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物語の作り方 No.5

7)テーマ(物語の主軸となる思想)の発見。

 前回、思い起こした事柄(エピソード)を時系列に番号をふることができましか? これまでの作業で、自分が何を物語ろうとしているのか、漠然と見えてきましたか?
 ワカランと答える方がほとんどであっても当然だと思います。
 メモを積み重ねた状態では、プロット(あらすじ)と呼べるものを書き上げたわけでもないし、ましてや自分がこれから綴りたい物語を通して何を訴えたいかもさだかではないと思います。

 何を訴えたいか。

 読み手に伝えたいメッセージ(テーマ)は意識下にはあるのですが、表層意識には容易に語りかけてきません。若くして作家になられた方は、この問題をなんなくクリアしているように見えます。おそらく彼らはストーリーを思いつく以前に、体験や読書を通して疑問に感じた事象の意味を、あきらかにしたいという思いを心のどこかでもっていたのだと想像します。そして、その思いをストーリーに組み入れることができたのだと。それを才能と呼ぶのかもしれません。
 
 私の下手な例文をおおざっぱに要約すると、「裏切りは私に孤独を教えた」ということになります。
 これから派生した一文、ないし、類型のエピソードがテーマを表現することになります。
 志賀直哉の傑作短篇「城の崎にて」を、例に上げますと、この短篇のテーマは、「人生は不条理である」だと思っています。しかし、この文章は作中に書かれてはいません。読み通すとわかるようになっています。メッセージをそのまま表現せずに読者に語りかけています。運不運は偶然なのだと。(次回、「城の崎にて」は起承転結を使って分析します)

 訴えたいメッセージはできるだけ、短い簡単な文章でいいのです。
 自らつくった短いエピソードの数々(モチーフ)を繰り返し読んでみてください。キーワードとかかわるメッセージがかならず見つかるはずです。
 見つかりましたか?
 これが、いまから書きたいと思う自分史や小説のテーマ(主題)を表わしていると思ってください。しつこいようですが、この一文を作中に書き入れるわけではありません。この思考が、根本にあって物語が組み立てられるのです。

8)モチーフとテーマの関連について。

 仮に、自分自身と家族について書きたいと思うとします。まず、過去に体験した出来事を年代順に列挙し、全体像を考える。問題なのはここからで、この物語を通して、書き手であるあなたが、心の奥底で何を考え、欲しているのかを真剣に考えます。
 もうおわかりだと思いますが、家族への愛、感謝など当たり障りのない思いだけではないはずです。家族へ残す言葉として書くなら、それもいいかと思います。家族以外の人にも、読んでもらたいと思うのであれば、自らに問わなくてはならないことが、いくつもあると思います。
 読者の心を動かすために書くのではないと反論される方も多くおられると思います。
 どれほど仲の良い家族であっても、光と影の両面があります。一面だけを追うとそれこそ真実から遠退きます。
 物語の95%はハッピーエンドで終わります。しかし、そこに至るまでに、紆余曲折がかならず描かれています。
 
 ときどき、自分ほど幸せな者はいないとおっしゃる女性が教室にやってこられました。高学歴で高収入の男性と結婚しておられる方に見られる傾向です。それとは逆に、息子さんの結婚が遅れている一事で、この世の不幸を一身に背負っているようにおっしゃる女性もおられました。
 どちらも、ご自身の気持ちを正直におっしゃっているのだと思いますが、エッセイにも言葉通りのことが書かれていると、ヘソ曲がりの私は「本心はちゃうやろ」と思い、その箇所を指摘していました。激怒される方、大泣きされる方とさまざまでした。もっとも印象に残った方のひと言は、「私は医者の妻です!」という絶叫でした。「それがどないしてん」とは言いませんでしたが、やってられんという表情になったと記憶しています。
 光ばかりの人生も、影ばかりの人生もないと思っているからです。
 このことに異を唱える方は少数だと思っています。
 他人事なら、よくわかるのですが、自分と家族のことになると、多くの人は真正面から取り組み、言葉にすることをためらいます。
 たとえそれが小説という形式であっても同じです。美化されるか、矮小化されるかのどちらかに傾きがちです。

「家族」とは題材(モチーフ)であり、物語の主題(テーマ)ではありません。これを具象画で説明すると、モチーフは描く対象物――人や物や風景であり、テーマはそれを描くことで画家の内面に隠された思考をカンバスの上に表現することです。
 音楽でいうなら、主旋律(テーマ)は繰り返し、奏でられます。
 物語においても、題材であるエピソードの一つ一つにテーマ(あたなの主観)がこめられてこそ、読む人の心に訴えかけることが可能になります。これをピンを止めると言います。

