稲村恵子

妄想と現実の境界があいまいな物語をつつ”りたいと思って40年、いまだ夢醒めやらぬツ”カ…

稲村恵子

妄想と現実の境界があいまいな物語をつつ”りたいと思って40年、いまだ夢醒めやらぬツ”カオタです。イチ推しは、宙組のキキちゃん。宙組さんを応援しています。

最近の記事

【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.22

「こんどのは、エロ小説やから、載せるときに読まんといてな」と、晩ゴハンの支度をしている最中にご老公に告げると、顔色が変わる。 「そんなもん、なんで書くねん! 載せへんからな」  ご老公は常に、悪代官の補助係なので、次の料理に必要なフライパンをけんめいに洗っている最中。フライパンひとつでできる料理を二種類つくるとき、油で汚れたフライパンを洗い直さなければならない。洗い物は、ご老公の必須作業。  私は大根と厚揚げとシイタケをだし汁にほおりこみながら、 「前の回もええかげん、エ

    • 【小説】コーベ・イン・ブルー No.5

          9  冬の雨が軒先の路地を濡らす。閑古鳥の鳴くのカウンターの内と外。ノルマをこなせない営業マンの気分。マントバーニのムード・ミュージックが狭い店内に静かに流れる。 「こないだ手相、観てもろてン」 「何ンの寝言や」  英美子と海人は馴れ合い話にふける。 「タマシイが若い! 言うてもろてン」 「脳ミソの聞き間違いやろ」  紺地に波しぶきを散らした着物姿の英美子は、とろけるような顔でグラスを重ねる。 「五十過ぎても、ふたりは狂うてくれる、言わはってン」 「借金とりがか?」

      • 【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.21

         朝の三時に目が覚めて、ご老公が投稿してくれた小説をスマホで読み返すと、誤字脱字だらけ。  書き上がったときに三度も読み返したのに、なんでやねん。  もっともショックを受けたまちがいは、「美青年」と書くべきところが、「美声年」となっていたことです。ワープロで打つと、「美青年」は、「美声年」と変換されると、このトシまで知らなんだとは。  つらつら思い返してみるに、美少年は書いても、成人の年齢に達したイケメンを、これまで書いてこなかったことが、誤りの原因だったと気づきました。

        • 【小説】コーベ・イン・ブルー No.4

              8  柳沼深雪は私服に着替えると、服部海人の供述した店の住所にむかう。もしも、服部海人と出くわしても見破られない自信がある。小柄だし、化粧気はないし、目立つ言動は服部海人のいる前で極力しないようにした。  ロングヘアのかつらを被り、濃い化粧をし、黒のストッキングに高いヒールを履き、毛皮のハーフコート。  この出で立ちになれば、別人になる。  人間とは不思議なもので、外見が変われば、内面も変化する。  しらずしらずのうちに浮ついた気分になる自分自身にたじろぐ。  

        【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.22

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.20

           ひと月ほど前から、腰痛に苦しむ福島県出身のご老公は、神戸在住の悪代官のババァの顔さえ見れば、黄門サマが印篭を見せつけるがごとく、「アンタのやかましい声が、骨に沁みる」と、悪代官の声に災いが宿っているかのように脅す。「アタタタ……」という悲痛な呻き声も忘れない。  しかし、スケさん、カクさんのいないご老公は、一人で三ノ宮の「安心クリニック」へ行き、痛み止めのブロック注射を打ってもらい、すこしラクになった言ったのも、つかのま、スーパーで重いものを持ち、ふたたび元の木阿弥に。安心

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.20

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.3

              7  港湾専用地区・ライナーバース・PL13。  海にせり出した埠頭の中ほどに建つ、上屋(貨物用倉庫)の二階にあるオフィスからは、ポートピア・ランドの大観覧車が視野に入る。  海人は天井までとどくガラス窓に目を向ける。  眩い。  時間の停まったような陽のきらめきの下に、停滞した海が見晴らせる。 「数日間も、無断欠勤したあげくに、やっと出てきたと思ったら、警察の事情聴取を受けたですって――どういうことなの。シラっとしてないで、キミを担当している、私に、そのムネを断っ

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.3

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.19

           大勢の若い子たちと知り合う中で、婦人警官から女性刑事になった女子がいました。先に、お断わりしておきますが、人物設定で彼女と類似した点はまったくありませんと言えば、ウソになります。  背が高く、美人で、骨格がしっかりしていました。  つたない私の小説に登場する警部補の女性刑事とはまったく異なる気質の女の子でした。  気取らない性格で、だれとでも気軽に話していました。男っぽいわけでもなく、女らしいということもなく、何事にもこだわらず、あっけらかんとしていました。目立つ服装をし

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.19

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.2

              4  午後五時半、すでに日は暮れている。  階下に二世帯、階上に二世帯。錆びた鉄の階段を見上げる。  笑い声や怒鳴り声にまじって、テレビの音や煮炊きをする音が騒がしい。  交番裏の公衆トイレと似通った悪臭が、路地奥に建つアパート周辺にも漂っている。水洗トイレ用の下水管が、いまだに布設されていない地区だと聞いていた。バキュームカーで汚物は吸い上げても、生活用排水はそのまま、溝に流れこんでいるのだろう。  懐中電灯がなくては、足元や通路の状況がはっきりしない。  汚水

