稲村恵子

1948年生まれ。37歳の時、はじめて書いた小説で地方紙の懸賞小説に入選し、商業誌に1…

稲村恵子

1948年生まれ。37歳の時、はじめて書いた小説で地方紙の懸賞小説に入選し、商業誌に10作 程度掲載されるが、何も思い浮かばなくなる。その後、ゴーストライターの傍ら某大学のゼミで文章を教えること25 年。現在、自宅で勉強会をもち、自費出版会社の季刊冊子に「物語の作り方」を連載中。

マガジン

  • 長篇小説

    「コーベ・イン・ブルー」(全7話)神戸港を舞台にしたクォーターの青年の愛と葛藤の物語。船会社の代理店から委託業務を引き受ける主人公が警察から殺人を疑われる過程で、ヤクザと渡し合い、自らも殺人に手を染める。 「南ユダ王国の滅亡」(全9話)震災にあった孤児の少女が犬とともに紀元前のイスラエルにタイムスリップし、ユダ王国の滅亡に遭遇する。 「ボーイ・ミーツ・ボーイ」(全8話)男子高の体育科に属する、幼馴染の少年二人が、殺人事件に遭遇し、二人の関係が少しずつ変化していく。

記事一覧

物語の作り方 No.11

 第5回 誰をどれだけ書くか。 1)主人公とその他の人物の違いについて。  プロットのところで、おおまかな説明をしましたが、今回はより詳しく解説したいと思います…

稲村恵子
9時間前
7

物語の作り方 No.10

 物語において、多用される三人称にようやく突入しました。自分史であろうとなかろうと、一度は、ひと様の視点で書いてみたい。そう思わない書き手はいない。自分以外のも…

稲村恵子
1日前
13

物語の作り方 No.9

第4回  誰の目で書くか   1)一人称と三人称の違い  物語を書くと決めて頭を悩ますことの一つとして、一人称で書くべきか、三人称で書くべきかという問題に突き当…

稲村恵子
5日前
18

物語の作り方 No.8

 第3回 一行目をどう書くか。  作家でもない私があれこれ役に立たないことを述べる前に、ヘミングウェイの言葉を下記に引用しておきます。この文章を、どこで読んで書…

稲村恵子
9日前
24

物語の作り方 No.7

3)構成表と人物表をつくる。  またまた面倒臭いことを言い出しますが、この過程を一度、経験するのとしないのとでは、のちのち大きく違ってくると、根拠もなく信じてい…

稲村恵子
12日前
29

物語の作り方 No.6           

第2回 物語をどう組み立てるか。  なんでもいいから書きたい。書いてやろうと思い立ったとき、私もふくめて多くの人は無意識にストーリー(話の筋)を考えます。ところ…

稲村恵子
2週間前
26

物語の作り方 No.5

7)テーマ(物語の主軸となる思想)の発見。  前回、思い起こした事柄(エピソード)を時系列に番号をふることができましか? これまでの作業で、自分が何を物語ろうと…

稲村恵子
2週間前
30

物語の作り方 No.4

5)キーワードと関連づけて、短い物語(エピード)をつくる。  まずはじめに前回、例にあげた「裏切り」というキーワードと関連させて、短いエピソードをつくった例文を…

稲村恵子
3週間前
25

物語の作り方 No.3

3)記憶の掘り起こし  私たちの思考は観察ののちに、推察し、洞察する経緯をたどると言われています。自分史にしろ、小説にしろ、独りよがりの主観をさけ、第三者的に記…

稲村恵子
3週間前
26

物語の作り方 No.2

2) モチーフ(題材)について  最初に、百均で、A4サイズのノートを買うことをお薦めします。 ①主人公はだれか。   長文を執筆するとき、書くにあたって、まず…

稲村恵子
4週間前
39

物語の作り方 No.1

 最初にお断わりしておきますが、いまから私が投稿する内容の文章は、はじめて小説を書こうとしておられる方の手引書です。 第一回 何を書くか 1)はじめての物語  …

稲村恵子
1か月前
47

修羅のなみだ【中篇小説】

離婚後、末期がんを患い、母親の自死と不運がつづき、自棄になり、マッチングアプリで知り合った肥満熟女と性的関係をもとうとするが、機能しない。絶望するが、熟女と同居…

稲村恵子
1か月前
16

【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.35〈タカラヅカ〉

 雪組「ベルサイユのばら」。7月17日午後の公演を観劇。  とうとうサキちゃん(彩風咲奈様)も退団なのか。童顔なので、かわいらしい男役さんだと思って見ていました…

稲村恵子
1か月前
27

【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.34

 ご老公は失敗を繰り返す。なんでこうなるのか。ワカラン。「ボーイ・ミーツ・ミーツ」を、まとめて、マガジンにしておこうとすると、なぜか、NO.1を消してしまい、復…

稲村恵子
1か月前
14

ボーイ・ミーツ・ボーイ(1/8)

