもあった。そのせいもあって長くは続かなかったが、今ならあの頃に比べると成長はしていると思う。

   君から見た僕への反応はとても見れなくて分からなかったが、目があった時は笑ってくれたように見えた。
   そして、僕らは予約していた居酒屋に向かうことにした。その向かう途中、僕は当時のことを思い返していた。そう、あの頃は僕にとって、本当に大切な日々でかけがえのないものだった。だからこそ、今になっても昨日のことのように鮮明に思い出すことができたのだった。

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