見出し画像

真・邪道勇者 その6 (分割版)

引き摺り出されて処刑台の如き玉座の下に、冷徹な女の目線越しに拘束されるなどいつものことだ。

と言いたいところだったが、流石の私もそこまでじゃない。我々はまず情報収集、の前に着替えを購入して潜入した。というのも今回の目的は「潜入」と「誘拐」なので殺し屋と一発でバレる姿ではまずいのだ。

とはいえ、どうしたものか。軽く考えて私は革ジャンとジーンズに着替え、必要な道具(主に殺しの)に関しては上手い事その裏側に隠蔽した。無論、一緒の犬千代も同じく着替える。

文化の違い、というやつだろうか? この辺りでは「和服」と呼ばれる桜色の派手な衣服に着替え始めた。何が良いのか知らないがフリフリの見た目に巨大な帯での胸元の下を締め上げる行為は「現地人の心」を掴んだらしい。主に男連中が多いが女までやれ「可愛い」だの「ああいう子がいてくれたら」などと抜かし出す。

関所を超え町の入り口を通り抜けてもこれだ。やはり、ああいう要領の良さというのが「全てに勝る」というのが真実なのか?

かもしれない。私の作品には自信があるが、読者は「作者が美人女性」と詐称するだけで大金を支払うし、連中のいう神仏がそういったあれこれに適切な裁判なんぞ開きはしない。

いつだって、連中は恵まれた豚に肩入れする。
いつだって、連中は綺麗事を語るだけで、それだけだ。
まして、そういった連中に寄りかかる「その他大勢」というのは「目先の利益」を見るものだ。遥か先を見通せれば「食指を動かす美形がいるか」だけで内実を見もせず都合の良い解釈を求めない。

であれば、犬千代のやり方が「正解」なのか?
本質を見据え、逃げ隠れせず己が道を突き進むのは「邪道」なのか?
王道でない邪道であれば、道を突き進んでも「無駄」なのか?

••••••••••••わからない。この先があるかは知らないが、少なくともやるべき事はやったのだ。後悔は無い。とはいえ、依頼は依頼だ。とりあえず神の依代とかいう我々の金を誘拐せねば。

いやこの場合、略奪が先だったか。
確か、博士の言い分では現地略奪を働き反政府勢力を味方しろとの話だった。私は考えもせず勢いのまま斬り殺す。以前話した通りその結果「領主一人の命」を求められたにも関わらず、衛兵の屍の山が出来た。
まあ、連中の武装は金になったが••••••これからは気をつけるか?

一応、まあ、依頼ではあるしな。
なので、変装というわけだ。理解したか? 殺して良いならさっさと突撃して街の人間を斬り捨てた。今回は反政府組織ということで衛兵は殺し放題なのだが、まあ私の場合「勢いで町長は斬り殺した」となりかねない。

誰が依代かわからないからな。一応情報はあるにはあるが、事前情報が間違う事もままある話。であれば用心に越した事はあるまい。
犬千代のナイフも、高かったからな••••••具体的には衛兵を50人くらい殺し武器弾薬を剥ぎ取り、その上で依頼を達成すれば買い取れる金額だ。

高過ぎる!! 要領の良いだけの連中といい、中華の武器弾薬といい相場が不明だからって好き放題し過ぎじゃないのか? 中身も無いくせに流通を握りさえすれば大きな代金を要求し出す。忌々しい限りだ!!

その点、私は清廉潔白だといえよう。何せ、執筆も殺人も依頼に合わせる。
今の所、執筆は依頼がないが「邪魔な者を消してくれ」という言わば汚れた社会に対する掃除屋みたいな仕事は出来る。物であろうと人であろうと、鳥葬火葬何でも来いだ。

確実に、消し去ってみせる。

それが神だろうと何だろうとな───着替えも済ませ準備が整ったので、我々には邪魔な「民衆を弾圧する衛兵」とやらに挨拶へ向かうことにした。
具体的にはまず夜中に襲撃を行い、執拗なまでに連中の武器防具を奪いつつもまず「神の依代グループ」との対立を煽る構造にした。
つまり、連中の名前を騙ったのだ。

当然、衛兵の属する治安維持機構も燃え上がり、大々的な討伐軍を出す事にした。
軍の規模で言えば3倍を超えると言われる。具体的な反抗勢力の規模は知らないがもし、その話が本当であるなら連中の勝利は絶望的だ。
実際に戦ったからわかるが、アレはキツい。二度とやりたくない。
実際にやった私が言うんだ、間違いない!!

大体が軍というのは基本「擂り潰す」ものであって、正々堂々戦うなど、機会そのものが少数派だ。私のやり口ではまず正面の群に防備を固め、手間取っている間に右翼左翼を囲い込む••••••••••••実際に集団行動を取ればわかるが、前後左右から同時に攻撃されると大抵の集団は五里霧中だ。なので経験を活かすべく衛兵側には全体指揮を取る人物だけに襲撃を仕掛け、いざ戦が始まる段階になっても人材不足による軍の機能不全を叩き起こした。

不全を止めることが出来れば、起こすこともまた可能だ。そうじゃないか?

結果、我々は大勝利を収めた、という訳だ。残念ながら今回は裏方なので表彰式には参加できなかったが、大勢の人間を殺してやったので獲物を狩る充実感は満腹になるまで得られた。満足だ。

そして、今に至る──────玉座に座る女、その娼婦のように熟れた肉体に反し随分と若そうに見えた。というのも、身長が小さいのだ。ちょうど犬千代と同じ位に見えるが、その冷徹な目は段違いの迫力だ。

子供らしくない、というべきか。

やれやれ、こんなおっかない依代なら先に言ってほしいものだ。大体が厄介な小娘ばかり相手をしてどうしろというのか。生憎と私は保育士ではない。

子供が着るようなスカートと花柄のパジャマみたいな服を着ているものの、熟れた肉体がその子供らしさを押し潰す。淫蕩さを隠しもせず求める欲望そのままにいて顔つきだけは子供らしい。

変な小娘だ。服の印象が殆ど無い。

むしろ、熟れた肉体がはみ出てきそう、というのが第一印象と言えるだろう。


「私がジャンビエッタ・ホーデルハイムよ───ハイムちゃん、って呼んでね」


事前想定を考え直すべきだ。間違いない。
我々がすべきは「誘拐」ではなく、この怪物の「退治」じゃないか?





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?