  1 星と空とはやっぱり星と空                  レールモントフ詩集より  綿菓子に似た雲が二つ、黄砂の入り交じった空に浮かんでいる。  おれ―…

稲村恵子
1か月前
16

胞衣(えな) 【中篇小説】 

 娘の手を引き、精神病院への長い道程を歩いている。あの人に会うために――。   1  古都に不似合いな紙つぶてのような雪が降った日の朝、私はR病院の内科病棟には…

稲村恵子
1か月前
16

物語の作り方 No.11

 第5回 誰をどれだけ書くか。 1)主人公とその他の人物の違いについて。  プロットのところで、おおまかな説明をしましたが、今回はより詳しく解説したいと思います。視点の対象となる人物の中で、その外形と行動と心理がもっとも詳細に表現されている人物が主人公です。これを「円球的人物」と言います。  自分自身におきかえて考えてみてください。あなたの心の動きをもっともよく知る人物は誰なのか?  あなたの心理状態をもれなく知る人物はあなた自身をおいて他にない。他人の心理は想像し、

物語の作り方 No.10

 物語において、多用される三人称にようやく突入しました。自分史であろうとなかろうと、一度は、ひと様の視点で書いてみたい。そう思わない書き手はいない。自分以外のもう一人の自分になってファンタジーや夢を綴りたいという願望は、人類共通のものではないでしょうか。 3)三人称とは、父、母、彼、彼女、あるいは、にんじん、おかみはんなど他者をさす呼び方で書かれた作品。  ざっくり言うとこういうことになりますが、注意すべき点は、視点がズレないようにすることなのですが、これが思いの他むずかし

物語の作り方 No.9

第4回  誰の目で書くか   1)一人称と三人称の違い  物語を書くと決めて頭を悩ますことの一つとして、一人称で書くべきか、三人称で書くべきかという問題に突き当たります。心にある思いを文章という道具で表現しようと思えば、どちらかを選択しなくてはならない。これは一見、技術的な課題だと解釈されがちですが、実際は、自分自身の心の揺れがそうさせている場合がほとんどです。ありのままの「個人」でいいのか、虚実を交えた「第三者」であるべきなのか――と迷う。  表現したい自我と、他者の

物語の作り方 No.8

 第3回 一行目をどう書くか。  作家でもない私があれこれ役に立たないことを述べる前に、ヘミングウェイの言葉を下記に引用しておきます。この文章を、どこで読んで書き写したのか、遠い昔のことなので覚えていないのですが、アーネスト・ヘミングウェイであることは間違いありません。  簡潔な文章を使え。書き出しの一節は、とくに短くせよ。力強い言葉を使え。積極的に書け。消極的になるな。  古くなった俗語は使うな。俗語は新鮮でなければならない。  形容詞は使うな。とくに大げさな形容詞は使

物語の作り方 No.7

3)構成表と人物表をつくる。  またまた面倒臭いことを言い出しますが、この過程を一度、経験するのとしないのとでは、のちのち大きく違ってくると、根拠もなく信じています。  A4の用紙を二枚用意します。  それぞれにの用紙に構成表、人物表と書きます。             構成表  タイトル 頭に叩きこむために、キーワードを書いておきます。  テーマ  読み手に、訴えたい文章を書いておく。  ストーリー 時代、場所、主人公を明記したおおまかな粗筋  プロット  

物語の作り方 No.6           

第2回 物語をどう組み立てるか。  なんでもいいから書きたい。書いてやろうと思い立ったとき、私もふくめて多くの人は無意識にストーリー(話の筋)を考えます。ところが、いざ、机にむかうと、常日頃、胸の奥にある名状しがたい感情を物語る作業は思いの外、難儀だと思い知ります。  それでもどうにかこうにか、ストーリーらしきものを思いついても、原稿用紙の枚数に換算すると、十枚ほど書いたところで思考停止状態に陥る。  言葉を連ねれば連ねるほど、自分の気持ちとズレていく――。  このような経

物語の作り方 No.5

7)テーマ(物語の主軸となる思想)の発見。  前回、思い起こした事柄(エピソード)を時系列に番号をふることができましか? これまでの作業で、自分が何を物語ろうとしているのか、漠然と見えてきましたか?  ワカランと答える方がほとんどであっても当然だと思います。  メモを積み重ねた状態では、プロット(あらすじ)と呼べるものを書き上げたわけでもないし、ましてや自分がこれから綴りたい物語を通して何を訴えたいかもさだかではないと思います。  何を訴えたいか。  読み手に伝えたいメ

物語の作り方 No.4

5)キーワードと関連づけて、短い物語(エピード)をつくる。  まずはじめに前回、例にあげた「裏切り」というキーワードと関連させて、短いエピソードをつくった例文を下記にあげておきます。最初にイメージした言葉にまつわる記憶を喚起するためです。キーワードの「裏切り」とそこから紡ぎ出した言葉「孤立」をつなぐ情景を思い出し、それを、ノートの余白に書き止めています。  面倒ですが、物語の素材(モチーフ)となるデータを集めるつもりなって、自身のキーワードとつながる言葉で試してみてください