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.2

          【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.18

           やはりnoteのAIサマのお気に入りリストには入れてもらえませんでした。この身を委ねようと、粉骨砕身しても、ルビさえまともに記入していただけず、なぜか、柳沼深雪と書いて、夫にルビ(カタカナとひらかな)をふってもらうと、まるかっこの中に(やなぎぬまみゆき)となり、服部海人は(はっとりうみひと)に。  正しくは、〝やぎぬまみゆき〟と〝はっとりかいと〟です。  実は、ワープロであっても、私はルビが記入できないのでしかたなく、長編小説では〝会堂〟と書いてうしろに(ジナゴク)と書いて

          【エッセィ】蛙鳴雀躁 No.18

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.1

              1  寒風をまとい人ひとり通れる、急な階段を服部海人(はっとりかいと)は飛びこむように駈け降りる。がたぴしと鳴る木の扉をこじ開ける。一瞥で見渡せる穴ぐらに近い店内。どきついスポットライトにおあつらえむきのダミ声が耳につく。カラオケマイクにかじりついたハゲ頭が目にとまる。  派手派手しい着物姿の英美子が、ハゲ頭のわきにはべっている。リカちゃん人形と相似形の顔立ちに濃い化粧をほどこし、ひとつに結い上げたクセのある栗色の髪に赤い櫛をさしている。  息子としては、「ちん

          【小説】コーベ・イン・ブルー No.1

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.17

           noteをつかさどっているのは、目に見えないAIサマだと独断と偏見で判断しています。このAIサマは、認知症気味のバァさんの思い通りにならない。意のままにしたいと思うほうが間違っているとわかっているのですが……。それでもなんとか、AIサマと折り合いをつけたいと悪戦苦闘したこの2カ月半。  巻き添えをくらった夫は長時間、椅子に座りつづけた結果、ひどい腰痛に悩まされる異常事態に。  男性にもヒステリー症状があるようで、パソコンの前に座ると、ギャンギャン吠えるようになりました。連動

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.17

          ボーイ・ミーツ・ボーイ 最終話 (8/8)

          8 一本の角は折れ 一本の角は笛のように天心をさして嘯く。  「鬼の子は俺じゃない おまへたちだぞ」          金子光晴詩集より  名なしの店を訪れた翌日、おれは筋トレ用のトレーニングチューブで遊んでいた。フラットバーで足を鍛えていたケサマルがそばにやってきて、スクワットをはじめた。 「なんで逃げへんねん。キモイおっさんやないか」  こういう暴言を吐いても、許してもらえる相手が友だと言える。「……2度目となるとなぁ」 「あの黒服に見張られてんのか」 「金がないから、

          ボーイ・ミーツ・ボーイ 最終話 (8/8)

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.16

           拙文というより駄文の「ボーイ・ミーツ・ボーイ」の最終回は、まだ1行も書いていません。  どうーするよと焦ってはいるのですが、何も思い浮かばない。  だれを犯人にするかも決められない。  描写と構成(起承転結)が小説の基本であると、えらそうに人にも言い、自分にも言いふくめてきたのですが、納得のいく結末が、このトシになっても思いつかない。  そもそもが尻すぼみになる小説しか書けないわけですから、こういう事態に陥っても至極当然。  お目通しくださっている方も限られていることだし、

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.16

          ボーイ・ミーツ・ボーイ (7/8)

            7 ほかの人間のことは私たちはもはや興味を引かれなかった。         バタイユ  世間サマなんて、目に見えないものを怖れるほどジジィじゃない。女の子より、ジュンが好きというだけなんだと思いこもうとした。  黒の透き通るスカーフは、おれの部屋の机の引き出しにある。燃やすべきかもしれない。  決心がつかない。  悩める男子の心の揺れが、仲間には伝わるのか、おれの席を真ん中にして、ぐるりを取り囲む。 「親には言えないよな。男と寝たいなんてサ」  保田は机に肘をつき、ワ

          ボーイ・ミーツ・ボーイ (7/8)

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.15

           2月14日午後1時開演。花組公演『アルカンシェル』。  千秋楽はもう少し先ですが、私と娘たちにとって、れいちゃん (柚香光様)&まどかちゃん(星風まどか様)の舞台を観る最後の日となりました。 「コンビもえ」という俗語がありますが、まさに彼女たちがそれでした。  この2年半、愉しませてもらいました。    本作の演出家である小池修一郎先生は、二人をさして、「正しく運命の神が定めたコンビ」と公演プログラムに書いておられます。  宝塚大劇場で『うたかたの恋』は三度、上演されてい

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.15

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.14

           ご縁があって、20歳から23歳くらいの男女と接する機会が、25年近くありました。総勢で、200人以上の子たちと出会いました。いまも、30代になった男子2人が、月1の割合で、拙宅にやってきます。  なんの肩書きもない、高卒ババァが好き勝手にしゃべりまくるだけなのに、腹も立てずに辛抱づよく聞いてくれます。  2人に、1度も言ったことはありませんが、感謝しています。  介護職と変わらないので、時々、気の毒になりますが、彼らの訪問がなければ、とっくの昔に書く作業をやめていたかもしれ

          【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.14