     どのエピソードもテーマとかかわる

エピソード エピソード エピソード エピソード エピソード
 起     承①     承②   承③     転結

※注意 短篇の場合、転のところで、ひっくり返します。
「家族を愛する」ことがテーマであれば、転のところで「家族を愛せない」事態が生じさせます。そして結びで(起)にもどします。
 長編の場合は、一章こどに(結)をのぞく(起承転)を意識して、プロ作家の作品は書かれていると思って目を通してみてください。

 朝ドラをごらんになられている方ならなんとなくおわかりになると思います。はじまって、お話がすすんで、ひねりがはいって、どうなるのかとハラハラしたところで、つづきは明日という構成になっています。連続ドラマの場合、(結)はストーリーの終盤までわかりませんが、(転)は毎回かならず描かれています。ここに、テーマに関係するエピソードが提示されています。
 仮に「女性の自立は困難である」というテーマで、描かれるとすると、繰り返し、放送の終盤に自立に困難な事態が生じます。

「水戸黄門」ほど、エンタメ小説のお手本となる作品はないと思っています。一話完結の連続ものとしては非常によくできているからです。

「悪は成敗される」というテーマが、どこに表されているか。

 黄門さまの印篭がかならず出てきます。そのとき、どのような悪人も平伏します。旅のシーンからはじまって、事件が起きて、印篭が登場して、悪人がいなくなって、旅のシーンで終わる。
 一度だけ、テーマの象徴=印籠を出さなかったことがあったそうです。そのとき、テレビ局に苦情の電話が殺到したと仄聞しています。
「遠山の金さん」の場合は、諸肌脱ぎのあと、さくら吹雪の刺青がかならず登場します。ほとんどのエンタメドラマ、エンタメ小説はこのお約束を外すことはありません。

 大半の物語は波乗りに似ていると思います。
 波がくる。それに乗る。また波がくる。乗る。失敗する。最後は必殺ワザが出て成功する。

 現実の人生は成功することは稀です。だからこそ純文学とエンタメ小説に分かれているのだと思っています。考えさせることが目的なのか、たのしませることが目的なのか。どちらの資質が自分にあるのか、何作か書くうちにわかってくると思います。

9)プロット(物語の構想)について。

 シナリオライターのつくるプロットのように詳しく事の顛末が書かれていなくても、だいだいのあらすじを書くようにと突然言われても、書きはじめてもいない小説のストーリーのおおまかな展開を書けるはずがないと多くの方は思われるのではないでしょうか。
 えらそうなことを書き連ねていますが、私はあらすじを書くことが苦手です。ほぼ書き終えてから、とってつけたように書いています。NOTEでみなさんが、物語の前にあらすじを書いておられるのを見て感心しています。

 私がプロ作家になれなかった要因の一つとして、的確なプロットを書けなかったことがあげられると思っています。

 それを、人様に書くように、お薦めすることに違和感以上の無責任さすら感じておりますが、行き当たりばったりで書くクセを自分に許してしまうと、物語の途中で収拾がつかなくなります。それを無視して強引に書き上げたところで、かかった時間のわりには、ろくでもない作品にしか仕上がらないことは体験を通して身に沁みております。

 浅田次郎氏は、「最後の一行を思いついてから書きはじめる」と語っています。
 物語の全体像が頭に入ってからでないと、書き出さないという意味だと思います。

 どうすればいいのか。

 物語の骨格となるテーマ(一文で言い切る文章)に、あらかじめ番号をふったいくつかのエピソード(短い物語)をつけ足していきます。この時、小説に必要な三つの要素を確認します。時代と場所と主人公です。これを「天・地・人」と言います。
 あらすじが書き慣れない間は、せめて、上記の三点だけは意識して、物語のおおまかな流れを書いてみてください。
 書けましたか?
 これがプロットの原型です。

課題⑤テーマがわかる短いプロット(話の筋)を書いてください。

例文)
 テーマ 裏切りは私に孤独を教えた。

 プロット
 小学六年の秋、私は、ときどき遊んでいた女の子に悪口を言われたショックで、仮病を訴え、学校を休む。トシの近いきょうだいも近所に遊び友達も
いない私は、部屋にこもり、母の嫌う暗い絵ばかり書いて毎日すごす。
 ある日、小さな女の子を連れた女の人が家にやってくる。母と女の人は父をまじえて座敷で口論をはじめる。私と女の子は狭い庭で、どろんこ遊びをする。
 汚れた手が臭いと言っては、女の子は笑う。
 女の人は泣いている。
 次の日、母は家を出て行った。無口な父と二人になる。翌日、父は仕事に出かける。私は独りになる。これまで描いた暗い絵をぜんぶ部屋の壁に張る。
 数日後、二度と戻らない言った母が裏口から帰ってきた。
 私は壁に張った絵を破り捨てる。

 駄文を、お読みくださった方に感謝します。


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