物語の作り方 No.3

3)記憶の掘り起こし  私たちの思考は観察ののちに、推察し、洞察する経緯をたどると言われています。自分史にしろ、小説にしろ、独りよがりの主観をさけ、第三者的に記憶を「観察」することからはじめましょう。  体験をもとにして書く場合、自分自身を題材とするのであれば、観察など必要ないと思いがちです。しかし、過去のあなたは、現在のあなたと、まず容姿が異なります。置かれている境遇も変化しています。接する人たちも違っているはずです。  現在の自分と過去の自分とは、別の存在であると仮

物語の作り方 No.2

2) モチーフ(題材)について  最初に、百均で、A4サイズのノートを買うことをお薦めします。 ①主人公はだれか。   長文を執筆するとき、書くにあたって、まず、考えなくてはならないのは、どんな人物を主人公にするかということです。自分史の場合は、書き手本人が主人公です。小説の場合は、不特定多数のだれでもいいのですが、はじめて書く小説にかぎっては、自分自身を主人公と考えてください。 ②自分しか知り得ないことは何か。  時間をかけて考えます。感動的な事件や、忘れがたい体

物語の作り方 No.1

 最初にお断わりしておきますが、いまから私が投稿する内容の文章は、はじめて小説を書こうとしておられる方の手引書です。 第一回 何を書くか 1)はじめての物語  いまから半年かかって30枚程度の短篇小説、あるいは自分史を書くわけですが、はかどらないと思います。生まれてからずっと日本語を話し、綴ってきたにもかかわらず、文章を書くことは至難のワザです。日頃、目にする読み物では、言葉はその目的を容易に果たしています。自分には才能がないと、感じる人も少なくないと思います。  なぜ

修羅のなみだ【中篇小説】

離婚後、末期がんを患い、母親の自死と不運がつづき、自棄になり、マッチングアプリで知り合った肥満熟女と性的関係をもとうとするが、機能しない。絶望するが、熟女と同居することに。こしかた日々を悔やみ、せめて最期くらいは平安を得たいと願っている中年男の物語。        1 晩夏のひまわり  女は一糸まとわぬ恰好で片膝を立て、サチオのベッドを占領している。この女を花にたとえるなら、春の訪れを告げるタンポポではなく、夏の盛りを過ぎてもれんれんと咲く晩夏のひまわり。  色褪せた花び

【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.35〈タカラヅカ〉

 雪組「ベルサイユのばら」。7月17日午後の公演を観劇。  とうとうサキちゃん(彩風咲奈様)も退団なのか。童顔なので、かわいらしい男役さんだと思って見ていました。身長が高く、手足が長くて、ダンスが上手なんだと思っていたら、いつの間にか、凛凛しい男役さんに成長していました。「るろうに剣心」で、斎藤一を演じたとき、エプロンステージで、刀を振るうサキちゃんを見て、「いつのまに」と驚きました。  順調に見えたトップまでの道程でしたがコロナ禍もあり、トップとして思う存分、舞台に立てな

【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.34

 ご老公は失敗を繰り返す。なんでこうなるのか。ワカラン。「ボーイ・ミーツ・ミーツ」を、まとめて、マガジンにしておこうとすると、なぜか、NO.1を消してしまい、復元して再投稿することに。「南ユダ王国滅亡」のときも同じようにマガジンにしようとした。前回はNO.2を消して再投稿した。そうなると、一番、頭にきてしまう。スキを押してくださった方に心より、おわび申し上げます。この小説は新作ではありません。半年前に投稿されたものです。NO.2~NO.8は下のほうに埋まっています。  自分

ボーイ・ミーツ・ボーイ(1/8)

  1 星と空とはやっぱり星と空                  レールモントフ詩集より  綿菓子に似た雲が二つ、黄砂の入り交じった空に浮かんでいる。  おれ――南川俊夫は、駅のホームに立つと、改札口につづく階段を振り返る。 (ジュンのヤツ、ナニしてんねん!)  褐色の電車が左手からすべりこんでくる。  8時20分発だ。この電車をのがすと確実に遅刻する。 (見捨てていくぞぉ)  車両に乗りこみ、扉が閉まる瞬間、幼なじみの菅谷純一が、うしろの車両に駆けこんできた。  おれは

胞衣(えな) 【中篇小説】 

 娘の手を引き、精神病院への長い道程を歩いている。あの人に会うために――。   1  古都に不似合いな紙つぶてのような雪が降った日の朝、私はR病院の内科病棟にはじめて足を踏み入れた。つい昨日まで研修医だった私は指導教官から不手際を罵倒されつづけ、脳細胞は奇跡でも起きないかぎり活性化しない状態になっていた。  それでも未知の分野に対する意気込みだけは心身に満ちていた。しかし若いナースを従えて病室に入ると、病院特有の消毒液の臭いにまじって何か得体のしれないものが腐食したよう