みかんの恋は愛のうた   1.終わった恋(3)

 翌日、学校に登校した僕は昨日の彼女のことを探した。しかし、名前も分からなければ何処のクラスなのかも分からない。ただ、僕が通うこの中学校は一学年に3クラスしかなかったので、探すといっても苦労はしないのだ。更に、まず僕がいるクラスには彼女がいないことは確定していたから、残りは2クラスだけだった。
 「おはよう」
 聞き慣れた声が後ろから僕に声を掛けてくる。
「おう、おはよう」
 振り向いた僕はすぐに笑顔で答える。声を掛けてきたのは、1組の松浦一郎だ。
「今日も暑くね?そういえばヒデ君いた?」
 ヒデ君とは高吉秀暢といい、イチローと同じく1組で、僕にとって二人は大親友でもある。そして、この大親友には他にも仲間がいて、頭が良くていつもクールなトツこと吉村聡純。オタク気質のケンチこと吉村健太郎。
 僕にとって大切な大親友で、僕らは常に一緒に過ごしていた。
 「いや、まだ見てないけど。もう来るんじゃない?」
 「そうかもね。それとさ、今日、学校終わったらヒデ君の家に行こうや」
 僕らはいつも学校が終わると、大体の日をヒデ君の家に行くことがルーティン化していたのだった。
 そんな提案をしていると、その会話が聞こえていたのか、ヒデ君が答えながら近づいてきた。
 「お前らが来たら、家ん中メチャクチャなるし、嫌なんだけど」
 そんな風に言われてしまうのには明らかに僕らに原因があるからだ。人の家(ヒデ君の家)と分かっていながらも遠慮なく荒らすだけじゃなく、色々な所に入っては隠れてみたり、食料なんかも勝手に漁ったりもして、帰る頃には悲惨な状態になってしまうからだった。
 それでも、ヒデ君は不満もありながらも、本当に優しいから、この日も結局、渋々ではあったが放課後に行くことに決まってしまうのだった。

 ヒデ君とイチローとは一度別れ、一旦、自分の教室に戻ることにした。教室に戻ってからは朝のホームルームをいつものように受けた後、一限目の授業に入った。そして、その授業も終えた後の休み時間には、ケンチと一緒にまた1組のクラスに向かうのだった。
 イチローとヒデ君、そしてトツに会いに行くためでもあったが、この日の僕には昨日の彼女を探す目的があったからだ。
 1組の教室に入ると、いつもならイチロー達が集まる席に直行するのだが、今日だけはゆっくりと教室を見回す。普段は周囲を見てなかったせいか、幾つかのグループがあることに気付かされた。
 その中の一つのグループが、とにかく明るく元気に話している。一番目立つ女子グループだ。
 だが、すぐにその瞬間、身体に電気が走ったような衝撃を受けた。その中のグループに昨日の彼女がいたのだ。
 色白の肌に整った顔。アイドルやモデルのように目は大きくて綺麗で透き通っている。
 本当に可愛くて、僕の中のドキドキが止まらない。
 「あの子、誰?」
 僕は近くにいたトツに咄嗟に聞いてしまった。そして、一瞬、しまったとも思った。
 「あの人は橋口さん。確か橋口一美って名前だったと思うけど」
 その会話を聞いていたイチローが、ニヤニヤしながら冷やかしたそうな顔で近づいてくる。だが僕は全力で気付かれないようにと、顔には出さずに、あくまでもポーカーフェイスで答える。
 「昨日、女子バスケ部と試合やってさ、そん時にいたんだよね。1年も何人かバスケ部に入ったんだって思ってさ」
 素っ気ない振りをして答えたつもりだった。それでも、イチローはニヤニヤしながら近づいてくる。僕はいつものじゃれ合いの一環のように、イチローの横っ腹にパンチを入れてやることにした。
 そこからは、いつも通りの日常に戻り、僕とイチローのじゃれ合いに巻き込まれるケンチや、ただその光景を見て笑うヒデ君とトツ。僕らは本当に仲が良かった。
 そして、休み時間の終わりのチャイムが鳴り、僕とケンチは自分の教室へ走って戻ったのだった。

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